賞金稼ぎとドラゴンメイド(キイロ)【16】
「本音を言ったまでだ! 俺は常に本能に忠実なのさっ!」
忠実過ぎるだろうがっ!
「......まぁ、良いんだがな」
私は肩をすくめた。
どうやら、こいつは単純に馬鹿で当たっている見たいだ。
ただ、馬鹿は馬鹿でも、私にとっては楽しい馬鹿だな。
惜しいなぁ......。
悔しいなぁ......。
この馬鹿に、もう少し早く出逢っていたら、確実に違う半生を歩む事が出来た。
きっと、自分でも考えが付かない様な楽しい毎日が続いたに違いない。
そう思うと......悲しくなる。
でも、だけど......。
「最期に逢えたのが、お前みたいな馬鹿で良かった」
私は満面の笑みで言い、両翼を閉じてから服を脱ぐ。
「......へ? いやまで......それは少し早すぎるんじゃ......」
いや、勘違いするな。
紛らわしい真似をしてはいるけど、違うからなっ!
そ、そのぅ......そう言うのがしたいなら、最期の思い出にしてやっても構わないが。
い、いやいやっ!
どの道、私はそんな破廉恥な思考で服を脱いだ訳ではないんだっ!
「これを見てくれ」
私は背中を彼に見せた。
「......これは、古代魔術か?」
「やっぱり、知っていたのか」
「まぁ、そうだな......これはエグい」
彼は渋い顔になった。
やはり、彼は只者ではないな。
私の背中には、背中一面に大きな紋様が描かれている。
この紋様の意味が分かる時点で、彼の高い博識さが伺える。
伝承の道化師によって刻まれた呪いの紋様は、決して消える事なく私の背に浮かび続ける。
いつか私の命が尽きる、その時まで......。
「これで分かったろう? この紋様が私の背に刻まれ続ける限り......私に自由はない」
唯一、私に自由の二文字が解放される時が来るとしたら、それは死ぬ時だ。
「だから、頼む......ひと思いに殺してはくれないか?」
この苦しみから、解放してくれないか?
お前みたいな男に殺されるのが、せめてもの救いだ。
「......なるほど。OK。分かった」
そうか、理解してくれたか。
「ありがとう」
私は朗らかに笑った。
唯一の心残りは、未だナガオにいる二人の姉。
しかし、姉のアカ姉さんはアルフレド様に気に入られている。
アカ姉さんもまんざらではなかった。
そんなアカ姉さんを、なんだかんだで見守っていたアオ姉さん。
きっと、大丈夫。
ごめんね、姉さん達。
私は......キイロは、先に冥界で姉さん達を見守る事にします。
どうか、お元気で。
私が目を瞑った。
そこから、
ポウゥ......
何か、光の様な物を感じた。
多分、魔法の類いだろうか?
目を瞑り、ただただ今生の最期を待つだけになっていた私には、良く分からない。
「終わったぞ。もう大丈夫だ」
......?
何が終わったと言うのだろう?
敢えて言うのなら、私の人生は終わったかも知れないが、実際に息をしている。
当然、終わってなどいない。
「何が終わったと言う......っ!」
そこで私は息が止まる程の衝撃を受けた。
なんと、彼が彼女になっていたのだ!
「え? え! えええええっ!」
さ、最近の人間は、そっそんな芸当が出来るのか?
「言い忘れたが、お前がドラゴンハーフである様に、私もまた、半分は人間ではなかったりするんだ。これが」
彼......いや、今は彼女と言うべきか? ともかく彼女特有の冗談半分な笑みを軽やかに作りながら、そうと答えていた。
更に彼女は続けて答えた。
「男の時は根本的な運動能力が、女の時は桁違いの魔力が出せる。魔族の血がそうさせてるんだろうな......ま、私にも良く分かっていないんだけどさ」
そこまで答えた彼女は、再び男の姿に戻って見せた。
間もなく、泉の様に溢れる様な穏やかさを見せつつ、彼は私に答えて見せた。
「お前の背中を鏡で見てみろよ。もうお前が苦しむ要因はないからさ」
小粋な言霊を軽やかに飛ばす。
「......」
まさか、そんな事が......可能なのか?
もはや驚きばかりが、私の思考を何歩も先を行っていた。
絶対に無理だと諦めていた事を、平然と簡単にやってのげた彼に、私は何と答えるのが正しいのか? それすら分からなくなっていたのだ。
「そ、その......」
「ありがとう......で、良いさ」
言葉を選ぶ私に、彼はニッ! と笑顔で答えた。
ドキッ! と、心臓が跳ねた。
間もなく、トクントクンと高鳴る鼓動を激しく感じた。




