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賞金稼ぎとドラゴンメイド(キイロ)【14】

「しかし、洞察力だけで私をどうにか出来ると考えているのなら......愚かとしか他に言う事はできないな」


「......やれやれ。やっぱり血の気が多い種族なんだろうな。強さにこだわるとか何とか......そんな事を聞いてた事はあったけど、結局はお前もそう言う類いのヤツなんだな......」


 男は顔で仕方ないと言う様な仕草を見せてから、またも落胆めいた吐息を吐き出して見せた。

 何だろう......明らかに私を小馬鹿にしている様な態度だ。


「ちょっと場所を変えるか......ここだと、少し近所迷惑だ」


 惚けた様な笑みをやんわりと作ってから嘯き加減の台詞を口にしていた。

 簡素に言えば、


「......私と戦うつもりなのか?」


 やっぱり馬鹿だった様だ。

 

「そうだな。本当はもう少し話が通じる相手だと思ってたんだがなぁ......くそ、面倒くせぇ......」


 男は苦々しい顔になる。

 怖いのではなく、純粋に面倒臭い。

 ただそれだけに見えた。


「......良いだろう。その蛮勇を買って、場所くらいは貴様の好きにさせてやる」


 そこが貴様の墓場になるのだからな。


「そうしてくれると助かるかな......はは。まぁ、ここにはもう暫くは厄介になりたいんでね」


 余裕だな。

 どうして、この男にここまでの余裕があるのか分からない。

 何か秘策でもあると言うのだろうか?

 しかし、所詮は人間のやる事。

 どんな秘策があるのかは知らないが、何をやったとしても高が知れている。

 結果が変わるとは到底考えられなかった。


 男に案内される形で、私は徒歩十分程度の所にある教会前にまでやって来た。

 文字通り、墓場もそこにあった。


「これで葬式の手間は省けるな」


「悪いが、死ぬ気はないな」


 比較的広い原っぱになっていた、教会前の広場にやって来た所で男は止まると、穏やかに笑って私に言う。


「じゃあ、やろうか。素直にここまで来てくれた事を思うと......うん、まぁ、いいや。取り敢えず、お前の場合は口で言うより直接ハッ倒してからの方が良いって事だけはわかったしさ」


「......もう、勝った気でいるのか?」


 気が早い以前の問題だ。

 どれだけの自信家なのだろう?


「ああ。勝てるね。来いよ、可愛いドラゴン・ハーフちゃん。出来れば違う出会い方をしたかったモンだね」


 本当に......大した自信家だ。

 男は微笑みを作りつつ、戦闘態勢に入った。

 ただ、仕草を見せただけで、攻撃は一切して来ない。


「何がしたいんだ?」


「何って、喧嘩? まずは様子を見てるトコかな。折角の美人を相手にしてるんだがらな。少しは楽しみたい訳だ。俺としてはさ」


 つまり、先に攻撃させてやる......とでも言いたいのだろうか?

 呆れる程の馬鹿野郎だ。


 その自信を、一瞬で消し飛ばしてくれる!


 私は一気に間合いを詰めて、男を蹴り飛ばそうとした。


 ブンッ!


 軽やかに避けた。

 いや......避けた、のか?


 私の視点からだと、それは動いている様には見えなかった。

 柳を相手にしているかの様だ。

 まるで手応えがない。


「とああぁっ!」


 蹴りを避けられた私は、すかさず両腕で数発程度の連打を放つ。

 

 スッ......と、当然の様に避けて行く。

 いや、避けると言うよりも、私が自分の意思でわざと男に当たらないパンチを打っている様にも見える。


 幻覚でも使うのか?

   

「うーん......もう、やめないか?。出来れば、可愛い君の顔を傷付けたくはないんだが」


「うるさいっ!」


 やる気のない顔をアリアリと見せ、さっきから人の心を揺さぶる様な台詞を無駄に吐き出す男がいた。


 そもそも、可愛いを連呼する時点でおかしいとは思わないのか? 仮にもお前を殺そうとしている私に、だ!

 

「人間相手にこんな技を使うのは気が引けたが、仕方ないっ!」


 叫び、私は口から紅蓮の炎を吐き出した。


 ボウゥゥゥッ!


 鋼鉄をも一瞬で溶かす炎は、強烈な火炎放射として男の全身を焼き尽くす。

 ......筈だった。


 しかし、火炎放射を受けた筈の男は、消し炭どころか焦げ目一つない。


「何なんだ? 貴様はっ!」


 動揺が、思わず顔に出てしまった。

 まさか、ドラゴンの炎を受けても全くダメージを受けない人間がいるとは、夢にも思わなかった。


 ......なるほど。

 私が人間を馬鹿にし過ぎたと言う事か。


「凄いぞ、人間。予想以上だ」


「お褒めに預かり、結構な事で」


 男は冗談半分に、私へと返答して見せた。

 ただ、ヤツの自信が伊達や酔狂ではない事だけは分かった。


 つまり、私も本気を出さないとならないと言う事だ!

 

 瞬間、私はこれまで意図的に封印していた、背中の翼を解放した。 

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