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賞金稼ぎとドラゴンメイド(キイロ)【12】

 それが何であるのかまでは、今の二人には分からない。

 しかし、確実に現時点では警戒の対象になる事だけは、直ぐに理解する事が出来た。


 警戒をしないのは、眼前にいるルミ姫様程度の物だろう。

 ルミ姫の防衛能力の無さには、いつも度肝を抜いてしまう。


 衝撃的かつ絶望的な危機感の無さに、何度戦慄を感じたか。

 

 最近は、これがルミの性格なんだと、地味に理解を深めているイリがいたが、そんなふざけた理解をしてしまう自分が悲しいと思えてしまう。


 もはや、ただの喜劇だ。

 滑稽ながら、ルミは能天気だからで納得出来てしまうのだ。


 閑話休題。


 取り合えず、自然な形でイリとオリオンはアイコンタクトを交わす。


 キイロとか言う、良く分からない女が、ルミ姫におかしな真似をしない様にお互い見張るぞと言う意思表示だ。


 そうと考え、いつになく固い表情をしていた時だった。


「ご、ごめんなさい! 私、もう行かないとっ!」


 叫び、涙をゴシゴシと両手で拭ってから、足早に立ち去るキイロがいた。


「……は?」


 ポカンとなった。

 自分達の予測は外れたのか?

 そうとさえ思えた。


 普通に考えたら、今がルミをさらうチャンスである筈なのだ。

 ここで、泣きながら謝った後、まるで逃げる様に立ち去っては行けない筈の人間なのだ。


 それが……何を根拠に去ってしまったと言うのか?


 事情は良く分からないが……。


「危機は去った……で、良いのか?」


 曖昧な声音でイリが言う。

 これにオリオンも実に曖昧な顔になって返事する。


「……多分、そうなる?……のか?」


 口から出て来た言葉も曖昧だった。


 その後、キイロがそれとなく尾行して来るかと、周囲に気を配るイリとオリオンの二人がいたのだが、結局その日は最後まで彼女らしき人物を見つける事は叶わなかった。




  ⬛キイロ⬛




 ………。

 不覚だった!


 自分でも捨てていた………心の片隅にあった感情が、泉の如く溢れ出てしまった。

 

 分かっている。

 今の私が……元の半龍として生きる選択肢などない事を。


 重々、理解もしている。

 もう……かつての私には戻れない事も。


 なのに……それなのに。

 私の心が大きく激しくきしんだ。

 

 ナガオの家で従事する事になり、感情と言う物を全て抹殺して、心の中から完全に追い払った……払い切ったと思っていたと言うのに。

 それでも、尚……ルミ姫の輝きは、既に死んでいた筈の感情を甦らせてしまったのだ。


 結局、私はいたたまれない気持ちになってしまい、その場から逃げる様に離れた。


 いや、違う。


 完全な逃走だった。


 ルミ姫からすれば、とりとめのない台詞だったのだろうが、私にとってその言葉は、どんな責め具よりも過酷で……苦痛だったのだ。


 だが、しかし。

 当然ながら、目的を遂行しないで終わらせる事など出来ない。


 あんな……きらびやかな宝石箱をひっくり返した様な姫に、再び会わないと行けない事が、私には耐えられない恥辱だった。


 それでも尚、私は死よりも苦しい恥辱に耐えないといけない理由がある。

 私には二人の姉がいた。


 やはり、私と同じ運命を辿り、現在は同じ境遇の元でナガオ家に無条件の服従を誓っているのだ。

 この二人がナガオ家にいる限り、私に自由の二文字は存在しないのだ。


 一応ではあるのだが、私は数枚の地図をアルフレド様の側近から渡されていた。

 ルミ姫様がいると思われる所在地の候補地が、そこには記されていた。


 見る限り、一番の候補地はニイガでも有名な国立ホテル。

 ニイガ王も、他国の首脳陣がニイガを訪問した時の晩餐会等で良く使うホテルだ。


 設備も充実している上に、護衛もしっかりとしている。


 リストを見ると、三人の宮廷騎士テンプルナイツが守護に当たっていると記されている。

 但し、この三人はニイガ王子の息が掛かっており、場合によっては味方にもなると言う。


 ……どこまでも腐っている国だと、思わず吐き気で胸が詰まりそうになる。


 ここまで腐敗が進んでいるのなら、ニイガが滅亡する日も早々遠くはないのかも知れない……などと、さして興味の無い事を考えた。


 同時に、この第一候補はないと私は予測した。

 ルミ姫は確かにどこかポケーっとしているふしがあるのだが、それでいて敏感な一面もある。


 確実に何かを感じ取って、このホテルに宿泊すると言う選択肢を自分で消していると思えた。


 そうなると、次の候補地なのだが……。


「うーん……」


 候補地は二つある。

 しかし、どちらも……おおよそ、一国の姫君が宿泊する筈もない場所だった。


 この地図は……本当に当たっているのだろうか?

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