賞金稼ぎとドラゴンメイド(キイロ)【11】
確かに可愛い。
姫がチョイスしただけはある。
そこはかとなく気品があり……何よりお洒落だ。
こんな服を着て、いつか街を練り歩きたいと思う彼女がいた。
しかし、それでいて彼女は思う。
戦闘には向いてないな……と。
現状の彼女は、お洒落がしたい訳ではない。
場合によっては戦闘も予測の範疇内にある今、服装はなるべく動きやすい物にしないと行けない。
そこから、彼女は自分なりのチョイスで新しく服を着替え直す。
「……うーん。まぁ、格好は良いけど、なんか男の子みたい」
パンツルックにシャツと言う格好に着替えた彼女を見て、ルミは少しだけ不服そうだ。
「ごめんなさいね。私、こう言う服しかあんまり着ない物だから……」
言い得て妙だが、この言葉は正確だ。
今の彼女はメイド服以外は、ラフで身体を動かし易い服ばかりを着ている。
可愛くお洒落を楽しむと言う選択肢も……今の彼女にとって消滅した選択になっていたのだ。
不意に涙が出そうになる。
当然、耐えたが……同時に切なさも心の中に芽生えた。
一国の姫君なのだから仕方ないのかも知れない……けれど、思う。
自分の何と惨めな事か!
己の身に危険が迫っている事は、既にルミ姫も存じていると言うに、悠長な行動を呼吸するかの様に平然とやってのけている彼女。
明るく穏やかで……そこはかとなく品もあり、美しく優雅だ。
しかも、一切鼻に掛ける事もない。
それに比べて……今の自分は……。
「うん? どうしたのですか?」
「……あっ! い、いえっ! 何でもありません!」
無意識に歯を喰い縛っていた時、ルミが不思議そうな目をして彼女を見た。
これに彼女はハッとなって愛想笑いをして見せた。
いけない。
今は余計な私情を慎むべきだ。
思考を元の状態に戻して見せる。
「そう言えば、まだ名前を聞いてませんでしたね?」
ふと、ルミが思い付いた様に言う。
言われて納得だった。
いきなりパフェを頭から掛けられると言う、前代未聞のアクシデントのせいで、うっかり自己紹介するのを忘れてしまった。
「私の名前はキイロです。訳あって性は今の所、消滅しているのですが……」
「消滅ですか?」
ルミは彼女……キイロに言葉にキョトンとなった。
自分の名前が消滅する。
そんな不思議現象がある物なのだろうか?
「……ふむぅ」
小首を傾げてから……ああ、場合によってはそう言うのもあるなと言う結論に到達する。
例えば、貴族等の高名な家系に産まれた人間が、なんらかの理由で絶縁する羽目になった時は、その名前を名乗れなくなる時もある。
簡素に言うのなら、勘当されてしまった、元貴族の人間等がこれに該当した。
「……そうか」
ルミは少しだけ哀れみの瞳を見せた。
「……っ!」
その哀れみが、何を意味するのかなど、今のキイロには理解する事が出来なかったのだが……確実に言える事が一つだけあった。
貴女にだけは、そんな目で自分を見て欲しくなかった……と。
侮蔑の目で見られるならまだしも……今の不憫な自分の境遇をまるで見透かす様な哀れみの視線は、キイロの心に激しく突き刺さった。
「今の私が知ったかぶりで物を言っては行けないと存じておりますが……でも、大変な想いをされた事だけは分かります」
「……やめて」
「いつか、きっと貴女にも幸せな日々が訪れる事を、私は心から願います」
「やめてぇぇぇぇっ!」
にっこりと微笑みながら言ったルミに、キイロは悲痛の叫びを無意識に放ってしまった。
瞳から、大量の涙も流れていた。
「ご、ごめんなさい! わ、私……キイロさんに、とんでもない失礼な発言をしてしまいましたか?」
「い、いえっ! とんでもないです! そんな事は全くございませんから。あははっ!」
キイロは誤魔化し笑いにも似た笑い声を出した。
けれど……何処か自虐的な……悲しい笑い声に聞こえた。
少なくとも、二人の会話をそれとなく近くで聞いていたイリは、そう感じていた。
程なくして、イリは神妙な顔になって近くにいたオリオンに囁いて見せた。
「あの女……人間じゃねぇ」
「……だよな」
イリの言葉に、オリオンも即座に肯定して見せる。
前に説明していたのだが、イリやオリオンの性別が自由に変えられるのは、この二人が完全な人間ではないからだ。
イリやオリオンには魔族の血が混じっており、その魔族の血が二人の性別を意図的に変える能力をもたらしていたのだった。
……故に、気付いたのだろう。
目前にいたキイロに、自分達に近い何かを……だ。




