賞金稼ぎとドラゴンメイド(キイロ)【9】
それよりも、本題は目前にいる三人だ。
情報によれば、やたら背が高く、体格の良い男の名前がオリオン・トリス。
オリオンよりは背が低い物の、それでも長身の部類に入る男の名前がイリ・ジウム。
そして、二人の間にいる女性こそが、今回の標的に当たるルミ・トールブリッジ・ニイガ姫。
彼女の最終目的は、このルミ姫を拐って行く事だ。
ルミを守る二人がいるのだが、この二人への対処法は何をしても構わないと言う。
つまり、どんな手段も厭わない。
場合によってはルミを守っている二人を殺しでも、ルミ姫をナガオへと引き連れて来い言うのが、今回の彼女に課せられた任務であった。
「………」
そこまで考えた時、彼女の中に強い嫌悪感が生まれた。
ハッキリ言って不本意極まりない。
元々彼女は、誇り高き金色のドラゴンと共存する街で生まれた豪族の娘。
言わば、有力貴族の娘と遜色のない人物でもある。
そんな高貴な血筋の彼女が、野盗紛いな真似を強いられていたのだ。
これが屈辱でない筈がない。
しかし、この案件を完遂する事は絶対なのだ。
今から数年前、拉致同然の状況でこの大陸へとやって来た彼女は、自分を拉致した張本人にして犯人でもある伝承の道化師によって、凶悪な呪いを掛けられてしまったのである。
この呪いにより、彼女はナガオ自治領を治める領主の息子のメイドとして従事する事を強要されて行くのだった。
領主の息子にして、自分の主でもあるアルフレドに絶対服従を誓っているのは、この呪いが原因であった。
少しでも抵抗した物なら、死ぬ程苦しい苦痛が待っている。
場合によっては、死んだ方がマシと思われる様な辱しめを受ける事すら現実として予測出来た。
少しでも想像しただけですら、身の毛がよだつ様な、想像を絶する辱しめだ。
一時は自害も考えたが、その選択肢すら、呪いによって消滅していた。
なんとも口惜しい……絶望的な状態だ。
いつか、この呪いを解く……その日まで、彼女は不本意ながらアルフレドに完全な服従をしなければならなかった。
「……さて、どうした物か」
彼女はそれとなく三人の挙動を遠くから観察してみる。
見る限り、三人は突発的なアクシデントがなかったのであれば、普通に眼前のカフェテラスでお茶と軽食を楽しもうとしていた模様だ。
実質、素性も良く分からないゴロツキの様な男二人が逃げる様に立ち去った後は、これまでの予定通りにカフェテラスの席に座り、注文していた物を待つと言う形を取り初めている。
すると、ここで見張っているかの様に立っているだけでは、少し怪しまれる可能性があった。
そこで彼女もまた、一般客を装って、三人の近くの席に座って見せた。
取り合えず、一般客のフリとは言え、ちゃんと席に座っているので、紅茶辺りを軽く注文して見た。
しばらくすると、頼んでいた紅茶が自分の元にやって来る。
軽く紅茶を口に入れた。
存外、美味しい。
「もう一度位なら、この店に来ても構わないかも知れないな」
ほんの少し口許が緩み、無意識に心が和んでいた……その時だった。
「あぶないっ!」
男の声がした。
声の主は、確か大柄の男……オリオンとか言う人物だった気がする。
そんな事を軽く考えていた時だった。
………べちゃ!
空からパフェが降って来た。
その余りの想定外の出来事に、彼女は唖然となってしまう。
「………」
「ああああっっ! す、すいませんっ!」
直後、彼女の標的となるルミ姫の声がやって来る。
一体、何がどうなると、頭上からパフェが飛んで来る様な珍事が発生すると言うのだろうか?
思わず、色々と予測して見たが、全く見当を付ける事が出来なかった。
⬛ルミ⬛
良く分からないけど、逃げてくれた変な人達。
どうも、ツインフェイスデーモンと言うイリの通り名が原因みたいだけど……良くわかんないや。
まぁ、ともかく。
これで安心して、ニイガの絶品スイーツを堪能出来るね!
ニイガは、他の国と違って色々と魔導が発達しているんです。
なので、この国には保冷可能な施設や設備がどの店にも常備されているのでありますっ!
これが何を意味するのか?
新鮮なお野菜やフルーツを長期間保存する事が可能なばかりか、冷たいデザートやお菓子まで簡単に作る事が出来てしまうのですっ!
一応、この冷凍システム自体は他の国にもある事はあるのですが、ニイガ製品なので、相応の課税が課せられます。
簡素に言うと……高くなってしまうのですっ!
お父様も少しは関税を引き下げてくれても構わないんじゃないかなと……私は思うのですが、ニイガの技術を安売りする事は、そこで頑張っている職人さん達の努力を安売りする事になるからダメだって言うのです。




