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プロローグ【3】

 標的に向かって歩き出したイリに、乗客に扮したボディーガードの数人が素早く彼の前に立ちふさがる。


「……アンタらの相手はアッチな? 俺は、そこのデブに用事があるから」


 イリは軽くオリオンを指差して答えた。

 彼ら二人の中では、標的ターゲットの周囲にいるボディーガードはオリオンが相手をする事になっていた。


 飽くまでも、イリとオリオンの間での話であったが。

 当然、相手からすればそんなの知った事ではない。


「ふざけるなっ!」


 イリの眼前に立ち塞がる数人は、服の中から各々の武器を手にしてイリへと襲い掛かる。


「……はぁ。だから、お前の相手はアッチだって言うのに」


 分からないヤツだな……と肩を落とし、眼前の男が振り抜いて来たショートソードの一撃を紙一重でかわすと、その勢いのまま、


 ゴッッ!


 男の鼻頭に拳をぶつけた。

 イリの正拳を受けた男はそのまま吹き飛んで、列車の壁に激突していた。


「……っ!」

 

 いきなり吹き飛んだ味方に、思わず怯んだ二人の妨害者。

 その隙を見逃さず、イリは二人の頭をそれぞれ右手と左手で鷲掴みにした。

 

「おぉぉらっっ!」


 鷲掴みにされた二人はそのまま列車の車窓まで強引に引き込まれ、窓ガラスに頭を叩きつけられた。

 

 ガシャァァンッ!


 窓ガラスに顔面から突っ込んだ二人は、そのままガラスに突刺さる形で卒倒した。


「こ、このぉ……」


 アッサリ昏倒した三人を見て、少し腰が引けたボディーガードは、しかしそれでも後方から数人が加勢する形でやって来ると、再びイリの前に立ち塞がる。


「……チッ……ちゃんと仕事しろよな、オリオン」


 イリは舌打ち混じりになって、目前にいた数人に向かって右手を向けた。

 

「面倒だ……吹き飛べ」


 顔でも面倒臭そうなになっていたイリは、頭の中で魔導式を紡いでいた。


 火球魔法ファイヤーボール


 ドォォォォンッ!


 イリの右手から直径一メートル程度の火炎の球が飛び出して、眼前にいた数人が吹き飛ぶ。

 見た目は派手だが、そこまでの威力はないのか? 列車は止まる事なく運行を続けていた。


 他方、吹き飛んだ数人も爆発によるダメージはそこまで高くはなかったらしく、行動不能と言うレベルではない。


「……チッ。やっぱり男の時は、どうしても魔力が低くなっちまうな」


 イリはぼやきに近い声音を口から吐き出した。

 この言葉の意味は、本編でしっかり説明する予定なので、ここでは軽く読み流していてくれると幸いだ。


「仕方ねぇ……直接、ぶん殴る!」


 言うなり、火球魔法ファイヤーボールで倒し損ねた相手を素早く拳で打ち倒して行く。

 殴られた相手はことごとく吹き飛んでは車内の壁に背中をぶつけて行き、そのまま力なく倒れていた。


 そうこうしている内に、後続の増援も打ち止めとなる。

 どうやら、ちゃんとオリオンも仕事をしているらしい。

 

 軽く後ろを見れば、敵と思われる人物が死屍累々状態で倒れているのが分かった。

 さながら地獄絵図と言える。


 そして、前に視線を向けると、標的が急いで脱出しようと三番車両から隣の車両へと逃走を謀っているのが見てとれた。


 どうやら、相手も確実に追い込まれている模様だ。

 これまで、余裕だと思って乗車していたのが運のツキとも言える。

 最初から逃走していれば逃げ切れる可能性もあったかもしれない。


 もっとも……逃げ切れる可能性など、どのみち1%も無かったろうが。


 持ち前の肥えすぎた体躯が邪魔をしたのだろう。

 太った男は本人なりの全力で、急いで隣の車両に続くドアに向かい、その取っ手を手にしていたが、


「おい、ブタ。何処に行く気だ?」


 ドアノブに手を掛けた所でイリに捕まった。

 

「………」


 太った男は額に汗をダラダラ流しながら絶句する。


「えぇと、お前の罪状を言うぞ? 人身売買及び、誘拐。密輸に密猟……よって、貴様を拘束する。俺は衛兵じゃないから、従わない時は」


 そこまでイリは言うと背筋が凍りそうな冷たい笑みを太った男に向けた。


「お前の首だけ頂く。俺にはそれで十分金になるからな」


「……っ!」


「どうするよ? 二つに一つだ。俺は優しいから、選択肢を用意してやる。今ここで俺に殺されるか、衛兵に捕まって、国の法律に殺されるか」


「く、き……貴様ぁっ!」


 太った男は憤怒の形相でイリを睨んだ。

 簡素に言えば、どう転んでも死が待っていた。

 この場で死ぬか、後で裁判に掛けられ処刑されるか、違いはあれ末路に然程の差はなかった。


 ならば、男の取る手段は一つ。

 眼前にいるイリを倒す事。

 これしか、今の彼が生き残る方法などなかった。


 あるいは、どうにか誤魔化してこの場から逃げ出すか。


「金か? 金が欲しいのか?」


 そこで男は閃いた。

 目前の青年は衛兵ではない。

 首を差し出せば金になると言っている所から考えても、彼は賞金稼バウンティハンターぎの類いなのだろう。


 ならば、話しは早い。


 ……思い、太った男は内心でのみ、下卑た笑みを色濃く作った。

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