賞金稼ぎとドラゴンメイド(キイロ)【6】
「ともかく、オリオンも来たなら行くぞ」
むっつりした顔で言うイリがいた。
正直、お姫様のお守りに辟易している部分がある。
取り合えず、仕事だからと割り切る事にした。
「所で、今日の予定は?」
オリオンはそれとない口調で聞いて来た。
イリもそうだが、ルミの予定を全く聞いていなかったのだ。
さっきのイリと同じく、本人に直接聞いて見るか的なノリで聞いていた。
「街でお買い物です」
「……予定はなし?」
「いいえ、お買い物と言う予定があります!」
ルミは気合いを込めて言った。
そして、気合いを入れすぎて頭痛がルミを襲った。
「痛たた………えぇと、でも最初に薬局に行きたいなと思ってます」
「……そうな」
蒼白にして頭を両手で覆っていたルミに、オリオンは短く頷きだけを返した。
心なしか、昨日の悪夢を少しだけ思考の奥底から引き戻したかの様な顔付きになっていた。
「準備は出来てるので、いつでも行けます」
頭を押さえつつ……しかし、やる気だけは人一倍だったルミはオリオンに笑顔で答えた。
でも、やっぱりちょっとだけ元気のない笑みだった。
少し心配になる。
「まずは、ルイグさんのトコに行こうか」
オリオンは心配気味の顔をしつつ、ルミに言って見せる。
ルミの頭にハテナが生まれた。
「さっき言ってた、二日酔いの薬湯に魔法を混ぜたヤツを売ってる薬局の店主がルイグって名前なんだ」
そこで、イリが補足する形でルミに説明する。
ルミの頭に小さな豆電球が生まれた。
「そう言う事か」
「そう言う事……ま、さっさと行って、ちゃっちゃと二日酔いを治しに行こうぜ」
言うなり、イリは自宅のドアを開けて外に出で見せる。
「あ、待って。私も行くから~」
程なくしてルミも外に出て、そこから少し遅れる形でオリオンも出て行く。
「所で、戸締まりとか良いの?」
イリに追い付く形でやって来たルミは、凄く素朴な質問をイリに言って来た。
「安心しとけ。勝手に鍵がしまる」
「自動なの?」
「そう言う魔法があるのさ。女の時は遠くからでも出来る」
「……便利だね」
ルミは少し感心した。
「イリって、実は大魔法使いなの?」
「……さぁな」
ちょっと驚いた顔で言うルミに、イリは少しだけ意味深な笑みを作りつつ、ルイグと言う人物が薬局を経営しているだろうお店に向かって歩を進めて行くのだった。
⬛イリ⬛
仕事とは言え、特にする必要もない外出……つまり、体よくお姫様のお守りをするハメになった私は、オリオンを含めた三人とニイガの街を色々と練り歩く。
まぁ、軽い散策って感じだな。
私にとっては見慣れた街をいつもと同じ感覚で歩いているだけなんだが、ルミ姫様からすると違う。
久しぶりの故郷に戻って来て、王族のしがらみもなく、好き勝手に羽根を伸ばしてるって感じだな。
最初に向かったのは、ルイグってヤツがやってる薬局。
真っ先に向かい、すぐに二日酔いの薬湯を煎れて貰う。
それを苦々しい顔して飲んで行くルミ姫だが、三口目辺りで瞳を大きく輝かせた。
「スゴい! 何これ? 魔法?」
だから、魔法が混ざっていると言ってたろうが。
ただ、気持ちは分からなくもない。
効果がテキメン過ぎるんだ。
一口でも飲めば、一分もしない内に忌々しい頭痛と吐き気が吹き飛んでしまう。
文字通り、吹き飛んでいるんじゃないかって勢いで消えるんだ。
初めての体験なら、確かに驚きに値するのだろう。
「これ、錠剤とかないのかな? あったら、今後の為に何錠か買って置きたいっ!」
取り合えず、三秒で錠剤はないと答えた。
実は売ってるんだが、ないと言う事にした。
理由は簡単だ。
簡単過ぎて、説明する必要がないくらいだろう。
二日酔いの錠剤を求めると言う事は、二日酔いになる事を前提とした行為がある訳だ。
そこに大きな問題があると言う事を、このじゃじゃ馬姫は理解していない。
そこからルイグが余計な事にも薬を勧めようとして来たから、速攻で止めた。
オリオンも全力で止めてた。
分かる……分かるぞ! オリオン!
そんなこんなで、薬局を出た私達三人は、軽くお茶する感じで近所のカフェテラスに来ていた。
ま、軽く小腹が空いてたし、お姫様のお守りを考えるのなら、人通りが多い所の方が都合も良い。
逆に裏通りとか行ったら……正直どうなるか分からない。
ナガオに住んでる大貴族の坊っちゃんだかが、姫を狙っているらしいから、確実に危険がある事だけは分かるんだが……どの程度の規模なのかが分からないんだよな。




