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賞金稼ぎとドラゴンメイド(キイロ)【5】

「……で、ルミ。今日は静かにすると言う選択肢は、今の所ないんだな?」


「今の所も何も、最初からないよ」


 ルミはキッパリ言って来た。

 何処までも人を困らせたい姫様の様だ。

 ……やれやれ。


「まずは、軽くお洋服を買いに行きたいな~。ああ、魔導器のアクセとかも見たいよね。こっちは魔導大国だけあって、凝ってるデザインとか多いしさ?」


 ルミはあれこれと楽しく俺にしゃべくり倒して来た。

 きっと、楽しみにしていたのだろう。


「……けど、まず最初は薬局に行こう。頭が超痛い」


 言うなり、ルミは頭を押さえて苦い顔になった。

 きっと、この二日酔いで不用意に酒を飲む事はなくなるだろう。

 

「薬湯に魔法を掛ける事で二日酔いの特効薬を作ってる店がある。まずはそこに行こうか」


「そうなの? よし、んじゃそこに行きましょ!」


 私達の次の目的が、姫様の二日酔いと言う、どうでも良い内容に決まった。




 ⬛□⬛□⬛




 驚く程に透き通った肌を持つ女性が、街中を歩いている。

 すれ違う者が思わず振り反って見てしまいたくなる程に美しくも、気品のある女性だった。


 そんな彼女の正体が、ドラゴンと人間の混血……ドラゴン・ハーフである事に気付く人物は存在しなかった。


 一見すると、彼女は普通の女性にしか見えない。

 否、正確に言うのなら普通ではない。

 どう普通ではないのか?


 一言で言うと美しいのだ。

 まるで宝石の様な瞳は、黄金色の輝きを見せる不思議な美しさを無言で醸し出している。


 病的なまでに白い透き通った肌は、息を飲む程に端麗であった。

 特徴的なのは瞳だけではない。

 口許を緩ませるとたまに見える犬歯がそうだ。

 八重歯とも違う……見映えの良い生え揃った歯だが、犬歯の部分だけ普通の人間よりも大きくて鋭い。


 見方によっては畏怖に対象にもなりかねないが、魅力の一つとして考えると、どこか神秘的な優美さがあった。


 一番の違いは、頭に生えている竜の角らしき物だが……魔導大国の首都だけに、常人には理解しがたい特殊なアクセサリーを好んで着用する者も多い。

 故に、単なるアクセサリーと勘違いされているのだろう。

 

 よって、街中を堂々と歩いても、彼女の半分がドラゴンである事など知るよしもなかった。 


「おい、姉ちゃん」


 街道をゆっくりと歩く彼女を呼び止める男がいた。

 見るからに柄の悪そうな男だ。


 男は、誰が見ても分かる下品な笑顔を無駄に見せつけるかの様にして彼女へと口を開いた。


「近くに良い喫茶店があるんだが、どうだい?」


 ……どうやら、ただのナンパらしい。


 思った彼女は一瞥すると、以後は何もなかったかの様に、再びスタスタと歩き始めた。


「オイッ! 無視すんなよっ!」


 空気であったかの様に、軽やかにスルーして見せた彼女に対し、男は少し眉をつり上げてから、再び彼女へと叫んで見せた。


 存外、しつこい男の模様だ。


「……生憎、私は暇じゃないんだ」


 冷淡に一言。

 彼女は汚物を見るかの様な目で顔をしかめた後、半分義理で口を動かしてから、再び歩き出す。


 そして、またもや男が止めようとしたその時。


 ゴッッ!


 鈍い音と同時に、男の顎が思いきりへしゃ曲がる。

 

「あがぁひゃっ!」


 折れると言うより、粉砕されている様な勢いに顎がおかしな事になっていた男は、口から滴り落ちる様な血を流しながら、その場にうずくまった


 完全に座り込む男を尻目に、最初から無かったかの様な勢いで、彼女はスタスタと街の人影の中に消えて行くのだった。




  ⬛□⬛□⬛




 イリとルミの二人が、よそ行きの服装に着替えて軽く化粧を済ませた所で、オリオンが自宅前までやって来た。


 コンコンコンッ!


「おはよーさん」


 ノックをして、ドアを開けて間もなく、オリオンは友好的な笑みをやんわりと浮かべながら答えた。


「お早うございます、オリオンさん」


 ノックの音がして、すぐにドアを開けたルミが、挨拶して来たオリオンに、挨拶を返してみせた。


「お、今日は少し色っぽいね! 何てか、新鮮だな」


 外行きに軽くメイクアップしていたルミを見て、オリオンはにっこりと素直な感想を口にした。

 そこからイリを見た。

 女性になっていたからなのだろうが、イリも密かにメイクを施していた。


「……お前までやらなくても良いと思うんだが……」


 オリオンは少し引いていた。

 きっと、普段から男として一緒にいる時間が長すぎて、女装チックな感覚になっていたのかも知れない。


「うるさいよ……ちょっと、ルミにメイクの仕方を教えてやったら、私もお手本としてメイクする羽目になっただけだ」


 そもそも、オリオンだって女性の時はメイクするのだ。

 しかも、綺麗にやってのけるのだ。


 イリの視点から言うのなら、お前には言われたくないと叫びたい。

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