賞金稼ぎとドラゴンメイド(キイロ)【4】
「……うぅん……」
……うん?
能天気な姫が我が儘全開で勝ち取った俺のベットから声を上げ、ぽーっとした顔のまま、むっくりと上半身を起き上がらせた。
ったく、コイツと関わってから以降……ロクな目に遭わない!
「やっと起きたか、寝坊姫……」
時計を見れば、朝の九時を少し回っていた。
簡素に言うのなら、朝食を取るにしたって遅い時間だ。
「……ふぁ……ぅ……おあよ……」
ルミ姫は軽くノビをしながら、私に軽く挨拶をしてみせた。
直後。
「はぁうっっ!」
顔を青くして頭を抱えていた。
うん、まぁな。
「それがお前の罰だと思え……」
だからやめて置けと何回も言ったんだ。
見事に二日酔いしてたルミは、目をミミズにしながら頭を押さえて半べそになっていた。
「うぅぅ……頭、痛いぃ~っ!」
「取り合えず、水持って来るから飲んどけ」
「うん、そうする……」
私の言葉に、ルミはいつになく素直に頷いていた。
まぁ、今は酔いは覚めたんだろうし、少しはマシな人間に戻ってはいるんだろう。
「……ほらよ」
「あ、ありがとう」
コップに水を入れ、軽く手渡すとルミはお礼を言いつつコップを手にした。
そこから言う。
「ここ、どこ?」
まぁ、な?
見事に酔っぱらってたからな?
ここに来るまでの経緯とか、そう言う記憶なんか、遠くお空の彼方なんだろうよ、このじゃじゃ馬はっ!
「私の自宅だ……ったく。ホテルに入ろうとしたら、思いきり我が儘言ってさ……仕方ないから、ここに連れて来たって訳だ」
「そか、なるほど……それともう一つ質問。貴女は誰?」
「お前……冗談にしても笑えないぞ」
私にもう一度、お前に自己紹介しろって言うのか?
「う~ん……多分、イリ?」
「多分じゃなくてもそうだ!」
確か、女だった私の姿も一回は見てる筈なんだよ、お前はっ!
「そうか……それにしても、綺麗だね。男の時もなんだかんだで美形だけどさ? 女の方はもう……美術館に飾ってもおかしくないレベル」
「誉めても、何も出ないぞ?」
むしろ、そこまで言われると気持ち悪いんだが……。
もしかして、姫様……ソッチの気とかないよな……?
「私的にただ、素直な感想を言っただけなんだけどね」
軽く、私が引いていた所でルミが苦笑混じりに言っていた。
多分、ルミも気付いたのだろう。
そして、思ったのだろう。
いや、ないから!
そんなアホな性癖はっ! と。
私は少し安心した。
「それよか、ルミ。今日のお前の予定は? 私としてはソッチのが重要だ」
私は真剣な顔で尋ねた。
組合長にも一応聞いていたんだが、正確なルミ姫の日程とかは知らないと言われた。
そうなったら、直線本人に聞くしかない訳だ。
「そうだねぇ……明日はお父様に会う予定になってるけど、今日の所は特にないかな」
……なるほど。
つまり、今日の所はお姫様が大人しく部屋にいてくれれば、なんて事のない一日に終わるのか。
「だから、街にお出掛けする日って感じかな?」
「……」
私は無言のまま、超絶面白くない顔になった。
「何よ~ぅ。私だって女の子なんだから、ショッピングとかしたいし、久しぶりの地元にわくわくしたい気持ちだってあるんだから」
「そりゃ……まぁな……」
私は憮然とした顔のまま言った。
平時なら、それでも良いだろう。
けど、今のルミは確実に非常事態が起きてるんだからな?
「今のお前の立場ってのを、もう少し考えた方が良いぞ……」
こっちだって、姫様の気分で命懸けのショッピングとか行きたいなんて思わない。
「私をちゃんと守ってくれるんでしょ? イリやオリオンさんが」
「まぁ……守るけどさ……ん?」
そこで気付いた。
オリオンにはさんを付けるのに、なんでか私には付けてない事実に。
てか、昨日までは普通に付けてたろう? なんで藪から棒に?
「おい、ルミ……どうして私の名前にはさんを付けない?」
「え? 私の事も『ルミ』って呼び捨てなのに?」
……ああ、そうなるのか。
言われて見れば、オリオンはルミを『ルミさん』と呼んでいた。
じゃあ、私もルミの事をルミさんと呼称すれば良いのか?
………。
……いや、良いや。
コイツにわざわざ『さん』付けする私が嫌いだ。
何となくだが、負けた気がする。
「OK。そう言う事なら分かった。別に呼び捨てで困る事もないしな」
「でしょ? あはは! イリならそう言うと思って、気にしないでそう呼んでた」
少しは気にして欲しいんだがな。
まぁ、良い。
減る物じゃないからな。
そう考え、私はそれ以上の言及を控えた。




