賞金稼ぎとドラゴンメイド(キイロ)【2】
「やっぱり、貴方には敵わないな……」
アルフレドは苦笑混じりに言った。
実際、何でもお見通しなのだろう。
そして、何もかも額面通りの内容なのだろう。
……ある意味で、恐怖の対象でしかない。
伝承の道化師と言う存在とは、数年前に突如として彼の前に現れ……以後、彼の欲望を完璧に満たしてくれた。
その後、アルフレドは、伝承の道化師について調べた。
だが、世界規模で戦乱を巻き起こす動乱の落とし種と言う情報以外で、これと言って伝承の道化師に関する有力な物は、どんな書物にも掲載されていない。
簡素に言えば、凄い力を持つ恐ろしい存在だと言う事を除けば、全くの不明なのだ。
大昔から存在し、伝承される謎の道化師。
それが、彼の前に何故か出現したのだ。
伝承の道化師は、どういう風の吹き回しなのか? 彼の我が儘を無条件で叶えてくれるのだ。
今いた、ドラゴン・メイドもそうだ。
西方の大陸にいる、ドラゴンハーフの娘を自分のメイドにしたいと伝承の道化師に願った所、その数日後に三人のドラゴン・メイドを用意して来たのだ。
しかも、エピダウロスと言う、人間とドラゴンが住む街の町長に値する豪族の娘を三人全て引き連れて、アルフレドのメイドとして従事させる事を誓わせたのだった。
これに対する対価はいらないと言う。
相応の対価を払うつもりだったアルフレドだが、伝承の道化師は断った。
君が幸せであるのなら、それでいいのだよ……と、本音かどうかも良く分からない台詞を口にして。
「貴方は何者なのか……時折、分からなくなる。神なのか悪魔なのか……」
「前にも言わなかったかい? 私は神でもなければ悪魔でもない。私は私と言う唯一無二の存在なのだよ」
「……そうでしたね」
伝承の道化師の言葉に、アルフレドは軽く相づちだけを返した。
はっきり言って、意味が分からない。
唯一無二の存在……確かにそうなのだろう。
神でもなく悪魔でもない……何にも属さない、どんな種族でもない、当然人間でもない。
じゃあ、なんだと言うのだろう?
ふと、彼の中の疑念は一抹の探求心にも似た感情として思考に生まれる。
しかし、同時に封印しないと行けない探求心である事も理解していた。
少なくとも、伝承の道化師は、今の自分であるのなら完全な味方である筈だからだ。
飽くまでも予測でしかないが……下手な探求心から、彼の真実に辿り着く事は、現時点の自分にとっては愚行にも近い事だろうと考えた。
今は、考えるのをやめよう。
そう……今の所は。
「今度はキイロを向かわせました」
「……へぇ。もうワイルド・カードを切るのかい? 君にしては大胆だね。そんなに姫様が欲しいのかい?」
微笑みを全く絶やす事なく答えたアルフレドに、伝承の道化師は意外そうな顔になった。
これにアルフレドは少し照れ臭い顔になりつつも答えた。
「初恋の人なんです……彼女は」
「なるほど。青春ですなぁ……ククク」
伝承の道化師はやっぱり劣悪な笑みを濃厚に作っていた。
常人なら、嫌でも不快を示したくなる様な笑みだった。
最初の内は、アルフレドも不快な気持ちが無意識に生まれ、つい顔に出てしまいガチだったが、最近は耐性がついたのだろう。
至って普段通りの微笑みを、一ミリも崩す事なく、伝承の道化師に接していた。
「キイロが行ったのなら、今回の私は様子を見させて貰うよ……なぁに、心配はいらないさ? 君がほとほと困っている時は、この私が君をちゃんと助けてあげるからね」
言い、伝承の道化師はスゥ……と姿を消した。
再び、アルフレドの自室は静寂で支配される。
「……ふふ」
笑った。
これまでにない、醜悪な……欲まみれの笑みだった。
そこにある、彼の欲望……人間が人間であるが故の性でもある、根幹に値する貪欲な精神を包み隠す事なく表情に見せていたアルフレド。
そんな彼の表情は……大半の人間が嘔吐してしまいたくなる程に醜悪な笑顔だった。
⬛イリ⬛
ひでぇ目に遭った。
いや、あれはない。
昨晩の上位陽炎魔法によって、ガルゴルさんの酒場は半壊した。
いや、まぁ……咄嗟に結界を張ろうとしたんだけど、少し遅かった感じだな。
まさか、あんなアホな魔法を……よりによって、街中の酒場でぶっ放すとは思わなかったんだよな……俺も。
幸か不幸か……建物が壊れる事には色々と慣れてる職業の俺は、それなりのツテがあった。
なんで、営業自体は三日もありゃ可能になるんだそうだ。
ちなみに壊した建物の修繕費は俺とオリオンで折半になった。
まぁ、ガルゴルさんには昔から世話になってたし、いつぞやの出世払いの酒代を幾らか返したと思えば良いんだが……けど、不本意過ぎた。




