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賞金稼ぎとドラゴンメイド(キイロ)【1】




 ⬛□⬛□⬛



 首都ニイガから、南西に約100キロ。

 列車に乗って約1時間程度の所にある、ニイガ国第二の都市ナガオ。

 地方都市の一つであり、ニイガ国内の自治領でもあるナガオを納めていたのは、ニイガ王国の宰相でもある。


 この宰相の息子に当たるアルフレド・アリ・ニイガ五世が住む屋敷が、ここナガオの中心市街地にある。


 街の中心地にある大きな屋敷は、まさに大貴族の住居である事を無言で語っていた。


「キイロを呼んではくれないか?」


 お屋敷の中にある、尋常ではない広さを持つ部屋。

 同時に巨大な窓ガラスをバックに置かれた豪奢な机に座っていた青年。

 やや幼さが残る物の、均整の取れた上品な顔を見せる彼は、穏やかな声音で近くにいた黒服の男へと声をかけていた。


「かしこまりました」


 品のある青年の言葉に、黒服は礼儀正しく一礼した後、部屋を出て行く。


 しばらくして、


 ガチャ……


 部屋のドアを開ける、十代後半程度の少女が室内に入って来た。


 見るからに淑やかそうな、落ち着きのある少女。

 そんな彼女は黒いメイド服を綺麗に着こなし、風光明媚な立ち振舞いで、室内の豪奢な机の前に座る青年へと軽く会釈して見せた。


「お呼びでしょうか、アルフレド様」


 メイド服の少女は、やんわりと笑みを作りながら、愛想良く青年……アルフレドへと答えた。


「仕事中、すまないねキイロ。……実は例の件が少しこじれているんだ」


「例の件ですか」


 アルフレドの言葉に、キイロと呼ばれたメイド姿の少女は軽く復唱する形で口をする。


 例の一件。


 これが何を意味するのかは、曖昧ながらキイロも耳に入れている。

 確か、ニイガの姫を自分のモノにしようと言う策略にも似た代物だった筈だ。


 一つ間違えれば国家反逆罪になりかねない所業だけに、敢えて『例の一件』と、ぼかした台詞を口にしているのだろう。

 障子に目あり、壁に耳ありだ。

 何処に誰がいるか分からない。

 例えそれが、自分の自室であっても……だ。


「ああ、君も少しは聞いているだろう……この一件については」


「……はい。完全に理解するまでには至りませんが、多少は情報として認知しております」


「そうか、それなら話しは早いね」


 アルフレドはニッコリと朗かに微笑む。


「単刀直入に言うよ。この一件、君に託そうと考えているんだ」


「……そうですか」


 微笑みを絶やす事なく口を動かして行くアルフレドに、キイロは愛想の良い顔と声音で頷きだけを返した。


 見た目、気品ある穏和な顔と態度に見えるが、どこか社交辞令にも似た表情にも見える。

 最低限の礼儀として、愛想の良い表情をしている……そんな風にも見えなくはない。


 実際の所はどうなのか分からない……が、業務的とも取れる笑みを作りつつ、彼女はアルフレドへと言葉を吐き出す。


「かしこまりました」


「良い返事だね。流石はドラゴン・ハーフの令嬢と言う所かな?」


「………」


 アルフレドの言葉にキイロは無言になる。

 若干ではあるが、彼女なりの感情が顔に出た……様にも見えた。


「御用件は以上でしょうか?」


「ああ、頼むよ。くれぐれも丁重に。確実に終わらせてくれ」


「はい、かしこまりました」


 キイロは言ってからアルフレドに一礼すると、そのままゆっくりとした歩調で部屋を後にした。


「……さて、どうなるかな」


 キイロが体質した後、アルフレドは誰に言う訳でもなく独りごちた。


 その時だった。


 アルフレドの席から少し離れた空間が捩れた。

 ぐにゃりと不自然に歪んだ空間は、間もなく一人の人間と思われる者を吐き出してみせた。


 まるでサーカス等に出て来そうな道化師ピエロと思われる人物だった。

 見る限り中性的な顔立ちで、性別はどちらなのか分からない。


 近くにいたアルフレドにも分からない。

 彼が確実に知っている事は、歪んだ空間から出て来た者の名前くらいだろうか?

 しかし、その名前すら通り名であり、正式な物ではない。


「そろそろ来る頃だと思いましたよ、伝承の道化師ピエロさん」


 アルフレドは穏やか微笑みを一切崩す事なく答えてみせた。


「ごきげんよう、アルさん。相変わらず元気そうで何よりですよ……ククク」


 伝承の道化師ピエロと呼ばれる者は、含み笑いにも似た笑みを色濃く作る。

 正直、余り品の良い笑みではなかった。

 とても大貴族に対しての立ち振舞いには見えない。


 しかし、アルフレドは一切の不快を見せる事なく、爽やかな笑みを見せていた。


「残念な事に、あの一件は失敗に終わってしまいました」


「ああ……末端盗賊にお姫様を襲わせたヤツだね……ククク。所詮は三下だよ、アル君。いくら隠密性の高い案件でも、少しは人を選んだ方が良い」


「……そうですね」


 伝承の道化師ピエロの言葉に、アルフレドの顔色に陰りが見える。


 そこで伝承の道化師ピエロはニッと微笑んでから答えた。


「心配はいらないよ? 私がいる限り、この会話を盗聴される事は絶対に無い。そこは保証しよう」


 伝承の道化師ピエロは、まるでアルフレドの心を見透かす様に答えてみせた。 

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