賞金稼ぎとお姫様【18】
「あっはっは! まぁ、嬢ちゃんにもその内、俺の言ってる意味が分かるさ。今は気にしないで、素直に出されたカクテルでも飲んで置けばいいのさ」
ガルゴルさんは小粋に笑った。
少し小皺が見える五十手前のオッサンだけど、なんてか少しだけ憧れる位に格好の良い一面もある。
ガルゴルさんの生き方は決して利口じゃないし、器用に人生を立ち回る事もしてないし、やってもいない。
だけど、大人の貫禄と言うか……人生の色々な物を見透かす様な? きっと経験から悟ってしまう何かを持っている見たいで……俺もまだまだ青二才だなと良く思わされてしまう。
だから、ガルゴルさんは俺にとって良い人生の先輩でもあった。
あったんだけど。
「すまない、ガルゴルさん……今回ばかりはちょっとワケありでさ」
「そうなんだよ、ガルゴルの旦那。理由は後でちゃんと話すから、今回はこの子に変な物を飲ませるのは勘弁しておいてくれないか?」
俺が答えた後、オリオンも頭を下げる感じでガルゴルさんに言っていた。
ガルゴルさんは苦々しい顔になった。
失礼千万! と思いきり怒っていた。
「人の店の酒を『変な物』呼ばわりしやがって……お前らは、その変な物を散々飲みに来てるってのに……」
「そうですよね! 本当に酷いです!」
ぶちぶちと愚痴っぽい台詞を吐き出してたガルゴルさんに、ルミがこれでもかって位の勢いで力強く同意の言葉を放っていた。
ガルゴルさんの機嫌はすぐに回復した。
なんだかんだで、ルミは美人だからな……まさにお姫様って感じだからな。
そして、ガルゴルさん……あんた、もう良い年なんだから、自分の娘レベルの女にデレデレするのはやめた方が良いぞ。
傍目からすると、地味にみっともない。
「だよな! コイツらおかしいよな! 良く言ったぞ嬢ちゃん! 気に行ったぜ! 今日は俺の奢りだ。上等な飲みやすいのを作ってやる」
「わぁっ! 本当ですか! ラッキーっ!」
上機嫌で言うガルゴルさんに、ルミは最高潮の笑顔を作った。
……ああ、これが噂のロイヤルスマイルってヤツか。
普段は物語の中でしか聞かないヤツか。
まさか肉眼で見る事になるとは思わなかった。
「ありがとう! ガルゴルさん! 大好きっ!」
「……あ、ああ。た、大した事はないぜっ! あっはっはっ!」
満面の笑みを上品に……それでいて、感情的な喜びをこの上なく美しく表現する姫様に、ガルゴルさんは年甲斐もなく顔を真っ赤にしていた。
まぁ、そうな。
流石にアレは反則だな。
女になった俺だって、アレをやれと言われたら、絶対に無理としか言えない。
そこから、手早く丁寧に……しかし、手慣れた早さで一杯のカクテルを作り出すガルゴルさん。
「アンシャンテだ……普段より飲み口を良くするのに、アルコールは控えめだが、うまいぜ!」
自信ありと言う感じで、一杯のカクテルを差し出すガルゴルさん。
アンシャンテかよ……柄にもなく格好つけやがって。
カクテルには、花言葉と同じでカクテルの言葉が存在している。
その上で行くと、アンシャンテってのは『はじめまして』って意味だ。
つまり、挨拶代わりのカクテルってワケだ。
「ありがとう! いただきます!」
ルミは差し出されたカクテルを手にして、それを一気に……って、一息で飲むのかよっ!
うぁ……これだから、酒の飲み方も知らないヤツはっ!
カクテルってのは、飲みやすいけど、アルコールはかなり高いんだぞ?
いや、まぁ……低いのもあるけど、大半は下手なブドウ酒より高い。
「……美味しい」
ルミは瞳をキラキラと輝かせる。
……ま、否定はしない。
ガルゴルさんの腕は超が付く程に一流だ。
なんで、こんなチンケな店でこじんまりとやってるのか分からない程だ。
「ガルゴルさぁ~ん! これ、さいこ~においし~ですぅ~!」
ルミは絶好調ではにかみ笑顔のままガルゴルさんにおかわりを……いや、待て!
一杯目で、もう目が座り初めてるぞ? これはアカンパターンじゃないのか?
「おおっ! いける口かい? なら、もう一杯……」
「ちょっと待とう! ガルゴルさん! あんた、本気でやっては行けない事をしてる!」
「そうだぜ、ガルゴルの旦那! マジでやめておいた方が良い!」
俺とオリオンは本気で止めた。
多分……いや、確実にガルゴルさんは知らない。
ルミが実はニイガ国のお姫様だと言う事を!
「……あん? なんだ? まだ文句あるのか?」
「文句はないが! 俺はガルゴルさんが投獄されないか、心配なんだ!」
「はぁ? 何を心配してるんだか知らないが、安心しとけ。例え何があっても、お前らに迷惑は掛けねぇよ」
ガルゴルさんは気さくに笑った。




