賞金稼ぎとお姫様【17】
効果はさっきのルミが言っていた通りだ。
つまり、初心者の内だと、なんだかんだでパーティを組んだ相手とはぐれてしまったり、クエストで山や森に入ったらそのまま遭難したり……まぁ、初心者の冒険者なら良くあるレベルのアクシデントを未然に防ぐ魔導器な訳だな。
ある程度のレベルになると、そもそもパーティからはぐれるなんて間抜けな事をしなくなるし、よしんばあっても、はぐれた時の為にあらかじめ合流地点を決めたりしてからクエストを始めるから、根本的に使わなくなるんだよな。
てか、なんでそんなの持ってるんだろうな?
ふと、そんな事を考えたが、思えばルミは冒険者アカデミーの学生だった。
そうなれば、学園の中にある購買部辺りで売ってるのかも知れない。
元から、そんなに高い代物でもないからな。
「……はぁ」
俺は思い吐息を吐き出した。
くそ……今日くらいはゆっくりと酒を飲みたかったと言うのに。
明日から以降はお姫様のお守りが本格的にスタートする。
場合によっては、こうしてゆっくり酒を飲む事も出来なくなるかも知れないんだ。
下手をしたら、これが最後の晩餐……なんて可能性だってある。
まぁ、これを言ったらキリがないんだがな?
元から、一つ間違えたら死ぬ様な仕事をしてる訳だし、今に限った物でもない事は確かだ。
「どうして、そんなつまらない顔をするんですか?」
言ったルミも仏頂面だ。
「ははっ! まぁ、気にしないでくれよルミさん。コイツは昔から人見知りが酷くてさ? あんまり顔馴染みの無い人間と酒を飲むとか、根本的にしないのさ」
オリオンが軽くフォローを入れるかの様にルミへと言ってのけた。
別に人見知りとかしないぞ? 俺は?
ただ、少し……シャイなだけだぞ!
「そうですか……」
ルミはしゅん……と、肩を落とす。
オリオンはちょっと焦った。
「あ、いや……つまりさ? まだ色々と知り合ったばかりだからさ? こいつは不器用だから、いきなり仲良く出来ないって言うかさ?」
「……なるほど。つまり、今から少しづつフレンドリーな関係を自分で作る必要があるわけですね」
アセアセしながら言うオリオンに、ルミは何処か納得混じりの声音を返して来た。
そこから、なにか一念発起する感じになってから叫んだ。
「わかりました! つまり、今の私がやらないと行けない事は、イリさんやオリオンさんと交遊関係を構築する事!」
……うーん。
そう言う事になる……のか?
ちょっと違う気もするんだが、どうなんだろう?
まぁ、止める筋合いもないから、反論はしなかった。
そしたらルミ姫は、
「マスター! 私にもお酒下さいっっ!」
物凄い気迫でガルゴルさんに、酒を注文してた。
………。
どうでも良いが、ルミ姫様は酒を飲んだ事があるのか?
一応、この国の法律では十五歳で酒が飲める。
国によって酒が飲める年齢制限が違うし、ニイガは酒が飲める様になる年齢制限がかなり甘いと言うか……まぁ、低い方ではある。
トウキとかは二十歳まで飲めないしな。
逆にクシマ国は十三歳で飲めたりするんだから……あの国は飲んべえが多いのかも知れない。
いや、まぁ……それはそれとして。
「おいおい、姫様……お前に酒はまだ十年早いんじゃないのか?」
「私だって、もうすぐ十六歳になるんです! お酒だって飲めます!」
「ほぅ、嬢ちゃんはもう十六になるのか? じゃあ、飲んでも大丈夫だな」
……そうと言って来たのは、この店のマスター。
ガルゴルさんだ。
「いや、ガルゴルさん。年齢的にはそうかも知れないけど、教育上は良くないと思うんだ」
「まぁ、そうかも知れないな」
やや困った顔で言う俺に、オリオンも肯定する言葉を出して来た。
まぁ、そうだよなぁ……。
だって、相手はお姫様だぞ。
こんなトコで酒飲ませましたとかバレたら、マジでニイガ王に投獄されかねん!
「教育上? 子供扱いも甚だしいです、イリさん、オリオンさん! 私はもう一人前のレディなのですから!」
「そうだな。確かにお嬢ちゃんの言う通りだ。コイツらもな? お嬢ちゃんくらいの時に此処で良くタダ酒を飲みに来てたんだ」
ガルゴルさんは、カラカラと笑って、俺達の昔話を暴露して来た。
……いや、別に隠すほどの事でもないんだけどさ? 今、ここでそんな話ししなくても良いと思うんだよなぁ……。
「え? タダ酒? イリさんやオリオンさんは無銭飲食をしてたんですか?」
「あっはっはっ! まぁ、そんなトコかね? けど、無銭飲食ではないぞ? お嬢ちゃん? 出世払いってヤツさ。その内、コイツらは俺に払ってくれるのさ」
驚くルミ姫に、ニッと快活な笑みでガルゴルさんが言う。
「………?」
ルミは良く分からないって顔になった。
きっと、コイツには無理だろうさ。
世の中、理屈だけじゃないって事を理解するのは……さ?




