表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/1261

プロローグ【2】

 機関車に飛び移った二人は、無言のまま屋根から車内に降りて行く。

 手慣れた物で、あたかもそこに何らかの通路があるかの様に三番車両の繋ぎ目から車内に素早く降りると、そのまま勢い良く車両の中へと入って行った。


 この時点で、自分達が異端者であると相手側に気取られた可能性が極めて高い。

 場合によってはいきなり戦闘になって、突入状態になる危険性もある。

 

 しかし、車内は至って平凡な……一般客らしき者も多く乗っている、オーソドックスな車内の光景が広がっていた。


 純粋に目標ターゲット側が、まだ自分達の存在に気付いていないのか?……それとも陽動か?

 どちらにせよ、特に荒波が立つ事なく、イリとオリオンの二人も一般客を装う形で目標ターゲットに向かってゆっくりと進んで見せた。

 

 歩きながら周囲を軽く確認。

 ……明らかに普通の乗客とは違う人間が乗車している。


 一人……二人、三人。


 標的ターゲットの、丸々と太った男は、現在地から数メートル程度先の席に座っているのが肉眼で確認出来た。


 だが、中央通路を普通に通って行けば、相手が余程の馬鹿でもない限り、標的ターゲットの部下なのだろうボディーガードが黙っていないだろう。

 場合によっては、一般客を巻き込む戦闘になる可能性もあった。


 現状を見る限りだと、この車両……普通に営業目的で走っている普遍的な列車に見える。

 そこを踏まえれば、標的側も無駄に騒ぐ事を良しとはしない筈だ。

 だからこそ、こちら側から派手なアクションを取らない限りは動かないと言うスタンスでいるのかも知れない。


 もっとも、相手がこちらにいつ牙を向けて来るかなど分からないのだが。

 細心の注意を全身全霊で集中する形で、一歩……一歩とゆっくり標的へと近づいて行く。


 イリとオリオンは、何の妨害を受ける事なく、着実に標的へと進んで行った。

 このまま標的の眼前まで進める? そう思われた時だった。


「……何者だ?」


 腹部に金属の様な物を押し当てられる。

 恐らく、ナイフの類いだ。

 ……暗殺者アサシンがいるのか?

 音もなく静かに……しかし、確実にイリの腹部にナイフを突き立てて来た。

 現状だと、周囲の一般客には見えない角度でさりげなく刺して来そうな勢いだ。


「何者だと思う?」

 

 少しでもおかしなアクションをすれば、何の躊躇ためらいもなく刺して来るだろう男に、イリは飄々とした顔でうそぶいて見せた。


「馬鹿なのか? それとも、冗談が好きなのか?」


「そうだな、どっちも正解。けど、一番の正解は……」


 刹那、イリは腹部に押し当てられたナイフを右手で握りしめた。

 そして、一瞬でペキンッ! とへし折って見せる。


「……なっ!」  


 ドンッッッ!


 いきなりナイフを簡単にへし折ると言う、おおよそ予想だにしない行動に目を大きく見開いた瞬間、イリの右拳が男の腹部に突き刺さる。


「真っ先に俺へと喧嘩を売った……アンタが一番、馬鹿だと思うぜ?」


 イリは冗談めかした声音を男の耳元で囁いた。


 傍目からすれば実に地味な攻撃であったが、一瞬だけ背中が盛り上がる程の一撃は、男を卒倒させるのに十分値した。


「……うが……はぁ………っ!」


 殴られた部分を両腕で押さえつつ、男は前のめりに倒れて気絶した。


「………」


 イリの眉間に皺が寄る。

 その瞬間、周囲の全て……正確には辺り一面の四方から激しい殺気が、イリの全身を貫く勢いでやって来たのだ。


 ここから予測出来る事は……一つ。


「……なるほど、そう言う事な」


「……そうだとは思ったけどな、俺は」


 ワンテンポ置いて、オリオンが苦笑混じりにイリへと答えた。

 互いに一つの答えを紡ぎだした。


 一見、ただの乗車客にしか見えない人物……その全員が、標的ターゲットを護る為に雇われたガードマン。


 つまり、完全に二人は包囲網のど真ん中にいる事を意味していた。

 

「さぁ……て、忙しくなりそうだ」


 イリはやはり冗談めかした笑みを冷ややかに作った。


 見る限り、乗車客に扮装している敵はざっと見積もって三十人。

 今は単純に普段着の様な服装をしているが、確実になんらかの武装をしている事は明らかだった。


 そこから、イリとオリオンの二人はどちらがどうと言う訳でもなくアイコンタクトで右手を互いに突き出して見せる。  

   

 イリの右手は完全に手のひらが開いた状態だった。


 つまり、パーの状態だ。


 対する、オリオンの右手は拳を握った状態。


 つまり、グーだった。


「……よろしく」


 イリはニッと笑ってから、手をヒラヒラさせていた。


「……チッ! また俺が雑魚の料理役かよ」


 他方のオリオンはふて腐れた顔になっていた。


 どうやら、包囲されていた敵をどっちが倒すかでジャンケンをしていた模様だ。


 妙に悠長な二人である。  

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ