賞金稼ぎとお姫様【15】
■イリ■
面倒な事になっちまったなぁ……オイ。
まぁ、乗り掛かった船……ではあるんだがな。
そんな事を考えながら、俺はバーのカウンターに座っていた。
ここは行き着けの酒場でさ? オリオンとも良く行く場所だ。
てか、今も隣にいる。
名前はナーガって言う。
話しによるとかなり昔から、ここのオーナー兼マスターのガルゴルさんは酒場をやってるとの事だ。
まぁ、俺もさ? まだこの街に来たばっかの頃……もう十年位前になるのかな? その時、初めて酒の飲み方を教えてくれたのも、ここのマスターだった。
あの時は、まだ下っ端のケチな賞金稼ぎでな? 生活費すらまともに出せない俺達に、出世払いで良く酒を奢ってくれたんだ。
今じゃ、オリオンも俺も一流の賞金稼ぎに出世したんだが、あの時に奢ってもらった酒代はまだ返していない。
金で返すのは簡単だ。
だが、そうじゃないんだ。
上手い言葉が見当たらないが……そうだな? この街には、金じゃ解決出来ない代物が無駄にあるって事だな。
……っと、俺の昔話はここまでにして。
「これから、どうするかねぇ……」
俺は、ここに来たらいつも飲んでる、定番のカクテルを軽く口にしながら、隣に座っていたオリオンへと尋ねた。
「どうするって、そんなの決まってるだろう? 姫さんを守る。それだけだ」
「まぁ、そうなんだけどなぁ……?」
引き受けた以上、ちゃんと俺も仕事をするぜ?
明日からは、姫様と一緒の生活がしばらく続く訳だ。
今日の所は、姫様が宿泊するホテルの所で一旦解散する形になっている。
当然、姫様の護衛とバトンタッチする形だな。
流石はニイガ王国の護衛だけあって、常識外れの連中が姫様の護衛に回っていた。
俺の記憶に間違いがないのなら……あれは宮廷騎士だったな。
しかも、三人もいたぞ。
……俺達、いらないんじゃないのか?
「俺達と交代してた、あの連中……最低でも準一級クラスの騎士だろ? あれ?」
「だろうな? あんなのがいるなら、俺達いらないかもな? はははっ!」
オリオンは笑ってた。
いらない『かも』じゃない。
「いや、いらないだろ?」
騎士には、他の組合や協会の様な統一規格的なクラスがない代わりに、各国が定めた独自の格付けがある。
それが勲章なんだが……この勲章、武勲と殊勲の二つあって、どっちにしても、相応の働きをしないと手に入らない代物なんだが、ポイントとなるのは武勲だ。
ここ最近、どう言う訳かモンスターが無駄に強くなって来ていて、王国の騎士ですらたまに駆り出される時がある。
ここ最近に至ってはたまにではないかも知れない……物騒な話しだが、それなりの頻度で王国の騎士が動いてるんだ。
……で、話しを戻そう。
宮廷騎士レベルの騎士になると、これまでなら名門の貴族辺りが英才教育を受けて、実践経験はないけど腕の立つ連中の集まりと言う、言わば養殖の騎士達しかいない場所だった。
所が、ここ最近の異変により、養殖ではちょっと務まらない案件が増えて来た。
平定されてる平和な時代なら、それで十分だったんだが、ここ最近は少しばかり事情が変わって来ている。
そこでニイガ国王が、一部の宮廷騎士を実力で成り上がらせる法律を作るんだ。
これによって、これまでは貴族階級の養殖騎士ばかりだった宮廷騎士が、修羅場を何度も踏んで来た、歴戦の冒険者であっても、強ければ成り上がる事が可能になった。
まぁ、相応の武勲を上げないと行けないから、騎士になったらすぐに宮廷騎士って訳には行かないんだが……そこは置いといてだ。
本題は、強ければ宮廷騎士になれる所だ。
養殖ではない、天然物の強者だ。
そんなのが三人もいて、姫様をフルタイムで守護する訳だ。
どこの馬の骨かも分からない謎の用心棒を、わざわざ用意する意味が分からない。
「多分なんだが......ルミさんは、宮廷騎士の連中が信用出来ないんじゃないか?」
そこでオリオンが俺に言う。
信用だと?
「おいおい、オリオン……こう言っちゃ難だが、信用と言う単語だけで言うのなら、俺達の方がよっぽど信用出来ない相手だぜ?」
自分で言うのも難だが、仲間同士の裏切りなんざ日常茶飯事の組合だぜ? 賞金稼ぎ組合は。
「……そんな事ないですっ!」
もはや自虐的ではあったが、自分らの所属する組合を鼻で笑ってた俺に、想定外の声が転がって来た。
同時に、ニョキッ! と、俺とオリオンの間から頭が生えて来るかの様にして、想定外の珍客が姿を現した。
「……なんで、ここにいるんだよ、姫様?」
俺は口元をヒクヒクさせて言う。
見れば、オリオンも驚いていた。




