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賞金稼ぎとお姫様【14】

「まぁ、とにかくそう言う理由から、王子様は自分の王座を確固たる物にするべく、姫様を消すつもりだったらしいな」


「なるほどな……」


 クロノスの言葉にイリは頷きだけを返してみせた。

 王族の中には希に頭のおかしな人間がいると、噂程度に聞いてはいたが、ここまでイカれたヤツだとは思ってもいなかったと、妙な脱力感すら抱いた。


 反面、これで問題解決が見えて来た。

 そうと、イリは考えた。


「馬鹿らしい動機ではあるけど、これで王子が犯人だと言う地盤固めにはなったんじゃないか? もう、王子を捕まえちまえよ」


「それが出来たら苦労しないんだよ……はぁ」


 クロノスは更に重々しいため息を吐き出した。


「動機はどうあれ、姫を王子が狙っている事はもう確定してる……が、決定的な証拠がない。正確に言うのなら、まだ王子がシラを切れるレベルの証拠しかない」


「……本当に面倒だな」


 イリは苦い顔になった。

 簡素に言えば、王子と言う絶対的な権利を最大限に利用すれば、まだまだ揉み消せるレベルと言う事だ。


「ったく……これだから王族は」


「そうですね……すいません」


 まるでヘドでも出そうだと言うばかりに不快な顔をしていたイリに、そこでルミが謝って見せた。


「いや……ルミが謝る必要はないさ……てか、思うにさ? その未来とやらの通りになった方が、ニイガ王国的には繁栄するんじゃないのか?」


 曲がりなりも王族の一人であったルミが、代表する形で頭を下げる所を見て、イリは苦笑しながら声を返す。

 同時に、これだけ寛容で、他人の不始末すら自分の事と同然の様に頭を下げる事が出来るルミの人間性とその器量の大きさに、一国の王となれるだろう才能を感じていた。


「絶対の絶対に嫌です」


 でも三秒も掛からずして、笑顔で拒絶された。

 否定と言うより、もう完全な拒絶である。

 一体ルミは……何故にここまで王族を嫌うのだろう?

 ある意味で謎だった。


「まぁ、とにかく……だ。こっちはこっちで、全力で王子を追い込む段取りを組んではいるが、まだ時間が掛かる。それまでは姫様をお前らに任せるしかない」


「そうなるのな? まぁ、こっちも仕事として金を貰う訳だし、ここまで首を突っ込んで置いて、今更降りる気もなかったんだが……」


 言って、イリは肩を落とした。

 内心では思う、本気で面倒なんですけど!……と。


 これまで賞金稼ぎとして数々の難関や難敵とも遭遇して来たし、修羅場の数なら誰よりも多く潜っていると豪語する事も出来るイリではあるのだが、ボディーガードなんて仕事はこれが初仕事である。


 これまでは、標的の首を取ってくれば、それで仕事は終了だった。

 しかし、今回はそうも言っていられない。

 

 今回の目的は、姫様をひたすら護り切る事。

 こちらから攻撃する事はない。


 言ってみれば、今までは狩る方だった立場の人間が、今回だけに限っては狩られる方の立場にある訳だ。


 下手にこっちから乗り込んだ日には、むしろ王子にとって好都合。

 むこうは自分の罪をある程度までなら揉み消せるし、逆にこちら側に難癖をつけて、濡れ衣同然の罪を幾らでも着せる事が可能なのだ。


 圧倒的に不利とも言える絶望的な状況を……しかし、なんとか打破したいので、それまでただただ姫様を守ると言うのが、今回の目的だ。

 これを面倒臭いと言わずして、他に何を面倒臭いと表現出来るのだろうか?


 しかし、それでもイリは引き受けてしまうのである。

 当然、相棒のオリオンも以下同文。

 この話しをイリに持って来たからと言うのもあるが、俄然乗り気だ。


 引き受けた理由は特にない。

 強いて言えば報酬が良い事だが……これは決定打にはならない。


 元から名腕の賞金稼バウンティハンターぎでもあったイリは、そこまでお金に困っていない。

 ついでに言うのなら、お金に対する執着心は皆無に等しい。


 ストイックに生きる彼(または彼女)にとって、お金は物品を入手する為の道具でしかない。

 金があれば何でも出来るとは塵も芥も思っていないのである。


 故にお金に対する執着心もなく、大金を前にしても、実に淡白な反応しか示さない。


 よって、報酬の十億は……イリからすれば、物を手にいれる手段が一つ増えた程度の代物でしかなかった。


 しかし、それでも引き受けてしまったのは……なんだろう?


 イリはそんな事を胸中で呟き、自問自答にも似た問いかけをして見せた。


 果たして、答えが出た。


 ……ま、気紛れかな。

 

「OK。内容は理解したし、現状を考えると俺達が姫様を守る必要も分かった……いいだろう。今回の仕事、正式にこのイリ・ジウムが引き受けた」


 眼前のクロノスに淡い笑みを快活に作り、イリは全面的に今回のルミ護衛作戦を引き受ける事に決めるのだった。

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