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賞金稼ぎとお姫様【12】

「ところで、今後の話しですが……」


 そこから、オリオンは真剣な顔になった。

 依然として手はイリの口を塞いでいたので、体勢だけを見れば、地味にふざけている様にも見えなくはないが、真面目な話しをしている雰囲気だけは生まれていた。


「そうだな……」


 クロノスはやや陰りのある顔になった。


「……何か、問題でも発生したのですか?」


 少しばかり雲行きのおかしい表情のクロノスに、オリオンも眉を捻ってから不安気に尋ねた。


「問題はない……問題は、な?」


「……と、言いますと?」


「現状、姫様が狙われていると分かっている以上、相応の護衛をすれば良い。それだけの話しだ。よって、ここに問題は発生していない……いないんだがな? 視点を変えると少し面倒な事になってるんだよ」


「えぇと……」


 クロノスの言葉に、オリオンは思わず口ごもった。

 彼の言葉はどうにも回りくどくて、核心に辿り着く事が出来ない。


「もがもがっ!……ぷはぁっ!」


 今一つ、クロノスの意図する物が分からない為、思わず思案に暮れていた事で手の力が弱まった時、オリオンの手からイリが自力で脱出して見せた。


「はぁはぁ……テメェ、オリオンッ! 人を窒息させる気か! 割と本気で呼吸困難に陥ってたぞ!」


「ああ、悪い。けど、お前が馬鹿だから仕方ない」


「どんな理由なんだよっ!」


 イリは顔を真っ赤にして怒鳴った。


「そんな事より、今はボスの話しを聞かないとな」


「……分かってるよ。つまりアレだろ? 王子だろ?」


 神妙な顔のオリオンに、イリも真顔に戻ってから言う。


「王子、か」

 

 イリの言葉を耳にしてオリオンもハッとなった。

 今回の姫を狙う首謀者は……ほぼ確実に王子なのだ。

 

 賞金稼ぎの組合長をやってる程のクロノスさえ面倒だと顔色を変えてしまうレベルの相手となれば、今回の一件だけで考えると、この王子が関係する事は間違いなかった。


「ああ、今回の面倒な一件もな? 最後には王子に辿り着くんだが……これが、少し風向きが変わりそうな話しが転がり込んで来てるんだ」


「風向きが変わる?」


 イリも今一つ了見が飲めないと言う顔になる。

 やっぱり、何処か遠回しなクロノスの言葉に悩む羽目になりそうだ。


「ああ……もしこれが事実なら、旗色が変わる。ついでに言えば、どうして王子がこんな馬鹿な事をしてしまったのか? その動機を裏付ける切っ掛けにもなり兼ねない」


 つまり、大きな情報だと言う事だけは分かった。


 そう……それは確実に大きな情報なのだが……。


「頼むから、勿体ぶらずに教えてくれよボス。俺達はそこまでココが良く回らないんだからさ」


 言い、オリオンは人差し指で自分の頭を指して見せた。

 それはお前だけだろう? と、イリは直ぐに言ってやろうとも思ったが、出掛けた言葉をそのまま口から飲み込んでみせる。


 言えば薮蛇やぶへびだ。

 何故なら、クロノスの言わんとする言葉の核心に辿り着いていない為、こうと答えたら確実に言われる。

 じゃあ、お前には分かるのかよ? と。


「とにかく、組合長。さっきから面倒だ面倒だとのたまってるが……俺からすれば、あんたの喋り口が一番面倒なんだよ。単刀直入にハッキリと物を言ってくれないか?」


「仕方ないな。単細胞にも分かる言葉で言ってやる……宰相の息子が一枚絡んでるらしい」


「……ほぅ」


「……? アル君の事ですか?」


 クロノスの言葉にイリは少しだけ納得混じりになり、ルミはキョトンとした顔になった。

  

「知ってるのかい?」

 

 オリオンはルミに聞いて見る。

 王家に関係する存在だけに、幾らかは面識があってもおかしくはない相手だけに、特に驚きもしなかったが、こちらにとって相手の情報を大なり小なり聞いておいて、損はないだろう。


「ええ……一応、昔からの顔馴染みと言いますか、幼馴染みに近い感じなのですが……その、変な人でして」


 ルミはちょっとだけ生理的に苦手そうな……そんな、苦い顔をして答えて行く。

 

 更にルミの言葉は続いた。


「ナガオ公爵家の長男で、ナガオ自治領の長でもあり、ニイガ国の宰相でもある、ザファール・アリ・ナガオ四世の息子です。ドラゴン・メイドと呼ばれる、龍の乙女を数人引き連れてる人で……まぁ、変な人です」


「うーむぅ」


「確かに変なヤツだな」


 説明口調のルミに、イリとオリオンも唸ってしまった。


 ポイントはドラゴン・メイドにある。


 ドラゴンと人間とを交配させた特殊な竜人間が希に存在するのだが、この極めて稀有な存在をわざわざ集めて召し使いにしているわけだ。


 簡素に言うのなら、よっぽどのドラゴンマニアか、ただの道楽か。

 

 とにかく、普通の人間からすれば、ただの物好きか変人である。

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