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賞金稼ぎとお姫様【11】

「クロノスさんは、私の父……ニイガ王が若かった頃の舎弟頭だったと聞いてます。まぁ、私には良くわからないのですが、お友達って事なんでしょうか?」


「舎弟頭……ねぇ」


 思い出す様に答えたルミに、イリはちょっとだけ苦笑して見せた。

 

 他方のオリオンも苦笑である。


「一応、若い頃のニイガ王はかなりヤンチャな王子だった話しだけは噂で聞いてはいたけど、どうやら噂だけではなかったんだな」


「……その様だ」


「……? そうなんですか?」


 苦笑しつつ、なんて答えて良いかわからない顔の二人に、ルミはニコニコ笑顔で不思議そうに返事をしていた。

 

 きっと、何も知らないのだろう。

 少なくとも、純真無垢な笑みは無言で『私は何もわかっていません』とイリとオリオンの二人に語り掛けていた。


「ま、組合長ギルドマスターが王様の舎弟だって過去話しは後で本人をからかう……もとい、本人から聞くとして。取り合えず、立ち話も何だし、中に入ろうか?」


「そうだな」


 軽く促すイリに、オリオンはすぐに頷く。


「はい。そうですね」


 他方のルミも同じ感じで即座に頷きを返した。


 こうして三人は賞金稼ぎ組合の本部へと入って行く。

 そして、受付を経由してからクロノスの待つ組合長室へと足を向けた。


 コンコンコン!


「お~。いるぞ。入れ」


 ノックしてからすぐにクロノスの声が聞こえて来る。

 組合長の部屋についてるドアにしては、防護性の薄いドアな気もするが……そこはきっと、強力な魔導結界でも付与しているに違いない。


 違っていたのなら、クロノスの趣味なのだろう。

 それが趣味なら仕方ない。

 ついでに、どうでも良い。


 少なからず、眼前にいたイリやオリオンには関係ない事だし、興味もなかった。


 今の二人にとってやらないと行けない事は、クロノスに会って今後の方針を決める事だ。

 クロノスが自分の趣味で生死が別れる日が来る事を悩む事ではない。


 思った二人はドアを開けて、組合長室へと入って行った。


「お、ルミちゃん! いやぁ……大きくなったねぇ。何年ぶりだい?」


 部屋に入ってすぐにクロノスの歓声めいた声が三人に転がって来た。


 どうやらルミが言っていた事は本当の様だ。

 特に疑っていた訳ではなかったが、それでも少し信じられない所があったのである。


 しかし、今のクロノスが見せる態度で、ルミの言葉が確定で真実である事を露呈していた。


「えぇと……七年振り位でしょうかね」


 ルミは朗らかな笑みをクロノスに向けて言う。


「そうかそうか! もうそんなになるのか。俺が前に見た時は、まだこんなだったのにな」


 言い、クロノスは軽く自分の腰上辺りに右手を置いてみせた。

 多分、七~八歳時のルミは、クロノスの腰上程度の背丈だったのだろう。


「あの時のルミちゃんも可愛かったが、今も今で魅力的なレディーに育って……いやぁ、なんか感慨深いモンだねぇ」


 言いながら、クロノスは追憶の彼方にあるのだろう、小さい時のルミを思い出す感じの声音を吐き出していた。


「どうでも良いが、昔話しは後でやってくれないか? 舎弟頭さんよ」


「ああ、そうだった……俺も昔はニイガ王の舎弟として良く白パンを買わされに……って、オイッ! なんでお前がそんな話しをっ!」


 やや半眼になっていうイリに、クロノスが華麗なノリツッコミを披露してみせた。


 地味に顔も赤くなっていた。


「さっき、ルミから聞いた」


「あああああっ!」


 素直に事情を話したイリに、クロノスは奇声めいた声を大きく張り上げてから四つん這いになっていた。


「いや……俺もさ? まだ十五くらいの時でな? 喧嘩しか取り柄のない馬鹿でさ……」


「今と大差なくね?」


「今はちゃんと組合長として立派に働いてるだろうっっ!」


 誤魔化し半分のクロノスに、イリはあっけらかんと答えた。

 クロノスは速攻で喚き声を返していた。


「まぁまぁ、ボスはしっかりと仕事してるのは分かってますから、落ち着いて……」


 そこでオリオンが軽くフォローを入れた。

 これにより、クロノスも落ち着きを取り戻す。


「そうだな。イリの様な馬鹿には分からない苦労もしてるんだが、馬鹿に言っても話しにならんしね。ともかく、ルミ姫様救出ごくろうだった!」


 最後だけ、組合長ギルドマスターらしく、威厳のある顔をしていたクロノス。


 ここでイリが眉間に皺を寄せて何らかの悪態を吐いてやろうと口を動かすが、オリオンに口を塞がれてしまった。


「……も、もがっ!」


 ここでイリに好き勝手な事を言われたら、確実に話しが無駄にこじれて、不必要に長くなってしまうからだ。

 

「はい、ありがとうございます!」


 手をイリの口に当てながら、オリオンは元気な笑顔を見せてクロノスに言ってみせた。

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