賞金稼ぎとお姫様【8】
これは、俺だけではなく、オリオンにも言える事なんだが……実は性別が逆転するとその特徴も色々と変化する。
シンプルに物を言うなら、ステータスの変化とでも言うべきか?
男の時は運動能力が極めて高くなり、物理攻撃等に特化した状態になる。
簡素に言えば戦士の様な存在だな。
これに対し、性別が女になると運動神経は格段に落ちはするのだが、その代わりに魔力が段違いに高くなる。
つまり、さっきの炎熱爆破魔法の一撃は、咄嗟に性別を女に変えた事で、即座に魔法の防御壁を張り、難を凌いだ訳だ。
そして……。
「髭達磨……お前にも教えてやるよ。魔導大国ニイガのど真ん中に住んでる賞金稼ぎもな? 超魔法の一つや二つ位は余裕で使う事が出来るんだぜ?」
俺……いや、私はニィ……と妖艶に笑って答えた。
「あ……あぁ……うぅ……」
髭達磨は、完全に戦意を喪失していた。
それ所か、驚きで腰を抜かしたらしく、まともに立つ事すら出来ない。
しばらくして、髭達磨は顔をクチャクチャにしたまま言った。
「ツインフェイスデーモン………」
……ほぅ?
「なんだ、私の事を知ってるのか」
髭達磨は、コクコクと何回も首を縦に振っていた。
とうとう、口を開くのも大変なくらいに精神を追い込まれているらしい。
二つの顔を持つ悪魔。
これが、俺または私の持つ別名だ。
正確には二つの顔ではなく、二つの性を持っているんだが、どう言う訳かこの通り名が浸透して行き、現在では俺やオリオンを指す固有名称みたいな代物になっていた。
「……ふん。なら、わかるだろう?」
答えて、私は右手を髭達磨に向けた。
同時に魔導式を頭の中に紡ぎ出す。
「その噂に出て来る悪魔に狙われた存在は、未だ一人だって息をしてるヤツがいないって話しを、だ?」
超炎熱爆破魔法!
ドォォォォォォンッ!
折角だから、さっきの髭達磨が使った上位互換の超魔法を使ってやった。
基本は炎熱爆破魔法の上位魔法なだけに、似ている様な部分も多いが、発動難度と威力が段違いだ。
この魔法を瞬時に使えるのは、私を含めて三人しか知らない。
一応、魔法自体は使えるヤツも何人かいるんだが……例えば、女になった時のオリオンとかな?
だが、どうしても発動までに1分は必要になる。
それだけ複雑な魔導式と、大量の魔力を魔法に注入しないと行けない超魔法。
それが超炎熱爆破魔法って魔法だ。
さっきも言ったが、格段に威力が違う。
当然ながら、この魔法から逃れられる髭達磨である訳もなく、アッサリ消し炭になった。
………………あ。
「まずいな……」
ここで私はある事に気づいた。
消し炭と言うか、ほぼ人間としての片鱗も留めていない髭達磨がいた事で、賞金首の証となるコイツの生首が消滅していた。
なんてこった。
「くそ、タダ働きの予感がする」
私は思わず舌打ち混じりだ。
せめて、こいつの遺留品でも残ってないかな……。
思ったが、完全に全部消し炭だった。
うぁ……。
「やったまった……」
もう、完璧に消滅させてしまった私は、思わず肩で大きな息を吐く事しか、他に選択肢がなかったのであった。
■ルミ■
「取り合えず、しばらくここで待つ感じだな。なぁに、イリは馬鹿だが、腕っぷしだけなら一流だ」
結果的にではあるんだけど、掘っ立て小屋の中に二人でいる事になったオリオンさんが軽やかに笑って言います。
えぇ……っと。
多分、イリさんってのがさっきの怖い人の事かな?
顔は結構格好良いと言うか、むしろ私的にはタイプかな……あんな人にワイルドな告白とか受けたら、私もちょっとドキドキして、ついついOK出しちゃうかも?
キャーーーーっ!
あたしったら、何言ってるんだろ!
……いやいやいや、違う。
そうそう、違うぞ私!
あの人の守護霊は、ちょっと不思議過ぎる。
危険だと無言で私に教えてくれてるんだよね。
あ、ちなみにです?
守護霊と言うのは、どんな人間にも一体は存在している、その人間の守り神みたいな者なんだけど、この守護霊が白いと善人……と言うか、いい人。
逆に黒いと悪人と言うか……性格が非常に悪い人。
この二つを説明した上で言うと、オリオンさんの守護霊はとっても白いのです。
元々、この守護霊を見る技術は、私にはなかったんだけど、リダって言うクラスメートに色々と教えて貰って、私も最近習得したのです。
ルミは姫様だし、王族として生きる事になるなら、この技術はあって損はないぞ? って感じでリダに言われてね? それで教えて貰ったの。
確かに便利です、はい!




