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母親と言う恋人【7】

 ……だが、その代償は余りにも大きい……大き過ぎる。


 せめて、俺個人の問題であったのなら、ここまで悩まなかったに違いない。

 

 結果的に、俺がやっている事は、現在の家族との決別。

 ……いや、消滅だ!


 俺の勝手なプライド如きで、簡単に消滅させて良い代物なのか?……違うだろ!


 それなら、どうする?

 今から、パパッと最低男でも演出して、キリとの縁を消すのか?

 いやいや、それもそれでちょっと違う気がする。


 少なからず、今のキリの気持ちをあそこまで盛り上げてしまったのは俺だ。


 その部分に関しても、俺は一定の責任を負わなければならないんじゃないのか?

 せめて……そう、せめて!


 キリの心を和らげる要素があっても然るべき事なんじゃないのだろうか?


 ………。


 我ながら、最低男の思考が、次々と溢れ出てしまって、自分で考えていて恐ろしくなるぞ……。


 結局、一番は誠意を見せたいと言う事だ。

 本当の事を伝える事が一番だと思っている。


 だけど、それが出来たのなら、ここまで悩む事は無かっただろう。


 本当の事が言えない苦しさが、ここまで酷い物だとは自分でも知らなかった。


 素直に物を言える事が、どんだけ楽な事か分かった。

 ……こんな経験なんざ、もう二度としたくない!……って事もな!


「ちゃんと、現代に戻ったら……マジでキイロ一筋に生きる事にしよう」


 俺は誰に言う訳でもなくボソリと呟いた……その時だった。


「……? ねぇ、イリ? 現代って何? キイロって、誰?」


 …………。


 しばらく思考が停止した。


 もう、俺的には、やっちまった感しかない。


 正直、現実逃避したくなる様な状況があった。

 何気なく口にした言葉を耳にしていたキリが、不思議そうな顔になって尋ねて来るキリの姿があったからだ。


 ぐはぁぁぁぁぁぁっっっ!


 俺は思い切り四つん這いになって倒れたい衝動に駆られた!

 いや、もう……これ、詰んでないか!


 つか、俺よ!

 もう少し、周りを見ろよ!


 思えば、今の俺は朝の仕事を終わらせて、店の中に入って来た所だったじゃねーかよ!

 そんな状態なんだから、近くにキリが居ても、なんらおかしな話しじゃねぇぇぇぇっっっ!


「い、いやぁ……なんだろうな? 現代って? うん、俺もさ? 最近ちょーっと疲れてるんじゃないのかなぁ〜? なんて……さ? はははっ!」


 ともかく必死になって誤魔化すしかない!

 何処をどう考えても、本当の事を言う事が出来ない案件だ!

 

 仮に本当の事を言ったとしても……だ?

 普通に信じて貰える様な案件か?

 俺は絶対に無理だと思ってるよ!


 ……思った俺は、必死の作り笑いをしながら誤魔化しを入れたのだが、


「とぼけないで!」


 その直後、キリがいつになく真剣な顔になって俺へと叫んで来た。

  

 そこから、猛剣幕で俺へとがなり声を向けて来る。


「どう考えても嘘でしょ! それ? 疲れてる? そりゃ、仕事で疲れているかも知れないけど、疲れているとキイロとか言う女の事を思い出すの? おかしいでしょっ! そもそも、イリは知らないでしょうけど? 今日だって寝言でキイロって女の名前を言っていたんだから!」


 っっっ⁉︎

 え? じょ、冗談だろっ⁉︎


 今朝見た夢にキイロが出て来ていたのかは知らない……つか、夢なんて見た記憶がない俺だったが……いや、しかし、だ?


「仮に、俺が寝言を言っていたとして……どうしてキリがその事を知ってるんだ?」


「……う」


 不思議そうな顔になって尋ねる俺に、そこでキリは口籠った。


 そこからしばらく、言いにくそうな顔になって口を閉ざしていたキリであったが、


「きょ、今日は少しだけ早く起きたから……そ、その……ちょっとイリの部屋に様子を見に行ったんだよ……で、その時に……」


 やや観念したかの様に、俺の部屋へと今朝忍び込んでいた事を暴露して来た。

 人が寝ている所に、ちゃっかり忍び込んで来ていたのかよ。

 ……やれやれ、油断も隙もない。


 しかしながら、キリなりの恋情がそうさせていたんじゃないのかと思う。

 嫌いな男の寝室へと、寝ている分かってわざわざやって来る女なんて居ないだろう。

 そう考えれば、キリの気持ちが本物だと言う事を、キリ本人の口から聞かなくても分かる。


 分かるんだけど、


「そう言う事はやらないでくれないか? 俺にだってプライベートと言う物があって、だな……?」


「こ、恋人同士なら、この程度の事は当たり前でしょう? 別にプライベートの全部を束縛する……とか、そう言う訳でもないんだからさ!」


 困った顔で言う俺の言葉に、とうとう居直る感じのキリが反論して来た。

 まるで、うちの嫁だ。

 もう、病的なまでに俺の私生活を支配しようと目論むキイロの姿が、俺の脳裏に浮かんでしまった。

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