賞金稼ぎと恋する混沌龍【14】
それもこれも、みんなイリが悪い!
…………。
……ううん。
全部、イリのせいって訳じゃない。
だけど……でも……辛い。
今のイリが見せている態度は、私の心を大きく締め付けていた。
何だろう?
結局、私って……イリの何だったんだろう?
ただの重い女だったのだろうか?
面倒な女でしかなくって、押し掛ける感じで住んでて……そして、居着いちゃったから、仕方なく住まわせてやってるだけの女なのかな……?
そこまで考えた時……不意に、瞳から涙が出た。
なんか……嫌だな。
そんな事を考える自分も嫌だし、そう思われているのかも知れない可能性がある事も嫌だった。
私は、どうすれば良い?
「……いっそ、実家に帰ろうかな」
ポソリ……私は言った。
■イリ■
「……いっそ、実家に帰ろうかな」
キイロの声がする。
…………。
それは一つの選択肢ではあるな。
そして、俺がそれを止める権利はない。
結局、周囲の二人がやかましくて寝れなかった俺は、寝たフリをして状況を確認していたんだが……なんてか、面倒な方向に事態が発展している。
……全く。
そこまで深刻に考える必要なんかあるのか?
思わず言ってやりたくなった。
けれど、一応の俺は……建前上では寝ている事になっている。
まして、キイロの言葉を盗み聞きしたみたいで、気分が悪いではないか。
……くそ。
思わず、俺は胸中でのみ舌打ちした。
……?
いや、まて。
別に、舌打ちする程の事でもないんじゃないのか?
そもそも……キイロは、最初からそうするべきだった。
伝承の道化師がおかしな魔法を掛けた事によって、ナガオのお坊ちゃんに絶対服従を強いられていたキイロが、ここに来てやっと自由の身になれたんだ。
聞けば、かなり裕福な良家のお嬢様だったらしいじゃないか。
特に聞くつもりはなかったんだが、そんな事をキイロの姉であるアオさんから聞いた。
ここから考えても……賞金稼ぎなんかやっている俺の所にいるよりも、良家のお嬢様に戻って優雅で裕福な生活をした方が、人生何倍も楽しく生きる事が出来るんじゃないかって、俺は考えてしまう。
……そうだ。
キイロと俺とでは、根本的な育ちが違う。
生まれて来た環境からして違う。
本当なら、家柄や身分だって……大きく違うんだ。
こんな……草臥れた廃屋同然のボロ屋に好んで居着く必要なんざ、これっぽっちだってない。
……悩む必要なんざ……ない。
そう思う俺がいる。
ここは揺るぎない、純粋な気持ちだ。
……だが。
最近の俺は、この気持ちと相反する感情を抱きつつあった。
きっと、キイロとの生活が長かったから、いつの間にか無意識に感化されてしまったのだろう。
そして、頭の中では分かっている。
最初に考えている俺の判断は正しい……と。
それなのに……俺は思ってしまうんだ。
このまま、キイロがここに居てくれても、全く構わないかな……ってな?
……はは。
心の中で、渇いた笑いを見せた。
何とも複雑な気分だ。
まさか、俺が一人の女を相手に、ここまで複雑な気持ちにさせられる時がやって来るなんて、本気で思わなかった。
……やれやれ。
どうした物かな。
無意識に混濁化してしまった感情を胸に秘め……しかし、俺は心の中だけに止めて置く事に決めていた。
この時の俺は、大した根拠もなく……こう、思えてしまったからだ。
言えばきっと……後戻り出来なくなる。
……と。
…………。
ああ! もうっ! やめだ、やめやめ!
何だか良く分からないけど、ヒャッカは寝たみたいだし、キイロもその内寝るだろう。
俺も寝る。
明日は、そこまで忙しくはない物の……組合長のクロノスが、何か俺に話しがあるみたいだし、近い内に大きな仕事が俺へとやって来る可能性は高い。
そうなれば、相応のコンディションを整えて置かないとな!
そう考えた俺は、強引に寝る事に決めた。
■□■□■
「……おはよ」
周囲に火の玉みたいな物をフヨフヨさせつつ、目に大きな隈作っていたキイロが、途方もなく弱々しい挨拶をイリへと向けたのは、彼が何気なくベットから起き上がった直後の事だった。
「お、おはよう……」
あからさまにおかしいキイロに、イリはギョッとした顔になった。
ただ、どうして今のキイロがこんな顔になっているのかは、聞かなくても分かる。
隈が出来ていた目蓋は充血し、目渕の辺りは思いきり荒れていた。
予想でしかないが……結構、泣き腫らしていたのかも知れない。
「……ったく。本当にお前はバカだな」
イリが呆れ眼にで言った時だ、
パァァンッ!
甲高い音が響いた。
その瞬間、イリの頬に痛みが走る。
キイロに殴られたのだ。
直後、イリは思いきり眉を釣り上げてから、力一怒鳴ってやろうと口を大きく開けた。
……が、その口はそのまま止まってしまう。
そんな、ポッカリ開いてしまったイリの前にいたキイロは……大粒の涙をポロポロと何粒も流し、悲哀に満ち満ちた感情を全面的に顔へと出していた。




