賞金稼ぎと恋する混沌龍【6】
うぅ……むぅ。
何だろう?
この……何の繋がりもない筈なのに、何処か妙ちきりんな所で繋がりがありそうな違和感染みた、不条理にも似た得体の知れない不安は……?
「あなたは、イリ・ジウムさんで間違いないですよね?」
抱き付いたまま、にこやかに尋ねて来た混沌龍……ヒャッカがいた。
ぴったり、俺の名前を当てていた。
俺的には、思いきり惚けてやろうかと言う心理も働いた。
……いや、だってだ?
混沌龍だぞ?
混沌の覇者だぞ?
そもそも、危険な香りしかしないんだが!
そうは思う俺がいる。
いるんだが……。
「どうして俺の名前を知ってるんだ?」
俺は素直に言ってしまった。
理由?……ふん、そんな物はないさ。
強いて言うのなら、そうだな?
男として、こんなに綺麗でナイスバディーなお姉さんに嘘を吐いては行けないと、本能が語っている。
ただ、それだけの話だ。
「ああ、やっぱりぃっ!」
ぱぁぁぁぁっ! と、ヒャッカの顔が明るく輝いた。
一気にテンションが上がっているのが、俺の目から見ても良く分かる。
分かるんだけど。
「あのさ?……一つ聞きたいんだけどさ?」
俺は苦笑混じりになってヒャッカに聞いてみた。
さっきは、神様にお願いをしたからと言う……まぁ、かなりオカルトチックな思考が生まれていた俺だけど……流石の神様もそんなすっとんきょうな事をする業の者とは思えない。
冷静に……普通に、一般的な思考を元に予測するのなら、これは単なる偶然であると考えた方が妥当だ。
……てか、一般的な物の尺度で考えるのなら、空から女が降って来た時点でおかしな話になっちまうんだがな? そこらは、取り敢えず置いとこう。
「どうして、俺の事を知っているんだ?」
「え? イリさんは私の事を聞いてませんか?」
自分なりの考えを口にすると、ヒャッカは逆に驚いた顔になる。
そこから言った。
「私は、リダさんの紹介で、イリさんの彼女になる為にコーリヤマから来たんですよ」
ニッコリと朗らかな笑顔のまま……とんでもない事を。
「……えぇと?」
俺の頭は真っ白になった。
何がどうなってるのか分からない。
俺が分かった事は、今起きている事は神様の悪戯でもなんでもなく、何処ぞかのバ会長のせいだと言う事だけだ。
……ってか、あのアホは、俺に恨みでもあるのか?
「イマイチ状況が分からないんだが……ともかく、リダが俺を紹介したのか?」
「そうそう! そうなんです! 本当、リダさんには感謝しきりですよ~」
俺は謝罪を求めたい気持ちで一杯なんだが?
ったく、本当にどうなってやがるっ!
……その後。
「そんな訳で、これから貴方の彼女になる為に精一杯頑張るんでよろしくです!」
何がなんだか全く良く分からないまま、文字通りの押し掛けドラゴンしてたヒャッカは、求愛の塊染みた愛くるしい情熱を見せて、俺へと甘える様に抱き付いたまま……離れる事をしなかった。
■キイロ■
「……イリのばか」
瞳から感情が溢れた。
悔しさが滲み出る様にして、瞳から一粒の涙が溢れる。
……はぁ。
本当、どうしていつも、こうなっちゃうんだろう……?
思わず自問したくなる私がいた。
イリが、他の女に興味を持つ事は、今に始まった事じゃない。
それは分かっている。
そして、その感情が本気ではない事もだ。
……そう。
そうなんだよ。
「分かってはいるのになぁ……」
けれど、頭に来てしまう。
仕方ないと言えば、仕方ない。
ここには私としても、譲れない物がある。
何の事はない。
私だけを見ていて欲しい。
そりゃね? 他に良い女はたくさんいると思うよ?
中には気になっちゃう相手だっているだろうし……なんて言うか、その……魔が差してしまう事だってたまにはあるのかも知れない。
だけど、さ?
それを言ったらお互い様じゃない?
世の中には、たくさんの良い男だっているんだ。
けれど、私はイリが好き。
……大好き。
だから、他の男には見向きもしない。
そもそも、初対面の相手だって言うのに、いきなり好きになるとかあり得ない。
最初に分かる事って何?
良いところ、外見程度じゃない?
それで分かる物?
分からないよね? 普通はっ!
相手が綺麗だと言う理由だけで、猪の様に突っ込むイリの性質は、未だ私にとって謎だ。
……本当、どうしてこんな理解出来ない男を好きになってしまったのだろう?
ふと、こんな事を考える私がいる。
だけど、思う。
結局、イリにも良い所があって……なんてか、悪い所も含めて好きになるべきなんじゃないかなって、つい思えてしまう。




