賞金稼ぎと恋する混沌龍【5】
「全く、俺の感覚からすると、キイロちゃんが不憫でならないよ……いつもいつも、お前の事を誰よりも愛してて、気にしてくれて……いたせり尽くせりだって言うのに、お前はこれ以上、何を望むって言うんだよ」
オリオンは嘆息混じりに天を仰いで見せ、大仰なばかりに落胆して見せる。
そんな、何とも演技掛かった態度を見せるオリオンへと、イリは真面目な顔をして答えた。
「自由と可愛い女の子」
「……一回、地獄を見た方が良いと思うぞ」
しれっと答えたイリに、オリオンは本気で呆れた。
だが、それでもイリは全く懲りない。
「地獄ならしょっちゅう見てるんだよ……ことごとく嫉妬されては、ちょっとした挨拶レベルの行為でも、バレたら殺されそうな勢いなんだぜ?……ああ、もう嫌だ! うんざりだ! もう、なんでも良いから可愛い子と一緒に楽しく過ごしたい!」
イリは節操なく異性を求めていた。
「それなら、簡単だろう? キイロちゃんに頭を下げれば一発だ」
「あれは、可愛くないからダメだ」
「それを本人に言ったら、マジでお前死ぬぞ……」
キッパリと言うイリに、オリオンは苦々しい顔になる。
そんな中、しれっと臆面もなくイリは答えた。
「ああ……もう、神様にでもお願いしようか?……おお神よ! 空から美女を降らせたまえ!」
「お前……流石に、それは都合良すぎだろう?」
半ば投げやり気味にイリが答え、オリオンが完全に呆れ返っていた時だった。
ひゅぅぅぅ…………ん
風を切る音がした。
「……? 何だ?」
聞く限り、それは上から聞こえて来る……そう思ったイリは空を軽く見上げた。
そして、間もなく愕然となった。
「……んなっ!」
その瞬間、イリは目を大きく見開き……思った。
思い付きだけで、神様にお願い事をしては行けないな!
果たして。
イリが天の神様へと投げやり気味に願った代物は、物の数秒で叶って行くのだった。
■イリ■
神様ごめんなさい。
今のは嘘です。
……と、心から神様に謝りたい気持ちになるとは、今まで生きて来て、考えた事もなかった。
いや、だってだ?
普通に考えても、おかしいだろう?
神様、空から美女を降らせて下さい。
こんなアホな願いを、神様が叶えると思うか?
思わないよ!
俺だってビビったよ!
実際、本当に降って来た時は、どうして良いのか分からなくなった。
「ええええええっ!」
……と、思わず悲鳴染みた叫びを上げた俺がいた時、その美女は俺の真上に落ちて来た。
ズドンッッッ!
「はぐわぁぁっ!」
これはなんですか?
新しい殺人技ですか?
思わず疑いたくなったね!
とにかく、偶然か必然か?
彼女は、俺目掛けて落ちて来た。
正直、避けたい気持ちにもなったのだが……そんな事をした日には、彼女はカフェテラスに突っ込む事になってしまう。
当然、それは避けたい。
彼女の身体が心配だって言う事もあるが、このカフェテラスも大きな被害が出てしまうだろう。
それはそれで困るんだ!
なんにせよ、俺は彼女を全力で受け止めた。
ぜぇ……ぜぇ……。
あぁ……もうっ!
マジで何なんだよ、この子!
どうにか、身体全体で受け止める事で、彼女にもカフェテラス的にも実害なく終わった。
終わったんだが……それはそれで良いとしても? だ!
「き、君は何? いきなり空から落ちて来るとか、常識をゴミ箱にポイしちゃってる見たいだけど……?」
「え? 今のは非常識でした? えへへ……ごめんなさい。次は気を付けますねぇ」
俺の言葉を聞いた彼女は、軽やかに笑ってから甘い声音を吐き出して来た。
刹那。
ふにょん。
すごぉ~く、柔らかくて暖かくって、理性を粉砕させるだけの破壊力抜群な最終兵器が、俺の胸元に程よくジャストフィットした!
……そう。
彼女は、何の脈絡もなく俺に抱き付いて来たのだ。
うぉぉ……。
な、何だ?
何が起こっているんだ?
見れば、オリオンも固まっている。
コキーンッ! と、まるで最寄りのコカトリスがオリオンを突いたかの様な勢いで石化していた。
間もなく、オリオンは石化した状態のまま……呟いた。
「……俺も神様にお願いしようかな」
アオさんが聞いたら、こんがりゴリラになるぞ……?
取り敢えず、ゴリラの丸焼きなんか食えた物ではないので、今の言葉は聞かなかった事にして置いてやる。
感謝しろよっ!
「あのさ……? 君は一体? 誰?」
ともかく、今はゴリラよりも眼前の美女だ。
思った俺は、視点を彼女に切り替えた。
すると、彼女は何処か納得混じりの顔になってから、俺に答えて見せる。
「ああ、そう言えば、まだ自己紹介をしていませんでしたね? 私の名前はヒャッカ・ゴヒャク・カオス。混沌龍のヒャッカちゃんと呼んで下さいね♪」
……はい?
……混沌龍?
思わずポカンとなる俺がいた。




