賞金稼ぎと恋する混沌龍【4】
さっきから、終始デレデレしまくるイリを見ていると……こうぅ、沸々と沸き立つ怒りが激しく込み上げて来る。
……とは言え、向こうのママさんなる人は、イリを単なる客としか見てない模様だし、イリもイリで他人でもあるママさんの顔を立てる感じの台詞を口にしている。
何より、彼女と答えたママさんの台詞を全く否定する事もなく、それでいて腕を組んでいる状態を強引に離そうともしなかった。
これら一連の流れもあり、キイロの怒りも限界の所で踏み止まる。
……だが、しかし。
「今度、暇が出来たら、ウチにも寄ってねー? サービスするわよ~?」
「良いねぇ! 喜んで行く事にするよ!」
リップサービス程度ではあるのだが、明るく答えていた女性の誘いに乗ってしまう辺りは、少し許せない。
「絶対に行かせないし……」
キイロは、ポツリと呟いていた。
背中にはダークマターっぽいオーラがぐおぐお言っていた。
そこから暫く歩いていると、
「あ、イリさぁ~ん! おひさ~!」
またも女性がイリへと声を掛けて来た。
これにイリも明るく返答して行く。
どうやら、同じ賞金稼ぎの知り合いの模様だ。
「それにしても、イリさんにこんな可愛い子がいたんだ……皆、悲しむかもねぇ」
女性は、そう答えてイリへと残念そうな顔を見せる。
「へ? なんでだよ?」
イリは、ちょっとだけ不思議そうな顔になった。
すると、女性は朗らかに笑って言う。
「いや、だってアンタ? ウチの組合じゃ、英雄よ? そりゃ、女性ファンも多い訳だよ? 彼女が出来たって分かったら……何人の子が悲しむか」
本気で言ってた彼女の声を耳にして、キイロはギョッとなる。
そして、その後に続いたイリの台詞には、唖然となった。
「え! マジか! いやぁ……そいつは良い事を聞いたぜ! 早速、後でファンの子達と一緒に色々とお楽しみを……」
完全に鼻を伸ばした状態で言うイリがいた時、その言葉が止まった。
ゴォォォォォッ!
とうとう堪忍袋の尾が切れたキイロが、口から強烈な火炎を放射したからだ。
この一撃により、イリの顔はスゴい勢いで真っ黒焦げになった。
髪の毛はチリチリになった。
大昔のギャグ漫画だって、ここまで典型的な描写をしないかも知れない。
「えぇと……じ、じゃあ……またね!」
その後、同じ組合の女性と思われる人物は、そそくさと目線を明後日の方向にずらしてから、足早にその場を去って行った。
後に残ったは、チリチリ頭のイリと、
「折角……久し振りに甘える事が出来ると思って、凄くスゴく楽しんでたのにぃぃぃっ!」
活火山を連想させる怒りに満ちたキイロの二人だけになった。
……その後。
「いや、待て! 俺だって男だ! 可愛い子が求愛をして来るのなら、それ相応の態度を示すってのが、男の甲斐性って……うぎゃぁぁぁぁっ!」
イリは、怒りそのままに頬を噛まれ、街行く人々が思わず振り返ってしまう程の悲鳴を上げて行くのだった。
話は元に戻って。
「……と、こんな感じだ」
全ての話を終えたイリは、百点満点の不貞腐れ方をしてオリオンへと口を動かしていた。
「そうか……まぁ、やっぱり結局、お前が悪いな、それ?」
「いや、待てよ……俺の話を聞いてたか? 要は、俺にファンがいて、その子達と楽しく会話がしたいってだけの事なんだぜ? キャッキャッうふふな関係は……まぁ、あればそれに越した事はないと思ってはいたけど、そこまでは望んでいなかったんだぞ?」
「それに越した事はないとか言ってる時点でアウトだと思うんだが……?」
かなり真剣に言っているイリに、オリオンは少し呆れていた。
「そもそもだ? 仮に俺がお前と同じ事をしたら……どうなると思う?」
「お前が?」
例え話を持ち掛けられたイリは、ちょっとだけ考えてしまう。
ここでの例え話は、オリオンがイリと同じ要領で、他の女性とファンサービスと称したイチャ付きをっぷりを、彼の彼女でもあるアオに知られてしまった場合を意味している。
ここまでのお話を読んでくれた方であるのなら、わざわざ説明するまでもない相手ではあるのだが、キイロの姉にして……色々あってオリオンと一緒に住む事になった、現在超絶熱愛中の恋人……と言うか、恋ドラゴンハーフ。
キイロの姉だけあり、見た目も気立ても性格もそっくりである。
つまるに、スペシャルやきもち焼きだ。
「一瞬で焼きゴリラになるんじゃないか?」
「そうだろう? そうなるだろう? てか、人をナチュラルにゴリラ呼ばわりするんじゃないよ!」
イリなりの予測を立てて答えた直後、オリオンはウンウンと頷いた後、華麗にノリツッコミをして見せた。




