賞金稼ぎと恋する混沌龍【3】
イリとしても、たまにはそれもアリだとは思うが、毎回それでは息が詰まる。
ただでさえ、キイロは……その熱い熱い愛情がイリの精神を大きく激しく圧迫させているのだ。
出張してる時くらいは、ちょっと羽根を伸ばしたい。
最近は、流石にキイロが怖い……もとい、キイロを考慮する事も多くなり、出張中でも隠し子を作りそうな行為だけはやらない様にしていたのだが。
何はともあれ……キイロの熱愛によって、イリの性質も徐々に変わりつつあった。
はてさて。
この様な関係もあった為、キイロにとってイリが自宅にいる時はとっても特別な時間でもあった。
彼女にとって、イリは……居なくてはならない最愛の人だ。
逆に言うのなら、彼さえいれば何でもハッピー。
逢えない時間だって、イリが戻って来る時の事を考えているだけで、気持ちが高揚して来る。
早く帰って来ないかな?
仕事、大丈夫かな?
ご飯は、ちゃんと食べれてるかな?
イリが帰って来た時は、とっても美味しい料理をたくさん作って上げよう!
きっと、喜んでくれるよね!
イリが帰ったら、いつもニコニコ笑顔で愛情たっぷりに出迎える。
可能であれば、そのままギュッとして欲しい。
温もりを感じたい。
そしてそして……そのまま、唇と唇とを合わせて……ベットに……!?
……えぇと。
流石にこの先は書くとR指定を引き上げないとならなくなってしまうだろう。
とにもかくにも……キイロはイリと一緒にいれる今と言う時間を誰よりも楽しみたいと思っていた。
出張で外に出ている事が多い上に、自宅にいても仕事で家に帰って来ない事だって良くあるのだ。
首尾良く仕事がなくて、一日暇している日なんか、一年の中でもそこまでない。
だから、一秒でも長く一緒にいたい。
気分転換に外へと出て行くのなら、キイロも喜んでついて行きたい。
そして、それを拒否する理由もなかったイリは、そのまま二人で外へと向かう。
イリと一緒に街へとやって来たキイロは終始上機嫌で、お日様を彷彿させる笑顔のまま軽い足取りでイリと腕を組んでいた。
さながら熱愛カップルである。
てか、普通に無駄に熱苦しい。
「なぁ、キイロ? 普通に歩く事は出来ないのか? 歩き難くて敵わないんだが……?」
「大丈夫、大丈夫~♪ 私はこれが普通だから」
それが普通とか……どの口が言ってるんだと、イリは心の中でぼやいた。
しかしながら、幸せが顔から滲み出ているキイロを見ていると、それはそれで悪くはないと思えてしまう。
……なまじ、仕事とは言え、普段は寂しい想いをさせていると言う負い目もある。
何より、自分をここまで溺愛してくれている可愛い女の子を邪険に扱うのも酷だ。
もっとも……最近のイリは、キイロを完全なる異性と言う視点で見ていない傾向にあったのだが。
これは良くない傾向だった。
簡素に言うのなら、キイロはイリにとって『居て当然の相手』になりつつあったのである。
慣れと言う物は実に恐ろしい。
そして、人間と言う存在は、自分にとって利便性の高い存在……もっと言うのなら、自分にとって簡単に馴染んでしまう存在ほど、時間が経つと軽んじてしまう傾向にある。
抽象的に別の物で例えよう。
例えば、スマホだ。
これがないと、非常に不便だ。
当然ながら、ないとかなり困るし、普段なら困らない事であっても困窮する羽目になる。
つまるに、スマホと言う便利アイテムは本来であるのなら、自分達の生活には無くてはならない、必須の超便利アイテム。
しかしながら、そのスマホに大きな有り難みを感じている者が多く存在するのかと言うのなら、その限りではない。
何故か?
答えは言うまでもないだろう。
あって当然だからだ。
元来、なかったらここまで困る事はないと言うのに、そこに有り難みを感じる事はなく……むしろ、持っていて当然だと言うニュアンスしか持たない。
本当ならば、これ程有り難みのある便利アイテムなどないレベルだと言うのにだ。
これと同じ様に、今のイリにとってキイロの存在はとても有り難みのある大切な存在である筈なのに、居て当然と言う感覚を持ってしまい……結果、その真価を見失いガチであったのだ。
すると、どうなるだろう?
「あ、イリじゃなぁ~い? 最近、ウチに来ないけど……ああ、彼女さんに気を遣ってる?」
「お! ママさん! いやぁ……まぁ、気を遣うって言うか、遣う気はないけどそうなるって言うか!」
偶然、街を行く途中ですれ違った美人に声を掛けられ、イリは苦笑混じりに声を返した。
キイロの眉が思いきり捩れた。




