プロローグ
この物語を少しでも読んでくれた方へ、細やかでも幸せが訪れます様に!
この物語は同じでありながら、違う本編を単独で持つ三つのお話の一つです。
良かったら、他二つも読んでくれると幸いです。
ポウゥゥゥッ!
警笛を鳴らしながら、物凄い勢いで渓谷の線路を機関車が駆けて行く。
他国では、まだまだ一般的とは言えない機関車だが、ここニイガでは比較的一般的な庶民の足でもあった。
魔導大国ニイガ。
この世界の人間であれば大なり小なり聞いた事のある名前だ。
一万の魔導騎兵と三万の魔導兵を有するこの国は、世界でも五本の指に入る程の軍事大国であり、同時に世界屈指の魔導先進国でもある。
故に、ニイガは他の大国からですら一目置かれる存在だ。
国土面積からすれば、近隣諸国の半分にも満たない小国でありながら……世界の大国であり続けるニイガは、まさに世界の叡知を結集された先進国の代名詞として有名であった。
「目標発見だ。行くぞ、オリオン」
渓谷を駆け抜けて行く機関車を、遠くから望遠鏡の様な物で見ていた青年は、隣にいた長身で体格の良い、いかにも筋肉自慢していそうな男に向かって声を吐き出した。
望遠鏡を使って見ていた青年の名前はイリ・ジウム。
長い髪を後ろで軽く縛り、比較的均等の取れた顔立ちしている青年だった。
見る限りで年齢は二十代前半と言った所だろうか?
しかし、この世界には時空魔法と言う、一定の条件が揃えばある程度までなら自然の理を無視する事が出来る魔法が当然の様に存在している為、実年齢を外見から判断する事は出来なかった。
取り合えず、二十代前半と言う事にでもして置こう。
比較的筋肉質ではあるが、隣にいる歩く筋肉の塊染みた男からすれば、まだ普通の人間に見える。
身長も見る限りで百八十程度はあり、長身と述べても過言ではないのだが、これまた二メートル近い体格の筋肉男がいる為、そこまで大きくは見えなかった。
隣の筋肉男についても軽く紹介して置こう。
イリの仕事を一緒に行う相棒でもあり、幼馴染みでもある彼。
実はイリと同じ性質を持つ、特殊な種族でもある彼の名前はオリオン・トリス。
彼の性質は彼の体格が全てを物語っていると述べても良い。
とにかく、熱い……熱苦しい男だけを知っていれば、彼の性質の半分を完全に理解したと思ってくれて大丈夫だ。
もう半分は少しややこしい事になっている。
こちらに関してはイリもまた以下同文の理由となるので、本編に入ってからしっかりと説明させて頂こう。
閑話休題。
警笛を鳴らしながら、渓谷を走り抜けて行った機関車。
今回のイリが受け持つ仕事と、その目標は、あの機関車に乗車していた。
イリの本業は賞金稼ぎ。
同時に相棒のオリオンも以下同文となる。
二人は冒険者協会に加盟している賞金稼ぎ組合に所属する、トップクラスの賞金稼ぎであった。
ランクはイリがL+でオリオンがSS+。
……尚。
L+ってなんだよ? そんなランク初めて聞いたよと言う方は、リダVerを読んで見よう。
脱線もそこそこに。
「来い! 飛竜!」
イリが叫ぶと、巨大なワイバーンにも似たドラゴンが虚空から飛んで来る。
手が翼になっているワイバーンとは違い、ちゃんと前足がある所が、飛竜とワイバーンとの違いだろうか?
それ以外は特に変わらない。
通常のドラゴンと比較するとやはり小さく、空を飛ぶのに適した進化をしている。
つまり、滑空時の空気抵抗が低く、空を飛ぶのに打ってつけの竜なのだ。
反面、通常のドラゴンと比較すると戦闘能力に乏しい。
例えば混沌龍の様な破壊する為に生まれたドラゴンから比較すると……百体いても太刀打ち出来るか怪しい程だ。
しかしながら、滑空能力だけを見るのなら、飛竜程、早く遠くまで移動するのに適したドラゴンはいない。
飛竜はイリとオリオンを背中に乗せると、アッと言う間に渓谷を走り去った機関車に追い付いて見せる。
「目標は、第三車両……あの太った豚見たいな野郎だ」
「OK……分かりやすい相手で助かる」
飛竜の背に乗り、上空から気付きにくい角度であって、列車の車窓から目標の人物を双眼鏡で確認出来る位置で、イリはオリオンに伝える。
「作戦はこうだ。まず、三番車の屋根から侵入。そこから中に降りて一気に叩く」
「相変わらずゴリ押しが好きだねぇ……ま、俺は好きな作戦だがな?」
「だろ? 俺もチマチマやるのが嫌いなんだ」
イリとオリオンは軽く笑う。
直後に飛竜の高度が下がり、機関車のスレスレまでやって来た。
もう角度によっては確実に肉眼で確認出来る所まで来ていた。
いや、人によってはその異様な羽根音に気付く者がいるかも知れない。
「よぉしぃ! 仕事、開始だ。ぬかるなよ、オリオン!」
気合いを入れる形でイリは叫ぶと、ヒョイっと軽快な足取りで飛竜から機関車に飛び乗った。
「は! それはこっちの台詞だ!」
直後、オリオンも同じ様な要領で機関車に飛び移った。