第527話「魔女の御茶会」
「ふふっ……。まさか貴女に会えるとは思いませんでしたよ、パンドラ」
「私もです、御姉様……。ふへへへへへ……」
第十五層ボスフロア前にて再会を果たした黒衣の魔女リィレと禁断の魔女パンドラ。
リィレは死術のパンドラと言っていたと思うが別に大した事では無いので空気を読んで胸に留めておこう。
この空気なら俺は死なずに済みそう……早くオスタナシーの所へ帰りたい……。
「パンドラ……今まで何をしていたのですか?」
「御姉様、私は王国領にいましたの。色々あってこちらに参りましたけれども」
「聞かせて下さい、パンドラ」
「……はい、御姉様」
「あっ、立ち話もなんですし椅子とテーブルを御用意しました」
「気が利くわね、人間。それでは……少し長くなってしまうかもしれませんが……」
リィレからいいんですか?といった視線が飛んでくるが軽くジェスチャーで大丈夫と返す。
まずはパンドラから引き出せるだけ情報を引き出さなければならないからな……。
そしてパンドラは雄弁?に語り出す……。
「切っ掛けはあの人魔戦争ですわ……。女神の神託を受けたとされる六神との戦い……数多くの仲間が散っていく中、私は魔王が撃破された事を切っ掛けに戦場を離れました」
「六神は魔女である我々であってもまるで手に負えず、不死身性を持った魔王ですら均衡を保つのがやっとでした。」
「そうですわ!御姉様。全くどちらが化物なのでしょう……」
多分登場人物全員化物だろうが、言わぬが花って事にしておこう。
それからの話もやたらと長かった……。
人魔戦争から帝国と王国の争い、数少ない生き残りの魔女の台頭、帝国の魔族差別による人と魔族の争い。
それからレパルダスの建国に魔人の災害……。
この世界の歴史など全く興味が無かったので俺は適当に聞き流すことにした。
俺が聞きたかったのはつい最近の事だ、歴史なんて本を見れば分かるしどうでもいいや。
歴史の現場にいた魔族の証言は貴重と思う者もいるかもしれないが、俺は歴史学者等目指さないからね。
……考古学者?どっちでもいいか。
「大体は分かりました。まぁ、私は森に研究所を立てて慎ましく暮らしていただけですね……」
「それが一番ですわ。昔は魔女が有名でしたから六神に見つかればあっという間に晒し首です」
「今は魔女は滅びたと考えられている様ですから名乗らない限りは問題は無さそうですが……」
「誰が好き好んで名乗るんというのでしょう?現代も六神は健在ですからね……」
話を聞く限りでは魔女と言う存在は自らを死に追いやった六神を恐れ、憎んでいる様だ。
リィレもオスタナシーと話す所を見掛けた事も無いし根深い問題なのだろう。
俺にはとうする事も出来ないし静観を決め込むとしよう。
「これでも私は六神との戦いを試みた事もあります。最近は魔人を動員して黒神の守る王国を攻め落とそうとしていたのですが、Sランク冒険者に阻まれてしまいました……。黒神を引き付ける所迄は良かったのですが、所詮は魔人等欠陥品に過ぎませんわね」
「あぁ……確か私が一体討伐してしまった奴ですね」
この魔女さらっととんでもない事を言いやがった!?。
あの時は魔人との連戦で疲弊していたし、真相や黒幕等知りたくも無ければ関わりたくも無かったから忘れる様に心掛けていたがコイツが主犯だったのか!?!?。
「あら、それは御迷惑をお掛けしました、御姉様なら問題はないでしょうけど」
「まぁ、大した事は無かったですね」
……あの騒動でかなりの数の王国民が犠牲になったというのに二人は二人はまるで気にする様子も無く淡々と話していた。
主犯では無いのでリィレの事が嫌いになったりはしないのだが、やはり一般人と魔女と言う種族では常識的な考えに大きな隔たりがあるようだ。
「貴女はこれからどうするのですか?」
「実はわたくし、ここでダンジョンを攻略する実力者を探していましたの。いい魔人の材料を探していましたから。この前のは凡人を魔改造したのですが欠陥品は弄くり回してもやはり欠陥品ですわ」
横で聞いていて不快感しかない。
別に正義感とかがあったりする訳では無いのだが、リィレがいなかったら俺はモルモットになっていた未来もあったかもしれないのだし。
「ですけど御姉様が見つかりましたので御一緒しましょうかしら?」
「それは構いませんが、人間界での常識はあるのですか?今、私の身近に六神がいるので下手をしたら殺されかねないですよ?」
「…………はい?」
パンドラはリィレの衝撃発言を聞いて困惑を隠そうともせず不快感を示す。
普通に考えてみたら憎っくき六神を倒す事が出来ず、手を子招いていたとしても積極的に仲良くする理由は無い。
パンドラの反応はごく自然とも言える物だ。
「私は当時の六神は殺したい程に憎いですが、今代の六神に興味はありません。あちらも同じ事を言っていましたよ」
「御姉様、正気ですか!?あの連中が我等魔女を野放しにする筈がありません!!特にこの帝国領には技神がいます。……この意味がお分かりですよね?」
「……その技神が私を見逃すと言っていたのです。正直、私も初めは信じられ無かったのですが」
「……どうやら私はやらねばならない事が出来てしまった様ですね」
「技神に挑むのですか?……私は既に六神と言う概念に対する憎悪など枯れてしまいました。我等が同胞は晒し首に火達磨、拷問等に晒されていますので同じ様な結果になりますよ?」
「御姉様は変わってしまわれましたね……晒し首になるよりはマシですけれど」
パンドラは先程の嬉しそうな表情から一転して辛そうな表情を垣間見せる。
価値観や考え方は違うが、魔族も人族も大差無いのかもしれない。
「兎に角私は御姉様と共に参りますわ。そこの人間がミラージュもいると言っていましたし」
「ルルヴィアも上手くやっている様です。他のもの達は見掛けません。いずれにせよ、私達魔女も共存を考えねば淘汰される迄です」
「御姉様、ルルヴィアは真名で呼ばれるのを嫌います……ルヴィアかミラージュで御願い出来ますか?」
「むっ、そうでしたか?確か貴女もパンドーラが真名ですしね」
「真名は番になる者に伝えるのが魔女の伝統では無いですか……。御姉様が特殊なのです」
「……まぁ、確かに共存も考えねばなりませんね。出来なければこの世界から淘汰されるだけですし魔王大陸は魔王が統治していますので、我々魔女は下に着くしかありません、死んでも御免ですが」
「ふふっ、同感です」
魔王と言われると、魔王ヘカテリィナを思いだす……うん、俺も同感ですぞ。
オスタナシーに任せればと思うが、アイツは不死身なのでいつまでも決着が付かない。
だから六神以外の強者達が魔王を倒せないのだ、持久戦に持ち込まれたらそこで終わりなのだから。
「それで話は変わりますが、今はこのゴールド様にお仕えしているのです」
「はぁっ!?ゴホッゴホッ!!」
いずれ来るだろうと覚悟していた話題ではあるが、あまりの衝撃発言にパンドラが飲んでいた紅茶を吹き出す。
因みにテーブル等を出す際に紅茶と茶菓子も出しておいた、うむ……気が利くね。
「御姉様!!いくら共存すると言っても迎合しろと迄は言ってませんわ!!!それも下に付くなどと!!」
「結局の所私も表舞台に出て日が浅いですからね……。誰かに従っていた方が楽なのは事実です」
「……ますますわたくしが御姉様の側を離れられないですわね……」
パンドラの刺さる様な視線を感じつつも、この後も暫く魔女の御茶会が続くのであった……。