第1話 「自称女神と計画転生。」
『ーーねぇ、そこの貴方。異世界に行ってみない?』
突然で悪いが俺は何処にでもいる24歳のフリーター……近藤金次。
唯今、非現実イベントの真っ最中だ。
(こいつは頭でもおかしいのか?)
そんな事を思いつつも変わることのない退屈な日常を過ごしていた俺は興奮を押さえきれない。
それは残酷な現実を知り、日々流れる退屈な時間からの脱却を夢見ていたからかもしれない……。
目の前の非現実に俺の思考は麻痺しつつあった。
夢か誠か……俺には分からない。
目の前の外国人風の美女にからかわれているのか、はたまた非現実の扉なのか。
俺は焦燥感が募っていた、ここは日本。
外国の危険地帯でも無く選択肢のミスが即、死に繋がる筈も無いので答えは『是非、お願いします』に決まっている。
だが、緊張からか俺の口は多くを語らないどころか、ただ一つの返答すら出てこない。
確かにこのまま「是非お願い致します!!!」、なんてお願いするのもいいのだがやはり異世界に行くならまず設定を詰めておかないといけない。
転生なのか?転移なのか?。
聖剣は?スマホは?チートは?魔法は?。
この辺りを疎かにすると異世界に着いたは良いがその日の内にモンスターやゴロツキに殺されてしまうかもしれない。
だが相手の機嫌を損ねれば異世界行きそのものがおじゃんになる可能があるのだ。
慎重にかつ相手を不快にさせずに交渉をしなければならない。
……但し目の前の女性が本物である事が前提だが。
いいや、今更気にしても仕方が無い、偽物であれば不当な金銭の請求があるだろうし判断は容易だ。
「ねぇ。……どうしたの?そこの人間。この女神アルテミタが直々に異世界に連れてってあげると言っているのにその不遜な態度はなんなの?」
俺はあっという間に顔面蒼白になる。
考え込むばかりに時間を無駄にして相手の機嫌を損ねてしまったのでは無いであろうか?。
時間は余り無い、指示待ち人間の俺には良い案など思い付きもしないので後悔しつつも安全策とも取れる返事を返す。
「準備期間を3日くれ!」
本来ならそれこそ一週間は欲しいがやはり今の自称女神の機嫌を考えたならこの位が丁度良いだろうと考える。
思えば久々のチャレンジだ、失敗のリスクがある事を承知しているのにな。
「ぷっ!!なにそれ。そんな事を言う馬鹿な人間初めてだわ。普通そんな事言う?」
何とか機嫌を損ねずに済んだ様だ。
馬鹿にされているのは重々承知だが、機嫌が良くなった自称女神に内心ヒヤヒヤしていた俺ははホッとする。
「いいわよ。で?3日後にどこへ迎えに行けばいいわけ?」
自称女神は交渉を受けてくれるようだ。
だが、これ以上の要求は控えて用件を纏めて伝えるべきだろう。
「へっ部屋!俺の部屋で頼む!!荷物を纏めて準備しておくから!!!」
俺はすぐに返事をする、異世界行きの切符を逃すわけには行かない、興奮しているのもあるのだがやはり目の前の自称女神がかつてラノベでみた女神っぽい格好と杖を持っているのが大きかったのだろう。
最近は忙がしくてアニメもろくに見れていないが、こんな異世界テンプレみたいな場面が分からない程耄碌していない。
「わかったわ。オーブを渡しておくから3日後に連絡してね。それじゃ」
それだけを言い残し、自称女神が杖を軽くコンコンッと突くと…………まるで妖術の様にその姿を消すのだった……。
「……今の所持金は18万。くそっ!!買い込みにネット通販、やらなきゃならない事はいくらでもある!!!!!」
オーブを渡され、自称女神の妖術を目の当たりにした俺はこれが神の悪戯で無く、女神の思し召しである事を確信する。
そうして俺は家に向かって、久々の全力疾走するのであった。
この怠惰で無為な現実から抜け出せる、俺だけの居場所を求めて…………。