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選定


「――シンデレラが発見されたのは、記録の上では三百年ほど前とされています。ですが、それ以前からシンデレラが存在していたことは、口伝や伝承から見て明らかと言わざるを得ません」


 そう語るのは女性教師であるイリーナ先生だ。


「人類史上、初めてとなる天敵の出現により、この数百年で我々の生活圏は著しく縮小しました。このメルゥサが最後の生活圏である可能性も、ないとはいいきれません」


 鉄の廃墟は旧時代の街であり、森はかつて平地だったと言う。

 それが長い年月を経て様変わりし、今の姿になった。

 もはや、その残骸からかつての光景を見ることは叶わない。

 数百年まえには、いったいどんな光景が広がっていたのか。

 その答えが永遠に失われたと思うと、なんとなく物悲しい。


「あなた達はまだ未熟な訓練生ですが、みなメルゥサの存続を願い、自ら討伐隊への入隊を志願した者たちです。そんなあなた達に、今日この日、一つの機会が与えられました」


 イリーナ先生の視線が、訓練生からこちらに向かう。


「夜弦隊。討伐隊に新たに造られた部隊です。この第二訓練場に皆が集められたのは他でもない。この夜弦隊に加わる者を、あなたたち訓練生の中から決めるためです」


 そうイリーナ先生は言い、入れ替わるように俺が口を開く。


「あー、そう言う訳で。お前たちの中から部下を選ぶことになった。定員はとりあえず一名のみ。選ばれた奴は俺と一対一でシンデレラ討伐のための術を学ぶことになる。なにか質問は?」


 そう問うと、実に多くの手が上がる。


「それじゃあ、そこの」

「なぜ、定員が一名だけなのでしょうか?」


 ま、そこが気になるよな。


「そいつはこの夜弦隊に課された目標のせいだ。どうやら討伐隊のお偉い方は、俺を何人にも増やしたいらしい。つまり、俺以外にもシンデレラを剣で斬れる奴が欲しい訳だ」

「そ、そんなことが可能なのですか?」

「さぁな? そいつはやってみなくちゃあ分からない。そのための一対一だ。俺も人に剣を教えるのは初めてのことだから集中して教えたい。そいつが上手く行けば、今後、更に定員が増えるかも知れないな。さぁ、次だ」


 そう促して次ぎの訓練生の質問を聞く。


「採用の基準はどういったものですか?」


 そう言えば、肝心なそれを言い忘れていたな。


「今からお前達には俺と剣を交えてもらう。魔法の使用は一切禁止、俺も魔法は使わない。それで一通りお前達の実力を確かめて、見込みのある奴を一人選ぶ形になる。だから、これと言って明確な線引きがある訳じゃあない。でも……そうだな。俺に一撃でも見舞えれば即採用ってところだ」


 無論、打ち込ませる気なんてさらさらない。だが、もし、万が一にでも、打ち込める奴がいたなら、そいつは間違いなく即戦力になる。


「他に質問は? ないなら各自そこにある剣を持って並んでくれ。選定を始める」


 すぐ側にある剣立てを指差し、俺は第二訓練場の中心にまで足を進める。

 使い慣れていない模造刀で空を斬り裂き、軽い準備運動を終える。


「さて、一番槍はだれだ?」


 そうして選定が始まった。

 


 怒濤の如く打ち出される剣を、一つ一つ捌いていく。

 そうして攻めあぐねた訓練生が、焦れて大振りになった隙をつく。

 剣の側面を叩くようにして弾き、剣を手元から取り上げた。


「そこまでだ」


 音を立てて剣が地面に落ちると共に、三十七人目までの相手を終える。

 リストにあって人数は三十八だったと記憶している。つまり次が最後の訓練生だ。

 今のところ、俺に一撃を見舞えた奴はいない。何人か見込みのありそうな訓練生はいたが、とりあえず誰を部下にするかは最後の一人を相手してからだ。


流天瑞樹るてんみずきです。よろしくお願いします」


 俺と相対して一礼したのは、黒い髪をした女子訓練生だった。

 大人しく、大人びた印象を抱かせる彼女には、その腰にある無骨な剣は不釣り合いであるように映る。しかし、彼女が剣を引き抜き、構えを取った瞬間、俺はその考えを改めさせられた。


「……ほー」


 見た目の印象と相反するように、その構えは様になっていた。

 流天瑞樹、だったか。名前の響きからして、俺や師匠と同じ出自の人間だろう。

 たしか日ノ本だの、和の国だの、ジパングだのと呼ばれていた国。そう言えば、この刀もその国が出身だったか。

 まぁ、それはどうでもいい話か。


「よろしく。じゃあ、始めようか」


 こちらも抜き身の刀で構えをとる。

 互いに戦意を高め合い、緊張の糸が張り巡らされる。

 肌に纏わり付くように張り詰めた空気が臨界にまで達した時、俺が先手を譲るかたちで流天瑞樹が地面を蹴る。

 迫り来る彼女の剣先は、利き手の下方に配されている。

 つまり、繰り出される攻撃は向かって左側からくる一刀。

 視覚情報から相手の行動を予測しつつ、それを避けるのではなく、受け止めるために身体は駆動する。剣を盾とするように、攻撃の予測軌道上に刀身を差し向ける。

 だが。


「ん?」


 彼女が間合いに踏み込む刹那、不意に違和を感じる。

 いま、たしかに妙な動きがあった。通常ではしなくていい動作を取った。

 それはつまり、今から繰り出される攻撃が、まともなものではないということ。

 直後、彼女の剣が反転した。


「――そう言うことか」


 違和の正体は、右足を軸とする予備動作だった。

 左側からくると思わせ、寸前のところで反転して逆方向から一刀を浴びせにかかる。

 一瞬とは言え、敵から目を離し、背中までみせる危険な手段。俺なら絶対にしない戦法だ。だが、だからこそ、ほんの僅かではあるが俺を驚かせた。

 しかし、それだけだ。

 すぐに刀身を斬り返し、右方向からの一撃を受け止める。

 難なく攻撃を阻んだが、手元に伝わる感触が異様に軽い。この打ち込みは、本気で放ったものではない。この一撃すらも次に繋げるための布石。

 瞬間、引き絞られた矢が放たれるように剣先が飛ぶ。

 それに合わせて一撃目を叩き落とし、続けざまに放たれる二撃目、三撃目を左右に弾く。


「――くぅッ!」


 この突きの三連撃で決めるつもりだったのか、彼女の口から苦しそうな声が漏れる。

 けれど、それも短く切り。続く四撃目を打ち放つ。

 新たに繰り出されるそれは、以前の三撃よりも遥かに速い。だが、その分だけ動作が大きく、軌道が読みやすい。

 真正面から最短距離をいく刺突を躱し、顔のすぐ側を剣先が過ぎていく。


「しまっ!?」


 大きな動作から繰り出される、隙の大きな攻撃。

 それを躱されたなら、白刃に身を晒したも同然だ。けれど、彼女はそれでも踏み止まろうとした。力尽くで身体を支え、突き抜けた剣の軌道をねじ曲げ、横薙ぎに振るおうと試みる。

 だが、その一連の動作を黙って眺めているほど俺も優しくない。


「舌、噛むなよ」


 彼女の剣がこの身に触れるより速く、この手の平が彼女の額を捉えた。

 打ち放った掌底の衝撃は、手を離れてもなお続き、彼女の頭ごと身体を吹き飛ばす。地面を何度か転がった彼女は、停止すると共に苦痛の声を漏らしながら起き上がる。

 どうやら舌は噛んでいなかったみたいだ。


「……さて、これで全員と剣を交えたわけだが」


 左手を一瞥して刀を鞘に納めつつ、彼女――流天瑞樹に歩み寄る。


「この中で一番見込みがあるのはお前だ、流天瑞樹。俺はお前を選ぶ」


 まだ立ち上がる最中にあった彼女に手を差し伸べながら、そう告げる。


「――え? え、でも私。手も足も……」


 困惑する彼女の手をとり、立ち上がらせる。


「でも、最後まで諦めなかっただろ? そいつが採用理由――」


 採用理由の一つだ。そう言い終わるまえに、訓練生の中から声が上がる。


「――納得いきません!」


 声がしたほうに視線を向けると、眉間に皺を寄せた女子訓練生が映る。

 彼女の名はたしか、メアリー・ロスケルト。

 その明るい金の髪と深い紺碧の眼。それに加えて勝ち気な剣と性格は、よく印象に残っていた。

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