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冬の物語

作者: 皐月 悠


この国には四季が存在しています。

不思議な力を持った四人の女王様たちは、国民達に尊敬されていました。

塔にそれぞれの女王様たちが入ると、季節が廻ってゆきます。季節が廻る事によって、彼女たちの存在を皆が感じていました。

しかし、彼女たち自身の性格や外見については、何一つして知られてはおらず、また、塔にこもる前は何処に住まわれているのかもしられてはいませんでした。何処に住まれているのかは、王様や王族のみが知る事を許された秘密だったのです。

季節を変える事のできる彼女たちの力が悪用されるのを恐れた初代の王様の時代から、代々守られてきた約束でした。

ところが、ある日、王族しか知らない事をある商人と一人が彼女たちの居場所を聞いてしまったのでした。その商人は、冬の防寒具等を売る商人で、冬がいつまでも続く方法がないものかと考えていたのでした。


これは、いつまでも冬が続いてしまう前からのお話です。

その日、商人は王族たちに献上するための品物をおさめるために、お城に入っていたのですが、品物をおさめた帰りに、四人の女王の居場所を聞いてしまったのです。

「あの子たちも可愛そうに…たまたま女王の気質を受け継いでしまったばかりに」

「山奥の使用人たちや豪華なお屋敷に居るにしても、それは彼女たちを閉じ込めるための籠でしかない」

「産まれた時から、当たり前の生活をしているから、国民の同年代の子が外で思い切り遊びとがめられる事がないのだという事を知らないのだ。知らないからこそ、疑問をもつ事も出来ずにいる」

「自分たちだけが、何故と疑問をもつ事もしらない。まだ年頃なのに」

話している王族達からは陰になっている柱の陰で聞いてしまった彼は、四人の女王達に興味を持ちました。

丁度同じ時、柱の陰である人物が同じ話を聞いていました。その影は話を聞き終えると何処かに消えていきました。


商人は会ってみたいという感情を抱えたまま、数日を過ごしていました。

どんな子なのかも知らないからこそ、気になりだすとますます気になってきました。

今まで特に気にとめる事もしなかった山奥のお屋敷の情報は、気にしたらすぐに、あの噂がそうかもしないと心当たりがありました。

山奥の屋敷と言うと、この国の中でも噂になっているお屋敷は一カ所しかありません。もちろん、他にも山奥にお屋敷はありますが、どこの貴族の別荘なのかという事がはっきりわかっています。噂のお屋敷だけが、不自然に存在を消されているのです。

「いくらなんでも怪しいだろ、これ」

自分のような商人でも気づく事ができたのです。他の人も情報を掴むことができれば、絶対に気づけるだろう。今は、その事に疑問をもつ人がいないだけだ。

「急がないと」

急がないと、他の誰かに先をこされてしまうかもしれない。

そう感じた商人は噂のお屋敷に向かう事にしました。


石の壁の美しさが冷たく感じる部屋の中で、柱の陰で話をきいていた影は口を開きました。

「動いたようです」

「そうか、上手く動いてくれたら、こちらの手間が一つ省ける」

低い声で冷たい笑みを部屋の主は浮かべます。

「私が動けば目立って仕方ない。ここは利用させてもらおうか」

喉の奥にこもるようなクックと笑みを浮かべた主を、影は体を震わせて聞いていました。

「そんなに震えるな、何も命を狙っているわけじゃない。すべてが上手くいけば、約束通りお前を開放してやろう」

主には似合わない優しすぎる声音に、影の震えがましていた。

「信用がないな、私は…」

寂し気な表情を主は浮かべた。


そのころ、商人は山奥のお屋敷に向けて馬車で移動していました。

自分の自慢の商品を持って、商品を献上しに来たのだと言い中に入れてもらう作戦だったので、荷物を持って移動できる乗り物がよかったのでした。

やがて見えてきたお屋敷の前に、筋肉質で強そうな門番が立っていました。

「何用だ?」

「献上品を届けに参りました」

「献上品?そんなものは聞いていない」

怪しむ表情を浮かべる門番に、屋敷の中から出てきた優しい雰囲気の綺麗な女性が笑みを浮かべます。

「話してなかったかしら? 私が頼んで持ってきてもらう事になっていたの」

「桜様」

「この人を中に入れてください」

「……はい、桜様」

すっと門番はひいたので、商人はお屋敷の中に入る事ができました。当然、献上品の話は自分の作り上げた嘘なので、このタイミングで現れた桜という女性に違和感がありましたが、喉の奥につっかかりがあるような些細なものだったので、この時は特に気にしていませんでした。


「品物を見せて」

「こちらです」

馬車を屋敷の中の所定の場所に置き、商品を桜に見せた。

「毛皮のコート、見たことのないデザインのものばかりね」

目をキラキラ輝かせて彼女が言うのを見ながら、商人は疑問を口にする。

「どうして、助けてくれたのですか?」

「どうして? んー…そうね、外の事が知りたかったのと、退屈していたから、ではダメかしら?」

「悪い人間だとは思わなかったのですか?たとえば、貴女たちを利用しようとしているような」

「貴方はそうは見えない、うん、それしかないわ。冷たい氷のような人物も知っているけど、そんな人に貴方は見えない」

「そんな事ないですよ…俺は自分の商品がもっと売れるように、もっと冬が長くなればいいのにと思って、俺はここに来たのです。どんな人なのか気になって」

商人の告白を聞いた桜は、一瞬の間の後に笑いました。

「あら、ごめんなさい……なんだか、すごく可愛く思えて」

「は?…え、か、可愛い?」

「ね、そう思いますわよね。雪姉様」

お屋敷の二階の階段から姿を現した女性も綺麗だったのだが、美人だからこその近寄りがたい雰囲気をまとっていた。

桜が春のようなら、雪は冬のような雰囲気だ。

「そうね、もっと私利私欲にまみれた存在だと聞いていたから、それに比べると可愛いものね」

今の一言で、どうやら嫌われていないのに安心した商人でしたが、お屋敷の人間は、一体、どんな人間だと使用人たちは教えたのだろう?と疑問に感じたのでした。

「さっき話していた、どんな人なのか気になっているのだったら、しばらくの間、お屋敷に滞在してはどう?私たちからの要望ならばとおるでしょうし、私も外の世界が気になります」

「では、お言葉に甘えさせていただきます」

「なんて呼べばいいかしら?」

「陸とお呼びください」

「では、陸、しばらくの間よろしくお願いします」

「こちらこそ」


冷たい部屋の主は、影の報告を聞くとなんとも不思議そうな表情を浮かべる。

「おやおや、商人なのに、欲のない男だな」

部屋からの窓から見える塔に主は視線を向ける。

「塔の中に入れる者は、女王のみだ。その女王も次の季節の女王が来るまで塔から外に出てくる事ができない。そして、季節を訪れさせる塔の力を発揮させることができるのも、女王のみ。季節を制御する事ができれば、如何様にもできるというのに」

主は部屋の中に視線を戻します。

「そう、如何様にも、だ。王位継承権のない私が、王は位を奪う事も。欲しいものを手に入れる事もできる」

「……どうして、貴方は、そこまで王にこだわるの?」

影からの質問に、そんな当たり前の事を質問するのかと主は表情でこたえる。

「権力だ。権力があれば、なんでも私の意のままだ。権力さえあれば、私の母も亡くなる事はなかった」

悲し気な表情で影の春は、主を見つめていました。



しばらくの間、商人の陸はお屋敷で過ごしました。

その間に、使用人達とも仲良くなり、仕事を手伝うようになります。そんな中、突然姿を消したある親子の話を聞きました。親子はお屋敷で真面目に働いていましたが、ある時、王族がお屋敷にやってきて親子を連れて行ってしまったという事でした。

王族がやってきた時、親子の母親はひどく怯えた表情を浮かべていたとのことです。母親は王族の一人に気に入られてしまい本人の意思とは関係なく、気が付けば子供ができていて逃げ出して山奥の屋敷に行きつき、働いていたようでした。

探し出されてしまった母親は、その後、表向きは病気になり亡くなってしまったのでした。ですが、今となっては確かめようのない事ですが、嫉妬をした奥様方に殺されてしまったと噂で囁かれていました。



そうして、今年も、また季節が廻る時はやってきて、秋から冬に変わる時がやってきます。

「いってらっしゃいませ、雪様」

「いって参ります」

お屋敷の使用人に見送られながら、雪と陸は塔を目指して歩き出しました。

「……陸、春をどう思う?」

「どう、とは?」

「どうしようもない奴を好きになってしまったとして、自分を利用している事を知りながら、自分でその人をとめる事もできない、そんな妹をお前はどう思う?」

「……」

「何も言葉が出てこないか」

「えぇ、不思議と嫌いにはなれないとしか言葉が出てきません」

陸は今までの事を思い出していました。

自分がこのお屋敷に初めてやってきた時、どうして、春は来ることが分かっていたかのように門に現れたのかタイミングが良すぎる事にたいして、そして、たまたましばらくの間に滞在しているだけの自分が雪の付き人になっているのかの違和感で喉の奥をチリチリとする痛みを感じる。

「そうか、よかった。なら、春をよろしく頼む。たぶん、私が、塔から出てくる事は出来ないように、奴は春を手放す事はしない。いつもよりも冬は長く続くはずだ。奴の事は前に話したとおりだ。もし、そうなったら、お前の手で奴をとめてやってくれ」

「約束はできませんが、努力します」

「頼んだぞ」

そう言い残して、秋の女王様と入れ替わりに雪は塔の中に入って行きました。


それからというもの、寒さが一気にまして冬の季節がこの国に廻って来ました。

最初の頃、国民は冬の訪れを歓迎しました。冬が終われば暖かい春がやってくると信じていたからです。けれども、いつもならもう冬が終わろうかという頃になっても冬の女王様は塔から離れる事ができずにいました。次の季節である春の女王が塔にやって来る事ができずにいたのです。

春の女王の桜は、部屋の主の傍らで本来の温かさを感じさせない表情を浮かべています。

「このままでは、何も食べる物がなくなってしまい、動物たちも倒れてしまいます」

部屋の主はそう言われても、鼻で笑います。

「フン、それがどうしたというのだ。もう少しで、季節を制御できることが分かれば、軍事利用する事もでき、今回の事を思い出して、王でさえ私になんでも言う事を聞くと言い出すだろう。その場面を想像するだけで、私はとても愉快だ」

 部屋の主はそう言いながら、顔で笑いながら、瞳からは涙が流れ出していました。

木の扉を蹴飛ばして、陸は部屋の中に入って行きました。

「やっと見つけた。まさか城の中にいるなんて卑怯じゃないか?おかげで見つけだすのに時間がかってしまったじゃないか」

「……陸」

「お姉さんから頼まれました。塔に行きましょう、桜様」

「でも」

「厳しさもなければ、本当の優しさとは言いません」

陸の後ろからは、王様の命令を受けた兵たちと魔法使いが雪崩れ込み、部屋の主を取り押さえました。春の行動を制限していた拘束の魔法は、魔法使いよって解かれました。

「桜様は、こんなものいつでも解除する事ができた。それでもそれをしなかったのは、お前の事が心配だったからだ。それは幼い日々を一緒に過ごしていたお前にもわかっていた事だろう?」

部屋の主はであるお屋敷で暮らしていた少年は、力がぬけてしまったように項垂れてしまいました。


こうして、少年が止められたことによって、春の女王の桜は、塔に向かう事ができ、無事に冬の女王の雪と交代する事ができました。


 冬の女王は、妹の春の女王によって塔から離れる事ができずにいました。

 春の女王は、少年から離れる事ができずに塔に向かう事ができずにいました。

 少年は、王族がお屋敷に迎えにさえなければ、今回の想像を起こす事もなく幸せに過ごしていたのかもしれません。


それでは、今回の出来事はなかった方がよかったのでしょうか?

国民は冬があったからこそ、他の季節がより一層大切なのだと気づく事ができました。

少年は、大切なものに気づく事ができました。

春の女王は、優しさには厳しさも必要なのだと知りました。


何かのおかげで気づくことのできる大切な事をどうか忘れないでください。


こうして、それぞれの大切な事に気づくことのできたこの国は、少しだけ成長した姿を見せたのでした。


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