第九話:交流
「さて、ようやくゆっくり話せますねぇ」
「あぁ、パーティとなる前にいろいろお前に確認させてもらおう」
「その前に」
「…ん?」
「私のことはディオナでいいです。お前、とかじゃなくて名前で呼んでください」
「……すまん。俺の悪い癖だ。ディオナ、これでいいな?」
「えぇ。パレイスさん」
以外とそういうところにはこだわるタイプなのか。
「まずお互い、パーティを組む目的を確認しよう。そこからだ」
「分かりました」
「まず俺から。俺の目的は、ブブゼラと共に強くなることだ。ブブゼラの可能性を見出して、広げること。それが、お前……ディオナとパーティを組む目的だ」
「……いいですねぇ。いいですよ。実にいいですよ」
「そうかい。で、そっちの目的は?」
「私の目的は、音魔法の可能性を広げ、そして正式に属性の一つとして確立させること。そのためには、あなたと、あなたのブブゼラが必要なのですよ」
利害の一致。俺たちの関係を表すなら、その言葉がふさわしいだろう。ブブゼラの強化と、音魔法の研究。お互いがお互いにとって唯一無二の存在だ。
「…あんたとパーティを組むという選択が、間違いじゃないことを祈るよ。改めて、よろしく」
「こちらこそ」
さて、何を話したものか…少し言葉を交わしだけで会話が行き詰まるとは。クソッ、お前なんか話せよ。さっきまでの胡散臭い研究者のノリはどこ行ったんだよ…ッ!
そんな気まずさから、周りの冒険者の話に聞き耳を立てて、この時間をやり過ごそうと思った。
「おい、聞いたか?王都で勇者が召喚されたらしいぞ」
「はぁ!?マジかよ。なんでだ?」
「どうも最近各地で高位の魔物の発見情報があるらしくてな。王はこれを、魔王復活の前兆だと考えたそうだ」
「魔王復活ねぇ…実際ありえるのか?そんなこと」
「それは分からないが、どちらにせよ勇者は召喚する予定だったんだろ。過去に何度か召喚を試みてたのは発表されてるからな」
「へぇ〜…」
おいおい、予想以上に面白い情報だな。魔王なんて眉唾物でしかないが、本当だとしたら興味深い。ブブゼラの研究は置いといて、少し調べてみようかな?
「冗談だよ、ブブゼラ。嫉妬するなって」
『…………』
「えっ……この人マジか……」
「お?なんだよ。なんか言いたいことでも?」
「い、いえ、別に」
頭おかしいのは、お互い様だろうに。俺だって自分がおかしいのは分かってるんだ。だが、ブブゼラが好きなんだから仕方ないだろう。愛に理由など無い。
「そういや、勇者とやらが召喚されたっぽいな」
何でもいいから話題を振ってみた。盗み聞きしたと周りに知られるのは嫌なので、少し声を抑える。
「へぇ、それはそれは。まぁしかし、仮にも魔法を使う者として言っておきますが、きっと召喚なんてろくなものではありませんよ」
「そ、そうなのか?」
研究者としては、持論があるようだった。
「えぇ。だって、この世のどことも分からない場所から物を引っ張り出してくるんですよ? いや、下手したらこの世ですらないような、人間の理解の及ばない場所かもしれない。魔法には未知の部分が多すぎるにも関わらず、そんな恐ろしい魔法を制御できるものでしょうか?」
「確かにな……」
「驕り高ぶったお偉いさん達は、一度痛い目見ないとこれが分からないのです。あのクソ間抜けどもがホントに……」
やっべ。話題振り間違えたかも。触れない方がいいな。今日はさっさと解散しよう。なんかいたたまれないし。
「そ、そうかぁ。あ、そういえばパーティ組む申請とか特にいらないらしいし、明日からよろしくな! 今日はお互い疲れたし、帰ってゆっくり休もうか! それでは」
「待ってください」
「ぅげっ」
杖が俺の首根っこに引っかかる。
「な、なんすかね」
「私、家が遠いんですよ。研究仲間は、寝食を共にするものです。寝る間を惜しんで、互いの研究を高め合うのです! 何が言いたいのか、分かりますか?」
「いやちょっと何言ってるか分かんない」
嫌な予感がする。
「ちょっと家まで付いていきますね。これは研究のために必要なのです」
目がイってるよ。研究熱心にも程があるぜ。ただ、一つ愚痴をこぼすなら。
勘弁してくれ。