第七話:共鳴
「詳しく聞こう。聞かせてくれ。いや。聞かせてください!」
「まぁ落ち着いてください。これから話すんですから」
「お、おう!」
ブブゼラの為とは言え、落ち着け俺。平常心だ平常心。
「え〜っと話しても?」
「どうぞ」
「ではさっそく。世の中の魔法、それは、火、水、雷の、三種類を基本とし、魔力によってそれらの現象を引き起こすことで成り立つ。ここまではいいですね?」
「そうだな」
昔、それらの魔法がブブゼラに何かをもたらしてくれるのでは、と思い、とにかく調べまくっていたことがある。
「音、とは、空気が振動して発生するもの、というのは、あまり知られていないことですが、知ってましたか?」
「あぁ、知っている。かなりマイナーな学問書にしか書いてなかったが」
「えぇ。それこそが音魔法の原理です。空気に魔力を漂わせ、振動を増幅したり、振動の周期を変えたりするわけです」
「なんだ、案外簡単そうじゃないか。今まで他の研究者たちがやろうとしなかったのが不思議なくらいに」
「とんでもない!」
「えっ」
「空気に漂わせ、魔力をある程度一箇所に留めておくのがどれだけ大変か…ご存知ないでしょう?あれすんごい集中するんですよ。使ってるときに喋れても一言二言、途切れ途切れになるぐらい集中するんですよ!」
「お、おう。すいませんっした」
森で使った時にボソッと「素晴らしい…」とか聞こえたけど、あれも結構頑張ってたんだな。なんかウケる。
「まぁそれはさておき。音魔法にはいくつか問題があります。それこそ、広く一般化できないほどの、ね」
「えぇ?まさか爆発でもするのか?」
「いえ、そんなに恐ろしいものではありませんよ」
「なら良かった」
「まず一つ目!媒体が無いと弱い!」
弱いって言ったよこの人。
「魔力によって空気を細かく震わせる…そんな精密操作ができる人は極少数ですよ。できたとしても、集中のあまり大きな隙が生まれますね。必然的に、媒体を鳴らす係の人間が必要にもなります」
「ふむ…で、媒体ってのはどういうことだ?」
「音を出す物体ですよ。そこのブブゼラのような」
「…なるほど。じゃあ叫んで、その声に音魔法をかける、とか…」
「叫び声をあげながら集中できる、と」
「できないっす」
「はい。それでは、二つ目の問題です。これが実は、広く一般化できない要因なんですよ」
「どんな酷い要因なんだ」
「二つ目!媒体が音魔法を消してしまう!」
「……は?」
うん……は?いやいやいや…は?
「何言ってんのお前」
「だから、そのまんまですよ。私が今まで試したどの媒体も、音魔法を打ち消してしまうんですよ。この世のどんなものにでも魔力は存在しますからね。吸収してしまうんでしょうかね?ハッハッハ」
「いや、致命的すぎるだろ、それ!え、なに。だったら、今まで音魔法を実際に使えなかったってことか!?」
「そうです」
「いや、待て。だったらなんでブブゼラは大丈夫なんだ?」
「いやぁ、分かりません」
「じゃあ森で俺がブブゼラを使うように誘導したのは!」
「大きな音鳴るみたいですし、もしかしたら使えるかなーっと」
「賭けじゃねーかッッ!!よく運に命を任せようと思ったな!?」
「結果オーライって奴です」
「うるせぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
とにかく、このいい加減な似非科学者の話をまとめよう。
まず、今日初めてまともに使うところ見たから、音魔法で何ができるか知らない。
次。ブブゼラが他の媒体と何が違うんだろう!(目ぇキラッキラ)
次。森のアレ?賭けだよ?
まとめてみたが、正直死ねと思ったね。きっとブブゼラもそう思ってる。
「はぁ…なんだってあんたはそんな研究を?」
「魔法にはまだまだ解明されていないことが多いはずです。それなのに多くの研究者たちは、やれこの属性の新技を開発しただの、どの属性が強いだの、今ある属性に囚われすぎているのです」
「そうなのか?そっちの事情は知らなかったが…」
「それが現実ですよ。貪欲に知識を追い求めるためではなく、名誉と富を得るために研究者になるものがほとんどですからねぇ。成果として現れるかどうかも怪しい新属性の魔法の研究なんかより、今あるものを応用する方がよっぽどチャンスが多いですし」
あぁ…確かにな。それで成功した前例があるからこそ、多くの人間は似たようなことをやりたがるのだろう。
「でも。私はね、信じてるんですよ」
「ふん?何を」
「魔法の可能性を、です」
「……!」
「パレイス・ホーンさん。あなたはどうですか?」
「俺も…俺もブブゼラを信じてる」
「なら、あなたは同志ですよ。お互いの目標も、利害も、一致している。もしよろしければ…」
「私と、パーティを組みませんか?」
…断る理由はない。
「あぁ、よろしく。同志よ」
ブブゼラ以外の仲間ができたのは、思えば初めてだったな…