第五話:共闘
俺、コイツ嫌い。
「おい、もっと急いで走れねぇのか!?」
「いやぁ、走るの苦手なんですよ」
「待って、すげぇ数のゴブリン追ってきてんだけど!何だよあれ!頼むからもっと早く走ってくれ!」
「あらら…動物系の魔物まで引き寄せられてますね。こりゃマズイ」
「じゃあ、なおさら急げや!」
ホブゴブリンを初めて倒した感覚に酔いしれる暇もなく、こんな状況になっているわけだが……もう一度言わせてくれ。
俺、コイツ嫌い。
「あっ、足が痛くなってきました……」
「嘘だろ、おい!もうお前見捨てるからな!じゃ、頑張れよ」
「え?これ、貰ってもいいんですか?かなり高級そうですが…」
「あ?」
こいつ何言ってんの?そういえば、さっきからなんか腰に違和感が…
「これ、なんていう武器なんですか?」
「……ブゥブゥゼェラをぉかぁぁえぇぇせぇぇぇぇぇぇ!!!」
「危なっ、ちょ、落ち着いて」
「ブブゼラ、怖かったな?すまん…本当にすまん…」
『……』
ごめんな…少しでも気を配れなかった俺のせいだ…
「あの、囲まれてますよ?」
「……えっ?」
辺りを見回してみると、不愉快な皺くちゃ顔が全方向に並んでいる。ざっと見ただけでも、20匹を超えてるであろう魔物達。ほとんどはゴブリンだが。
「やばいじゃん…こんな数、相手にできるわけねぇだろ」
「あはは、これ詰みましたね!」
「なめんな!足掻けるだけ足掻いてやる」
「まぁもちろん、私も死ぬつもりはありませんよ?と、いうわけで、そのブブゼラ?でしたっけ。それをちょっと吹いてみてください」
「は?」
何言ってんのお前?
「この状況でもっと大量の魔物を呼び寄せてぇのかよ!?」
「そうはなりません。とにかく、騙されたと思って…」
「絶対ヤバいって!」
「そう思うなら早く!」
「…どうなっても知らねぇぞ」
もうどうにでもなれ…
『ブォォォオオォブァァァァアアアァアァ!!!』
「素晴らしい…」
騒音の中からは、そんな声が辛うじて聞こえた。それに続いて何か言ったようだが、そんなことを気にしている場合ではない。
「ハァ……ハァ……おい、吹いたぞ」
「はい、完璧です」
「いや、何が?何にも状況変わってないぞ」
「そうですかね?」
少女がゴブリン達を指す。
「ウギィ…クァギ……ギィィ…」
何が起きている?ゴブリンとその他動物系の魔物が苦しんでいる。どいつもこいつも、目の焦点が合っていない。
断っておくと、ブブゼラには特筆すべき能力は無い。ましてや、その音を聞くだけで苦しみ悶える程凶悪でもない。聴覚のいいホブゴブリンとは相性が良かったが、人間よりもほんの少し良い程度の聴覚しか持たないゴブリンならば、耳元で聞かない限りここまでの効果は無いはずだ。
「さ、行きましょう」
「待て!何が起こっているのか説明してくれ!」
「話すのはこの森を出た後にしましょう」
「お、おい!」
何事もなくゴブリン達の横を素通りする。途中で少女の足をつかんだ奴もいたが、少女が顔面を踏み抜いたことで沈んだ。怖い。
……まぁいい。とりあえず、早くこの森を出ることを優先しよう。話はそれからだ。