第二話:ギルドにて
知り合いに、この小説見せたら「サイコホラー」だと言われました。ひでぇ。
はい。現在、パレイス・ホーンは、這いつくばっております。
この近所のおっさんが朝っぱらから怒鳴り込んできたんです。番長の言ってた通り、ブブゼラ吹くのは止めておくべきだったか?
ノンノンノン、俺が愛するブブゼラとの愛の旋律を邪魔はさせん!
「すいやせんっした。いやほんと、すいやせんっした」
「てめぇ反省してねぇだろ!!」
バレた。確かにうるさかったと思うよ?でもさ、近所迷惑はお互い様だと思うの。
「でもおっさんの家、大家族じゃないっすか?結構騒がしいですよ。そっちも」
「あぁ!?ブブゼラみてぇな羽虫が集ってるような音とはちげぇんだよ!!こっちは温かい家庭の音なんだよ!!」
「こっちにだって家族がいるんですよ!!」
「家族ってのは愛しのブブゼラとやらのことか?ならそいつに言っておけ!深夜にブーブーうるせぇってなぁ!その音のせいで眠れなかったとも言っておけ!」
「ブブゼラが人の言葉を理解すると思ってるんですか?ははっ」
「お前にだけは言われたくねぇよ!毎日毎日、物に話しかけてて気持ち悪ッ!!こんなボロ屋でやるな!俺の家までまる聞こえだからな!?子供達からも変人だと思われてるぞ!」
はぁ…まったく…
「分かってないですね。確かにブブゼラは物ですよ。返事もしないし、俺の言葉を理解しない。でもね?俺の愛は一方的なものなんです。別に愛し合ってなくてもいい。とにかく愛してるんです。愛は時にパワーとなり、生きがいとなる。素晴らしいことでしょう」
「……うわぁ」
「じゃ、このあと用事があるんで」
さっさとギルドで報酬もらっとこ。
「……あいつマジで理解できねぇな……ってあれ?俺何しに来たんだっけ?」
おっさんの方も上手く誤魔化せたようだ。
ギルドで受けられる仕事は多岐にわたり、魔物討伐、犯罪者の確保、盗賊討伐、便所掃除、風呂掃除、大工仕事……など、討伐雑用なんでもありだ。
もちろん、リスクに応じて報酬は高くなる。要は、魔物や盗賊の討伐の報酬が一番高いわけだ。
ゴブリンの耳を持って【討伐証明確認窓口】へ歩いていき、いつも世話になっている受付嬢の人にゴブリンの耳を渡す。
「は~い、お疲れ様でぇーす」
相変わらず、けだるげな声だが。
「はぁい確かにゴブリンの耳で間違い無いっすねー。報酬でーす」
5万5291チャズか……5万チャズは貯めるとして…5291チャズの方は生活費にまわしとくか。
5000チャズかぁ…これじゃ節約しても4日しかもたねぇな。
「パレイスさぁん、いっつも思うんですけど、そんな筒でどうやって魔物倒してるんすか?」
「……やっぱ気になります?」
「そりゃそうでしょ」
まぁせっかくだし教えてやるか。
と、思った瞬間
「殴る以外に何があるんだよ!」
背後から、馬鹿にしたような声が聞こえた。
少し癇に障ったが、冷静に対応だ。
「……なんですかね」
「なんだ、ママに新しいおもちゃ買ってもらって嬉しかったか?ゴブリンしか倒せねぇ子供はおうちに帰ってママの乳でも吸っとけ!」
あ、今の結構イラっときた。
「いきなり絡んできて挑発とは暇人だな。それに、俺のブブゼラはおもちゃじゃない」
「そもそも何だよブブゼラって。くそだっせぇ名前!!」
こいつ、話聞くつもりないな?
「鑑定してもらったらそういう名前だった。文句あんのかよ?」
「あっるぇ?怒っちゃったか?大事なおもちゃを馬鹿にされて怒っちゃった?」
猛烈に面倒くせぇ……こいつホントに何がしてぇんだよ。
「もういい…すまん受付嬢さん。新しい依頼受けに」
「おいおい、無視かぁ?」
……うるせぇな。
「新しい依頼の件だけど、今度はホブゴブリンの討伐で頼む」
「おっと、いきなりホブゴブリンとはなぁ!挑発されたから見返したくなったみてぇだな。さすが感情を抑えられないガキは考えることがちげぇ!ま、どうせ血まみれになって発狂しながら帰ってくるのがオチだろうよ!」
そう言うと、俺に絡んできたヤツは満足げな顔でギルドを出て行った。
「いいんすかぁ?あんなに言われて」
「あれはただ絡みたかっただけの暇人だろ?そのうえ話も通じない奴なんて、相手してやる必要もないね」
「そうっすかぁ……」
ホントはイラッとしたけどね。
「そんなことより」
「あぁ、依頼っすよねぇ。ホントにホブゴブリンでいいんすね?ただのゴブリンくらいなら、それで殴るだけでも大丈夫ですがホブゴブリンとなると……」
「奇襲が得意。普通のゴブリンより賢い。非常に聴覚が鋭い。耳が大きいこと以外はゴブリンと同じ見た目。これだけ把握できてりゃあ十分だろ?」
多分だけどなっ!
「それに、ギルドの方針は【自己責任】だったな?なら、好きにさせてくれ」
「まぁ、そうかぁ……じゃ、健闘を祈ります」
この人が受け付けだと気が抜ける。
それにしても、俺のブブゼラを馬鹿にするとはなぁ……あの暇人クソ野郎殺してやろうか。いや、それは犯罪だな。全力でブブゼラ吹いて耳おかしくしてやろうか。
「パレイスさんはこのまますぐに討伐に向かいます?」
「まぁ、そうだな。ある程度の準備はしてあるよ。一回家に帰って、装備整えたら勝手に行くわ」
「そうっすかぁ。じゃ、お気をつけて」
「どうも」
なんとも緊張感のない会話だ。俺は依頼こうみえてホブゴブリンの依頼を受けるのは初めてである。しかも俺は、元しがない田舎者だ。結構スリリングな討伐となるかもしれない。
でも、ブブゼラと一緒ならなんだって乗り越えられるはずだ。