第一話:特殊すぎる愛情
俺が愛してやまないモノを紹介させていただく。
毎日キスをしている。いつも一緒に寝ているし、いつも俺と一緒に居てくれる。魔物に襲われても、手助けしてくれる。
皆はそれを、クソうるさいだけの「楽器」だという。
皆はそれを、楽器とも呼べぬただの「筒」だという。
でも、俺にとっては愛するモノであり、相棒でもある。
その名は「ブブゼラ」
そして、それを愛する俺こと「パレイス・ホーン」は今日もブブゼラを背中に提げて町へ入る。
と、その前に、西門の門番長こと「番長」(俺が勝手にそう呼んでるだけ)に税を払わないとな。
「番長、俺が帰ってきましたよ」
「帰ってくんな」
今日もキレッキレだな。
「うるせぇから街に来る途中にブブゼラ吹くのを止めろ、と何回言えば理解できるんだ!!お前の耳、ブブゼラでやられてんのか?あぁ!?」
「それはそれでいいですね!!ブブゼラの音で耳が聞こえなくなるなら本望です!!」
「もうお前マジで怖ぇよ!あぁそうだった。やられてるのは耳じゃなくて頭だったな!!」
「あぁ!!でも耳がやられたらブブゼラの音色も聞こえない!!それはだめだ!」
「あれを音色とは呼べねぇよ……もうやだお前。速やかに税金払って町の中で静かにしてろ。」
わぁ呆れられてる。まぁいいや。さっさと家帰ってブブゼラとゆっくり過ごしたいしな。
「はい、欲しがってた税金ですよ」
「別に俺は欲しがってねぇけどな……確かに受け取った。通ってよし」
さらば、番長。
「お前くれぐれも家の中でブブゼラ吹くなよー!近隣住民が迷惑してるぞー!」
「ブブゼラ、帰ろうか」
『……』
番長の言葉をスルーして町の中へ。
今日は疲れた。討伐報酬もらいに行くのは明日にして、家に帰ろう。
「今日は疲れたなぁ」
『……』
俺たちは、小さなボロ屋に住んでいる。一か月間ほとんど飯を食わずに、危険な仕事で稼いだ金で買った。俺がその仕事を始めて三十日ほど。そもそも俺がこの町に来たのが四十日前だ。こんな短期間で、ボロ屋とは言っても家を買えたのは「ブブゼラと二人暮らしをしたい」という強い思いがあったからだ。
「いくら強化されたお前でも、あの攻撃はさすがに痛かったよな。ごめんな」
『……』
「さぁ、水浴びしてこようぜ」
『……』
水浴びは、ボロ屋の裏側でしている。井戸の水を汲んできて、頭から念入りに流していく。
「今日はいつもより水が冷たいな…少しずつかけていくぞ」
『……』
「よし、いい感じだ。きれいになったな」
『……』
「さ、飯食うか」
今日の晩御飯は、パンと野菜スープ。質素だが、これもブブゼラの強化の為だ。そう思えば、質素な食事もなんてことはない。
パンをかじりながら、俺は問う。
「ふぅ…突然だが、お前は仲間が必要だと思うか?」
『……』
「俺は正直、必要だと思う。あ、いや別に、お前の力が頼りないってわけじゃないぞ?ただ、俺の戦闘スタイルの偏りをカバーしてくれる仲間が必要だと思うんだよ」
『……』
「だから、明日もう一度募集をかけてみるつもりだ」
『……』
「これで仲間になってくれる奴がいてくれたら、戦闘もだいぶ楽になる……はず」
『……』
「お前も…それでいいだろ?」
『……』
「よし、なら決まりだ!あしたはギルドで仲間を募集するか!さぁ寝よう!」
『……』
腐りかけた木の床に、布を敷く。これで寝る準備完了だ。
「おっと、寝る準備はまだ終わってなかったな」
『……』
「今日はハイテンポでいってみようか。いくぞ……」
『……フゥゥゥ』
せーのっ!!
『ブォォオオォォォブァァァァブォォオオォンプィィィイィィプァァアアアァ!!!!』
俺とブブゼラの愛の旋律は、俺が息切れを起こすまで続いた。
これが、俺の日常であり、平和そのものである。