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六幕:独白



 僕には母親がいない。いや、少し語弊があるか。子供を産むためには一組の男女が必要で、女性の存在は必要不可欠だから。言い直すとするならば、僕の母親は僕の物心がつくまえにこの世から去ってしまった。

当時、寂しいという感情はあまりなかったような気がする。僕は中学校に上がるまで、父方の祖父母に預けられて育てられていたし、父は週末になると僕といつも遊んでくれた。遊園地に行ったり、釣りをしたり、十分な愛を受けて育ってきたのだと思う。今でも父との関係は良好で、父は僕のことをよく気にかけてくれる。学校はどうかだとか、友達は出来たかだとか。僕は幽霊が見えるということ以外では普通の少年であるし、たぶん父にとって、いや周りの大人にとって模範的な子供であったのではないかと自分では思っている。祖父母や父がよく言うのは僕は本当に手がかからない子供だったということ。夜泣きはしないし、言われなくてもよく勉強をして学校にもごねずに通っていたものよね、と。良く言えば落ち着きがある達観している子供、悪く言えば子供らしくない子供だったのだろうと思う。

母親がいないことは僕が人格を形成するうえで大きな影響を与えていたのだと、僕は今でもそう感じる。いい子だったのは、きっと唯一の肉親である父に捨てられるのが怖かったから。だから必死にいい子を演じていた。

それに加えて不幸なことに僕は幼い頃から幽霊を見ることが出来た。僕の、一番幼かった頃の古い記憶を手繰り寄せても、母親が見えたなんて記憶は存在しない。母さんには、幼い僕を残して逝くことに未練がなかったのだろうか。僕はどうでもいい子供だったのだろうか。そのことがいつまで経っても僕の心の中に占める。なんて女々しいのだろう。表面では寂しくないよ、辛くないよと笑っておきながら、心の奥深くで僕は母親からの愛を求めている。



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