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記念作品シリーズ

そして

作者: 尚文産商堂

高校は、とても楽しいところだ。

私が通うようになってから丸2年。

まだまだ知らないことが多いんだということを再認識する。

なにせ、知らないお店や、裏道抜け道回り道。

授業だって、まだまだ知らないことが出てくる。

そして、私たちの教室には、面白いものが置いてある。

それは、1年生の時に作った陶器の人形だ。

自然学校だっただろう。それを作らされたのは。

あの時はいろいろと面白かったと、今振り返っても思う。


「……ということでだ、ここでは積分定数Dが現れるわけだ」

数学をしているが、よくわかっていない。

それでもまあいいや、そんな感じで日々を送っている。

そう、あの時まではそうだった。



陶器の人形は、教室の一番後ろの棚に全員分が並んでいる。

いや、正確には全員ではない。私のはない。

自然学校の2日目、飯盒炊爨(はんごうすいさん)の火に、こけて手を突っ込んで左手大やけどをしたからだ。

だから、私のだけここに人形がない。

その日は病院で包帯ぐるぐる巻きにされていたからだ。

だからこそ、これから起こる悲劇のことを、こうやって記すことができるのだろう。


それは大掃除の時だ。

私が机を動かしていると、カタンという音がした。

小さな音であったが、何やら耳障りな感じがしたから、その方向を向く。

誰もいないぽっかりとした空白の空間に、人形が一つ、倒れていた。

「あれぇ?」

私が机をもとの位置に戻してから、人形へと近寄る。

その前に、誰かがやってきて、それを直した。

「勝手に倒れちゃったね」

「安定性が悪いのかなぁ」

でも、そんなことはこれまでなかった。

それでも私はそんなことだろうと思い、特に気にすることはなかった。

それがすべての始まりとは知らず。


翌日になり、同級生の一人が学校を休んだ。

あの、倒れた人形の子だ。

頭を強く打ち、脳震盪を起こしたらしい。

「みなさんも、気をつけるように」

担任がそう言うと、ばらばらにはーいと返事をする。

それからは何の変哲もない日常だ。

しかし、男子らが遊びで人形の一つを壊してしまうと、様子は一変する。

パンと音が教室に響く。

「ちょっとー、何してるの男子さー」

私の横にいた友達がいう。

その時だ、カタン、と音が鳴り、近くの子の頭がはじけ飛ぶ。

血は出ていない。

まるで人形が砕けるかのように、ただ割れた。


それからは悲鳴と悲鳴の狂想曲だ。

先生によってどうにか抑えられたけど、この日以来、私たちは人形を悪魔と呼ぶようになった。

いったんは伝染病か何かということにされ、私たちは全員が隔離されることもあった。

でも、結局は何もなく、3日の措置入院後に全員がまとめて退院となった。

頭が割れた子は、なえか普通に話すことができる。

だが左側頭部は何もない、ぽっかりとした空間が広がっている。

そこに当てはまるはずの脳がすっぽりと抜け落ちているからだ。


「やっぱり、これが原因なのかな……」

私は友達と教室で人形を見ていた。

何も彫られていない、たんなる陶器の人形だ。

でも、それには何か宿っているのは間違いない。

「お祓いとかいるのかも……」

友達が言う。

「いやでもさ、お祓いなんてどうやってするんだよ」

誰かが言う。

もはや人形はここに置いてある風景の一部ではなく、悪魔となっていた。

尾ひれがつき、今や、呪いの人形である。

「とりあえず、こいつらが倒れないようにしておこう。ボンドか何かで止めればいいだろ?」

男子が言うとすぐに接着剤が持ってこられた。

足元をボンドで止めると、その子は突然足が止まる。

そしてそのまま倒れた。

「なっんだよ、これ」

硬直でもしているかのように、わずかな動きも見せない。

それどころか、じょじょに両足が気を付けのようになり、そのままびしっと固まった。

上半身は動くようで、腰から上を使って這うことはできるようだ。

でも、それ以上はない。

完全に足が動けなくなった。

「おう、はく離液だ。持ってきてくれ」

床から声が聞こえるような感じだ。

はく離駅なんて持っていなかったから、やはり先生に話をして、家庭科室から持ってきたものを使った。

どうにか足は動くようになったが、かなりぎこちない。

「くそっ、これどうなってやがるんだ」

男子は叫ぶ。

「原因はこいつだ」

誰かが指差して人形を指す。

何かしらの力が宿ったのは間違いないだろう。

でも、それが何かはわからないし、なぜかはわからない。

それでもはっきりしているのはある。

私たちに向けての敵意だ。

それで私たちは攻撃を受けている。

そうとしか考えられない。



翌週、謎の専門家がやってきた。

担任の先生にうながされ、その専門家なる人らが話し出す。

赤羽鈴音(あかばねすずね)といいます。こちらは岩太京師(いわたけいし)。私たちは未確認超常現象を追っている専門家です」

なんとも嘘くさいのだが、気にしてはいけないのだろう。

こういう人も、世界は広いからきっといるのだろうし。

男女のカップルだということは特に珍しくない。

でも、珍しいのは、女性の右中指に大きな大きなルビーが収まった指輪をしているということだ。

「それで、うわさで聞きましたが、なにか超常現象のようなものに巻き込まれているとかなんとか」

「そうですっ、あれもこれも、あの悪魔が悪いんだ」

叫ぶ声が聞こえるが、その通りだと、私は思わずうなづいた。

「ほうほうなるほどなるほど」

あれよあれよと聞いていると、なにかしらの結論に至ったようだ。

「あの人形が、原因だね」

彼らが指差した先には、もちろんあの人形が並んでいた。

ルビーのような赤色が、教室前面に広がる。

「サイン神からの命令よ。あなた方を封し、連れて来いと」

男が瓶を懐から取り出した。

サイン神?あなた方?謎は謎を呼んで、訳が分からない。

「いやだとは言わせないぞ、覚悟しろ」

今度は瓶をもってふたを開け始めた男が話す。

その瓶は正八面体を細く引き伸ばしたような形をしていて、今度は緑色のガラスのようなものでできている。

ふたと思ったのは上向きにとがったところの上2センチぐらいがねじれて開くようになっているからだ。

「さて、君らはここに来るべきではない。委員会は君らの行き先を探していたよ。だから、君らは元の場所に戻らないといけない」

女のルビーの赤色は、どんどん教室の壁に沿って、明らかに物理法則に逆らって広がっていく。

「色はすべてを覆い隠す。空気のようなものだからね。白色から3つの色に分かれ、それが一つに収斂(しゅうれん)する。集まった点は特異点を形成して、それがこの世界と別の世界をつなげる。そのすべてのもとになる」

そんなことを言いながら男が人形へと近寄っていく。

すると人形から黒色の煙のような砂粒のようなものがあふれ出してきた。

「……ほう。あなた方は、もしかすると、過去の神ではありませんか?」

その影と会話をしているようだ。

何を言っているのかはわからないが、それでもたまにうなづいたり、なにか言ったりするところを見ると、話が通じる相手らしい。

「人形を作った人たちは、これで全部ですか」

担任に突然話が振られる。

「いいえ、病院に1人入院してますけど……」

それでも冷静に担任は話を返した。

「彼らを鎮めるためには、どうしても、全員をここに集める必要があります。いいですね」

「ではすぐに手配します」

そういって担任は電話をかけ始めた。


結局翌日、臨時の退院許可が下り、その子は戻ってきた。

脳の欠如は徐々に広がり、今や左のほぼすべてと右の6割ほどが失われた。

それでも普通に話すことはできるし、なにか運動に支障があるというわけではない。

「よし、では始めます」

今は教室全体が赤色に包まれている。空気ですら色に染まっているような感じに思える。

目の前が血のような赤色に染まり、それが脳全体を侵していく。

最ぼの一つ一つに色素が沈着して、しみになる。

それが時計にして数秒で終わる。

その間、何が起きたかはわからなかった。

「はい、終わりましたよ」

女が話す。

男が持っている瓶の中には、何か黒色の液体が入っている。

その中身を知る勇気は、私たちにはなかった。

脳がなくなった子は、いつの間にかパテのような灰色で空間が満たされていた。

「では、私たちはこれにて失礼を」

あっという間に出ていった。

彼らが本当は何者なのか、疑問が数多くあったけれど何はともあれ、これで終わった。

そう、きっとこれで終わった。


のちに、私は陶器の人形を作った。

今度は現実世界に何の影響も起きてはいない。

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