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第9話:行きますよ、ランヒュドールさん。

 スクラは焦っていた。だんだんと近づいてくる、人間に。


「気配がする。近づいてきている」

「人間のくせにやるねぇ」

「だはははははは! すごいやつだな!」


 先ほどまでプロクシュテンとランヒュドールは言い争っていたのだが、今は落ち着きを取り戻し、何とかなっている。

 しかし、言い争ってはいないものの、プロクシュテンはこの状況を楽しんでおり、ランヒュドールは相変わらず、でかい声で笑っている。それがスクラにとっては辛い。


「お前たちはどうして、いつも……」

「まあ、スクラ様、楽しみましょうって」


 黒の国に侵入してきた事だけでも大きな問題だと言うのに、さらに奥に侵入してくるなど思ってもみない事態である。四天王の1人である、アーネモスも倒されてしまった。

 スクラは、魔王としてこの状況を何とかしなければいけないと思っている。そうでなければ、母親に顔向けできないからだ。


「ええい! 行って来い、ランヒュドール」

「お、いいぜ? 俺の魅力、発揮してくるぜ!!」


 ランヒュドールは迷う事なく、返事をして、また大きな声で笑いながら、スクラの部屋を出ていった。嵐の過ぎ去ったような静けさが訪れた。


「俺でもよかったんですよ?」

「四天王の1、2を争うお前に早々行かれては困る。順番は大切だ」

「はいはい」


 プロクシュテンは少し、ふて腐れながらソファに寝転がった。

 プロクシュテンは早くアーネモスを倒したという奴らと戦ってみたかった。それでも、スクラに黙って戦いに行く事はしなかった。話を通しておくのは仕える者として、しておかなければいけない事であるからだ。それくらいはプロクシュテンもしっかり理解している。


(ま、頑張ってよぉ、ラン?)




 黒の国、城の一室。

 相変わらず、アンドレスタは可愛らしい姿のまま部屋にいた。拘束はされていないが、扉は強固な力によってふさがれている。扉だけでなく、壁も、床も部屋全体が強固な力の影響を受けて簡単には壊す事が出来ないようになっている。


 アンドレスタは膝を抱えてベッドの上に座り込んでいた。暗い部屋の中で動きたくなかった。薄暗い部屋の中に1人ぽつんといるのはすごく寂しい事だった。

 決して狭い部屋ではないのだが、彼にとってこの部屋は少しばかり大きく思える。だから、より寂しさを強く感じている。


(私はこうしている事しかできないのか……)


 アンドレスタは一国の王子である。よって、剣術から体術まで習うのだが、どれもこれも彼は上手くいかなかった。

 勉学は上手くいく、国政も覚えるのは早かった。それでも、戦う事、自身を守る事となるとどうも上手く身体が動かなかった。そんな第一王子を心配しているものは城の中に多くいたのだ。


 こんな事で、国を任せられるのか、と。


 それからアンドレスタは武術の稽古が嫌いになってしまった。前までは嫌でもなかったのだが、そんな人々の眼差しを感じるようになってから嫌いになった。

 稽古をするより、部屋に籠って裁縫に読書、庭園で花を眺める事の方が何倍も好きだった。戦う事は嫌いだった。


 それでも、強さには憧れた。


 耳にしたのは勇敢な隣国の王女の名前。

 マースリー・エルドレイア。またの名を、「陽光の貴公子」。

 王女でありながら、剣術、体術にも秀でているという方だった。アンドレスタはそんな彼女の強さに惹かれてしまっていた。いや、憧れていた。


 自分も強くあれたら、と。


 強さがあれば周りからの目も気にしなくて済む。姉たちから可愛いと言われて、ドレスを着せられる事もなくなる。そう感じていたのだ。

 でも、結局強く思っても、上手くはいかなかった。


 誰かを傷つける事が怖かった。誰かを守るためと知っていても、アンドレスタは動く事が出来なかった。そんな自分が嫌いで、そんな自分を変えたいと思っていても変わらない。もどかしくて、毎日が辛かった。


 あの日、彼女に出会うまで、アンドレスタは悩み、苦しんでいた。



(わたくし)はマースリー・エルドレイアと申します」



 アンドレスタは夢の様だと思った。


 憧れのマースリー・エルドレイアが自身の目の前にいて、そして、彼と話がしたいと彼女から言ってきたのだ。

 彼女との時間はアンドレスタにとって、とても楽しく、嬉しくあった。


「私は剣術も体術も上手くいかない、弱い王子なのです。だから、私は貴女が羨ましいのです」

「私が羨ましいのですか? 力の強さが、その人間の強さでは無いというのに?」


 マースリーは優しくアンドレスタに微笑みかけた。



「貴方は生きているものを大切に思う優しい心があります。それは、アンドレスタ殿の強さですよ?」



 まっすぐ向けられた、そのオレンジ色の瞳に彼は救われた。



 ――もし、攫われたのがマースリーだったら?


「……私はきっと拙い剣術しかなくとも助けに行く、な」


 戦う事が怖いと感じているアンドレスタだが、この時の答えはすぐに出てきた。

 マースリーが攫われる事など万が一にもないとは思うが、そうなった時、迷わず助けに行くだろうと思う自分に少し嬉しくなりながら、アンドレスタはベッドから降りた。


「ここから出られる、貴方からもらった強さが私にはある」


 自分に言い聞かせるように、固く閉ざされた扉の前にアンドレスタは立った。












─黒の国城近辺


『どうして、人間がここにいる?』

「姫様、魔族です」

「また来たのか」



お待たせしました、第9話です。

前回、今回は少し真面目です。

それぞれ、思うところがある2人は無事出会えるのでしょうか。


ランヒュドール、最後の四天王の活躍もよろしくお願いします(笑)


それでは

次回もお会いしましょう!

2014/10 秋桜(あきざくら) (くう)

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