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第7話:侵入者ですよ、魔王さん。

「アーネモスちゃんがやられました」


 窓から現れ、部屋のソファで寛ぎながら言ったプロクシュテンの言葉にスクラは硬直した。

 アーネモスは四天王の1人であり、今まで誰1人として黒の国に侵入者を許した事がない。それは、人間より力を持つ魔族、さらには四天王と呼ばれる程の力を持った者のお蔭だった事をスクラは知っている。その四天王である1人が倒された事は魔王の思考を止めるには十分すぎる理由になる。


 そんなスクラは飄々としているプロクシュテンが信じられなかった。

 確かに、プロクシュテンは四天王の中でも1、2を争うほど強い。しかし、四天王の1人が倒された事には変わりないのだから少しくらい動揺しないものかとスクラは思う。


「……前代未聞だぞ」

「そうですね」


 プロクシュテンはニヤリと笑った。彼にとっては仲間が倒されたという事よりも魔族より強い人間がいる、という事の方が興味深く、何よりも嬉しいのだった。

 倒されたアーネモスを見た時、悔しさよりも先に芽生えた、何とも言い難いような、心をくすぐる何か。嬉しい、という感情が一番近いのだとプロクシュテンは思った。


「身体がうずうずしますよ。俺が弄びたいですね」

「……そういう事か。お前は本当に喧嘩が好きだな」


 スクラはそんなプロクシュテンを頼もしいと思っている。魔族は基本的に恐れというものを感じない。恐れを感じるのはどうしようもない大きな力を感じた時。自分より少し強い力がある者と対峙すれば逆に闘争心を駆り立てる。

 しかし、プロクシュテンの場合、大きな力に対峙したとしても恐れを感じない。それが良いのだが、スクラはちょっと怖いなぁ、と思う。

(まあ、私に敵う事はないだろうが)


「で、その人間はどういった奴だった?」

「えーと、途中からだったんで、名前は……なんだっけかな。あ、でも、男が2人いましたよ」


 プロクシュテンは顎に手を当てて、うーんと唸っていた。

 しばらくして、思い出したのか顎にあった手を外し、両手でポンと音を鳴らした。


「そうそう、確か『ヒメ様』って呼ばれていましたよ。もう1人は……ハイ……ハ……あれ? うーん、まあいいか! で、そのヒメって言う人がなかなか強くて、アーネモスちゃんを倒したんです」

「……アンドレスタを助けに来た者と考えられるな。何か手をう――」


「来たぜー、スクラー!!」


 スクラの部屋のドアが豪快に開かれる。豪快すぎて、ドアが粉々に砕ける。

 現れたのは体格のいい、筋肉質の、男……? いわゆる、ゴリマッチョがそこにいた。ピンクのレースがあしらわれたワンピースを身に纏って。


 その登場にプロクシュテンは顔をゆがめ、口元に手を当てた。

 そんな事気にも留めず、ズカズカと部屋に入ってくるゴリマッチョ。


「ど、どうかしたのか、ランヒュドール」


 ランヒュドールとはこの黒の国の四天王の1人である。ヒト型の魔族で、水を司る。

 大きな身体、そして、その身体に見合ったものすごいパワーを持っている。ドアを粉々にしたことから分かるように、力の制御は苦手らしい。

 好きなものは可愛いもの。見ているだけでは飽き足らず、自身が可愛いものを身に着けようとし始めたのは結構最近からである。


「おう! 今日着ているのは新作なんだがどう思う?」

「ピンク、か……」


 自信たっぷりにスクラの前に仁王立ちし、腰に手を当てて見せびらかしている。

 胸元の可愛らしいレースがふんわりと揺れ、柔らかな女の子らしさが強調されている。……女の子らしいのは勿論ワンピースの方だ。


「だろ? 赤と迷ったんだが、ピンクが良いよな!」

「布が悲鳴をあげているがな」

「いや、確かにここに来るまでいろんな悲鳴を聞いたがよぉ。俺が通るたびバッタンバッタン倒れていきやがる。がっはははははは!」


 ランヒュドールは豪快に笑いだす。

 その声は低く、地鳴りがするようだった。その振動にプロクシュテンは胃の中のものが飛び出してきそうになる。


「お気の毒にな」

「だな。俺の可愛さにやられちまったんだからよ!」

「まあ、過猥(かわい)い、な」

「やっぱり、スクラは分かる奴だよ!!」


 そしてまた、地鳴りを伴った笑いを部屋中に響かせる。

 スクラは何とも言い難いような顔で見ていたが、その眼は明らかに死んでいる。


「ああああああ! ランはどーしていっつもそんな恰好してるの!? かわいい女の子が着てくれるなら喜んでそのレースに飛び込むけど、お前のあっつい胸板はごめんだ!」


 吐き気を抑え、それを叫びに変えたプロクシュテンはランヒュドールを睨みつける。


「おいおい、お前は変態か?」

「お前にだけは言われたくない!」

「俺のどこが変態なんだよ?」

「全部だ!! この勘違いゴリラ!!」

「ああ゛? 誰がゴリラだぁぁああ?」


 いつものように争いを始めそうな2人を視界の横で確認しつつ、放って置く方がいいだろうと考えるスクラだった。

 (さて、侵入者を如何にして追い出そうか……)

 黒の国はそう簡単に入る事は出来ない。まず、魔族がうじゃうじゃいるような所、人間は近づこうとはしなかった。


 今ここで、アンドレスタを奪還されてしまえば、人質という交渉材料が消え、結界を解くことは困難になるだろう。

 人間が作った結界と言えど、その強度は強固なもので、スクラですら小さな穴を空けるのに4ヶ月はかかった。全て解くことは無理に近い。


(まあ、四天王は3人もいる。そいつらが負けるわけがない。……ましてや、この私になど、勝てるはずもないだろう)

「人間など、もろ――」


「この怪力ゴリラ!!」

「黙れ、女ったらし!!」












「……お前たち!! いい加減にしろぉぉおお!!」


 母親のようにかっこよくセリフを決めたかったスクラは怒鳴ったのであった。


四天王3人目です(笑)

マッチョで可愛いものが好きで低音ボイスです。


それでは、次回もよろしくお願いします!

2014/10 秋桜(あきざくら) (くう)


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