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第6話:本気ですよ、アーネモスさん。

 温かなはずのオレンジ色の瞳はなぜか見ているだけで寒気がしてくる。

 一気に冷えたその空気に、アーネモスは震えた。この人間はそこいらにいるただの人間とは違うと本能が叫んでいた。気を抜いては()られる、そうアーネモスは思わされてしまった。


(人間にこの姿を晒す事があるとはね……)

 アーネモスの周りの空気が震え始め、風がアーネモスを包んでいく。


 ヒト型になると大きな力を使う事が出来るため、疲れてしまうからなりたくはないのだが、そうしなければいけないと判断したアーネモスはヒト型になる事を決めた。

 そして、ヒト型に――。


「はあっ!!」

『!?』

 アーネモスは後ろに蹴り飛ばされ、木の幹に身体を打ち付けた。その間に草木で体中に小さな赤い傷跡が出来る。


「魔族には油断できないな」

 先ほどまでアーネモスがいたはずの場所にはマースリーが凛々しく立っていた。


「……油断できないのはあなたの方ですよ、姫様。第二形態くらいならせてあげましょうよ」

 ハイマットは背中や腰をさすりながら、マースリーに近づいて行った。顔は呆れている。


(わたくし)は急いでいる。アンドレスタを早く救い出さなくてはいけない」

「そうですが、何というか、可哀想というか……」

「魔族に肩入れする気か、ハイマット」

「そういう事ではありませんよ」



「貴様らは黒の守護神の名に懸けて、倒す」



 2人が慌てて声の方を見ると、そこには鳥の姿ではなく、風を纏ったスラリと美しい女性が立っていた。身体は半透明で緑がかっており、髪の毛は長く腰には余裕で届いていた。


(よかった、第二形態になれたようです)

 ハイマットは敵であるにもかかわらず、アーネモスのその姿を見て内心ほっとしてしまった。隣にいるマースリーは不機嫌だったのだが。


「ハイマット、早急に片を付ける。あと、分かっているな?」

「御意」


 マースリーは腰から剣を抜き、アーネモスを見据える。同じようにハイマットも剣を抜いて、アーネモスの様子を観察していた。

 ふと、ハイマットは辺りに今まで感じなかった気配を感じ取った。


 アーネモスを伺うと彼女はハイマットの視線に気がついたのかニヤリと不気味な笑みを浮かべた。その気配はいつの間にか2人を囲むようになっている。

「姫様、囲まれました」


 横にいるマースリーにハイマットが小さな声でつぶやくと、彼女はいつもと変わらない声のトーンで答えた。

「周りにいるのを無理のない範囲で任せる」

「では、黒の守護神はお任せしますよ」


 会話が終わると、それが合図だったと言わんばかりに2人はそれぞれ別の方向へ地面をけった。その動きを見て、魔族たちも動き出す。

 マースリーはまっすぐアーネモスに向かい、アーネモスもそれに反応し、互いがぶつかる。


「多くの魔族を呼ぶなど余裕がないようですね」

 マースリーが剣を振りかざすが、ふわっとその剣を躱して宙を舞うアーネモス。彼女自体が風と同化しているようだった。


「そちらも2対1など公平ではないのではないのか? だから、これで公平だ」

「数は違うが、実力的には対等でしょうね」

「貴様っ」


 アーネモスも風を操り、マースリーにかまいたちを浴びせる。しかし、そんな無数の攻撃をマースリーはいともたやすく避けてしまう。

(避けたことは、褒めてやろう)


「ガルルルルルッ!!」

 マースリーはアーネモスの攻撃を避けているうちに、いつの間にか、犬型の魔族に背後をとられていた。

(なかなか考えたようね。しかし……)


 それを見て、アーネモスは決着がついたと思ったが、その犬型の魔族はいつの間にか赤いものを吹きだして呻き声をあげた。


「ガァァァァァアアアッ!」

「姫様の邪魔、ですよ」


 ハイマットは剣についた血を振り払い、アーネモスを睨みつける。気がつけば、約10匹はいたはずの犬型魔族が残り2,3匹になってしまっていた。血だまりの中に佇むその姿こそ魔族ではないかと思うほど恐ろしい。

 そんなに時間は経ってはいなかったが、地面には点々と血痕や魔族が転がっている。


「よそ見ですか?」

「くっ!」

 目の前でマースリーの剣が空を斬った。あと、ほんの少しでアーネモスを切り裂いていただろう。


 やっとの思いで躱したのだが、今まで目の前にいたはずのマースリーがいなくなっている。間もなく、気配が背後から感じられ、振り向く。

 マースリーはまた剣を振るう。


 アーネモスは風を操りさっと空中に逃れる。空中に来なければ逃げる事が出来ないほどマースリーの動きは素早かった。

 空中からの攻撃ならばこちらが優位とアーネモスはさらに地面から距離をとる。そこでマースリーを見下ろすのだが、彼女から焦りは全く見えない。


(なんなんだ、あの人間は)

 見下ろしているはずなのに、全く心に安心感が得られなかった。それどころか、背中が急にぞわっとした。




「地面にお連れしますよ、黒の守護神殿」




 マースリーは冷やかに言うと、アーネモスを地面に叩きつけるように回し蹴りをお見舞いした。その蹴りはアーネモスの首の辺りにヒットし、一瞬意識が飛んだ彼女は抵抗することなく、またしても地面に叩きつけられた。


 アーネモスは風を司るが、自身が風ではないため物理攻撃は普通に効いてしまう。

 一瞬飛んだ意識を気力で手繰り寄せ、起き上がる。しかし、節々が痛く、アーネモスは顔を強張らせた。そのアーネモスの前に先ほどから全く表情を揺るがせないマースリーが降り立った。


 ハイマットも近くにおり、最後の1匹が倒されていた。その場に残った魔族はアーネモスただ1人となった。

「……人間が、よくもまあ」

 アーネモスは立ち上がって先ほどより爛々と輝く瞳を2人に向けていた。


 その時いくつもの竜巻が2人の周りに発生し始める。そこらじゅうの木々、草、岩でさえも巻き上げて、だんだんと1つに集結していく。

「姫様!」


 大きな力にさすがのマースリーも眉間に皺を寄せた。飛んできた木の枝が彼女の頬を裂いていく。何とかその竜巻を避けながらハイマットはマースリーの元に向かう。

「ハイマット、下がって」

「しかし、それは――」

「下がりなさい」


 その瞳に揺るぎも迷いもなく、ハイマットは固まってしまった。

 頼もしく思える自分の主。だが、結局は一国の王女である。その王女の頬に傷まででき、その上、下がっていろと言われたハイマットは複雑な気持ちになる。


「違うよ、ハイマット。お前を巻き込みたくない」

 その言葉の真意が分からず、ポカンとしてしまったハイマットだが、マースリーがどんどん竜巻の方へ進んでいくのを見て心臓が止まりそうになった。


「な、何をし――」

 マースリーを止めようと手を伸ばしたその時、嵐の様だった辺りは一瞬にして静けさを取り戻した。




 マースリーが剣をたった一振りしただけだった。




 マースリーのその一振りで風は一瞬にして消え去り、宙に浮いていた木々、草、岩、全てのものが雨のように降り注ぐ。

 目の前のその光景にアーネモスもハイマットも言葉を失い、目を見張る。


(確かに、下がっていてよかったかもしれない)

 ハイマットは自分の主が強い事を再確認したと同時に、恐ろしいと思ってしまった。


「さて、守護神殿」

 マースリーはアーネモスの首筋にスッと、音もなく剣を向ける。

 もう、アーネモスは動くことさえできなかった。先ほどの事を目の当たりにすれば当然と言えば当然なのかもしれない。




「私の勝ちですね」




 誇らしげに言ったのち、マースリーは剣を振るった。








「お顔を傷など、陛下に怒られます」

 ハイマットはすぐにマースリーの傷の手当てに向かった。先ほどまで呆然としてしまったが、側近としての仕事を思い出し、手を動かしている。


 マースリーは傷に沁みるのか目をギュッとつむっている。

「それにしても、よろしいのですか?」

 ハイマットは横たわっている魔族たちに目を向けた。

「アンドレスタは人質。殺されていないのならば殺す必要もない」


 魔族たちは全て急所を外しており、今は回復の途中といった感じで眠っていた。

 アーネモスはマースリーにみねうちをくらっただけであった。


「あんなに血だまりにして、ハイマットは少しやりすぎだと思うのだけど」

「……そうですが、あなたには言われたくないです」

 それを聞いても、マースリーはやりすぎたとは全く思わなかったのである。ハイマットも疑問符が頭に浮かんでいるような主を見てそれを察し、また、ため息を吐くのだった。













「あーらら。アーネモスちゃん、残念。報告報告っと」





戦闘シーンは難しいです。


それでは

次回もよろしくお願いします!

2014/9 秋桜(あきざくら) (くう)

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