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第5話:四天王ですよ、お2人さん。

 黒の国近辺も下級魔族がうようよといる地域である。また、警備の為その地域を統括してまとめている四天王もいる。だから、人間は簡単に近づけない。第一、近づこうと思う人間すらいないのだが。


 そこを統括するのは黒の国四天王の1人、風を司るアーネモスだ。アーネモスは立派な翼を持ち、飛び回り、黒の国を監視している。変な行動は見逃さないのだ。その事から黒の守護神とも呼ばれているのだ。


 今日もまた飛び回り警備を終えた直後だった。羽を休め、木に止まっていると魔族の気配がしたためその方向を睨む。


「やだな、俺だよ」

『お前だからだよ、プロクシュテン』


「酷いな、どういう意味? それより、そんな鳥型じゃなくてヒト型になってお話ししようよ、アーネモスちゃん」

 そう言って近づいてくるプロクシュテンが面倒になったため。折角休憩していた羽根をまた使い、空高く飛び上がった。


 アーネモスは普段から鳥型で生活しているのだが、時としてヒト型になる場合がある。その姿は美しいためプロクシュテンに何度もヒト型になれと頼まれている。

 アーネモスとしてはヒト型になるのは体力的にも精神的にも疲れるのでしたくはない。精神的な面は100%プロクシュテンのせいである。


 高位の魔族はそれぞれヒト型になる事が出来たり、他の動物の姿になる事が出来たりする。 魔族にはヒト型として生まれるものと、動物型で生まれる2種類がある。ディアボロストの一族はもともとがヒト型の魔族である。もちろん、自在にいろいろな姿になる事が出来る。プロクシュテンも同じである。めったに動物型になることがないので見た魔族は少ないが。


 一方、アーネモスはもともとが動物型である。しかし、動物型で生まれる魔族はヒト型になる事が疲れるため、それほどヒト型で生活することはない。ヒト型の魔族はいろいろな動物になる事が出来るが、動物型の魔族はいくら強くとも生まれた時の動物にしか姿を変える事が出来ない。

 アーネモスで言うと、鳥型とヒト型にしかなれないのだ。


 ようやく、プロクシュテンの姿が見えなくなったので一安心したアーネモスだったが、黒の国近辺に魔族ではない者の気配がしたため急いでその場所に向かう。


 空から急降下し、体中に風を受ける。その風の中を流れるように抜けて降り立つと、そこにいたのは2人の人間。どちらも男の格好をしているが、ミルクティー色の髪の方はなんだか柔らかい雰囲気を感じるので、よく分からないとアーネモスは思った。


『貴様ら、ここがどんな場所であるか知った上でいるのか?』

 目の前に突如として現れた魔族に一瞬ひるみはしたが、2人はすぐに気持ちをたてなおし、アーネモスと対峙した。


(わたくし)の名はマースリー・エルドレイア。婚約者を返してもらいに来た」

 スッと前に出て、臆することなくアーネモスに言い放ったマースリー。その姿がアーネモスにとっては面白く、魔族の闘争心を駆り立てる。


『スクラ様が攫ってきた者の婚約者か。我が名はアーネモス。生憎とここを通すわけにも人質を返すわけにもいかないな』

 アーネモスが翼を一振りすると、アーネモスは浮き上がり、辺りには突風が巻き起こる。


「アーネモス……、黒の守護神か。姫様、黒の国四天王です」

 巻き上がる草や砂から目を守るため、腕を顔にかざしながらやや大きめの声でハイマットがマースリーに向けて言った。


「いきなり、四天王に会ってしまうとは、なかなかな強運を持っているな」

「強運ではありません、凶運ですよ、姫様」

「何が違う」

「……何でもないです」


「強い者は早くのうちに潰してしまうのがいいだろう? ちょうど、身体も鈍っていたしな、()()()()には丁度いい」

「なんで、嬉しそうなんですか……」


 一国の王女が潰すとか言っているのは正直言ってどうかと、ハイマットは思うのだが、婚約者を奪われた事と会えない時間でフラストレーションが溜まっているのだから仕方がないかと諦めるしかなかった。


 そんな会話を普通にしているのだが、辺りは風によって何も見えない。巻き起こる風が時とともに大きくなっており、2人を飲み込んでしまっている。

 アーネモスはその様子を上から眺めていた。


(救いに来たと言ったが、この程度か。つまらぬ。)

 最後に風を巻き上げて、2人を空中へと放り、地面に叩きつけてやろうと思い、アーネモスは再びその翼を使った。アーネモスの目論見通り、2人は空中へと放り出された。そして、地面に叩きつけようとまた風を操ろうとした。


「フェアにいきましょう」

『なっ!?』


 一瞬にして眼前に迫ったマースリーに驚いた時にはもうアーネモスは自身が地面に叩きつけられていた。

 背中に衝撃が走り、肺から空気が漏れる。

 マースリーはハイマット連携をとり、アーネモスに接近したのであった。


 マースリーは綺麗に地面に着地していた。結構な高さがあったはずなのに何でそんなに平気なのかとアーネモスは目を疑う。証拠にマースリーと一緒に空中に放られたハイマットは茂みで呻いている。茂みに着地出来たはいいが、それなりの距離が彼を苦しめた。


「あなただけ空にいるなど公平ではないですよ」

『……魔族に公平など必要ない』

「そうですね、別に構いませんよ。ただ――」


 アーネモスは辺りの空気が一気に冷えたことに気がついた。原因は明らかに目の前にいる、マースリー。アーネモスは鳥肌が立った。




「何度でも地面に連れてきてさしあげますよ」


















 少し離れた茂みでハイマットは背中をさすっていた。茂みに落ちたことはまだましだったが、痛くて仕方がない。

(私にはハードすぎる準備運動ですよ……)

 ハイマットはため息をつきながら渋々立ち上がった。




次回も戦闘がつづきます。

ハイマットさんの活躍に期待です。

期待、だけかもしれないですが…。


それでは、

次回もよろしくお願いします!

2014/9 秋桜(あきざくら) (くう)

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