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第4話:すごいですよ、この姫さん。

 辺りがしんと静まった。

 アンドレスタは首を縦に振る。


「ま、ま、まずい。何てことだぁ!!」

 その事実を知ったスクラは叫び声をあげながら床に膝をついた。


 その大声にアンドレスタはビクリと肩を震わせたが、自分が男と気づいてもらえたことに安堵していた。


「この俺に一瞬女だと思わせるなんて、大した男だなぁ」

 プロクシュテンはなぜが感心していたが。


「それにしても、そんなになる事はないと思いますけど、スクラ様」

「一国の姫君だと思ったら男を連れて来たなんて……。しかも、あの国で私は堂々と姫君を攫った、なんて言ったのだぞ」


「別にいいと思いますけど……。どうせこの男だって貴族だと思いますし」

「そういう事ではない。私が馬鹿みたいではないか! 恥ずかしい」


 プロクシュテンはその言葉を聞いて、馬鹿みたいと言うか、母親が絡むと本当に馬鹿になるなと思っていた。しかし、そんなマザコンでも魔王には変わりなく、易々とそんな事は言えもしなかった。


 スクラはわたわたとしていたが、本当に混乱して叫びたいのはアンドレスタの方である。しかし、スクラの様子を見ているとそんな事できるような気持ではなくなってしまった。アンドレスタは近くにいたプロクシュテンの顔を伺ってみる。


「あれ、魔王なんだぜ」

「知っています」


 プロクシュテンはほぼ棒読みのように言った。

 魔王だという事はアンドレスタも理解している。なにせ、自分を誘拐した張本人だ。が、その変わりように少々別人ではないかと疑ったりもしている。


「ま、スクラ様は放って置いて……。お前、何者だ」

 プロクシュテンが纏っていた空気が一気に冷やかなものに変わる。今までとは違い、答えなければ何をされるかわからない。


「……ア、アンドレスタ・フォルテーノ」

「フォルテーノ? ……って事は王子か。確か、あの城に居たってことは……。つまり、第一王子か。やっぱり、人質としての価値はあるじゃんか」


 人質という言葉に、改めて自分が置かれている状況を把握したアンドレスタは途方に暮れた。結局帰ることは叶わないという事がはっきりとした。

 スクラはそれが聞こえてはいないようだが。


「でさ、アンドレスタ君。女装が趣味なの?」

「違います」

「変態?」

「冗談じゃありません」

「やっぱり、本当はおんーー」

「男です」

「だよねー。俺が間違えるわけないし」

「姉様のせいです」

「どんまい。ま、それはいいとして……」


 捕らえられているのは怖いが、誤解されるわけにもいかず、アンドレスタははっきりと返事をした。

 あらかた質問が終わったのかプロクシュテンはまだあたふたしているスクラに向き直った。


「スクラ様、いい加減にしてくださいよ。いいじゃないですか、第一王子ですってよ」

「な、何?」

「こいつですよ、こいつ。まあ、貴方が恥ずかしいとかは分かりますが、結界を解ければそんな事ちっぽけな事になりますって」


 プロクシュテンの冷静な判断を聞いてようやく落ち着きを取り戻したスクラはしばらく考えていたが、顔を上げるともう迷ってはいないようだった。

 ようやく、しっかりとした魔王に戻った。


「そうだな。アンドレスタと言ったな。祖国の結界が解けるのをその眼で見ているがよい」

 さっきとはまるで別人のように悪い顔で笑っている魔王が恐ろしかった。

 アンドレスタはやはり、魔王は恐ろしく、人間の敵だと思った。


「プロクシュテン」

「何です?」





「今の台詞ママっぽくなかったか!?」





 そんなに、恐ろしくもないかもしれない……、とアンドレスタは混乱したのだった。


(そろそろ、この格好もやめたい)

 そんな事を考えられるほど余裕も出てきた人質であった。



―とある草原

「姫様そろそろ休みませんか?」

「まだ、平気だが?」


 マースリーは何気ない顔で馬を走らせている。

 しかし、実際は2日間ろくに休みもせず移動し続けているのだ。焦る気持ちが彼女を奮い立てているのだった。


 しかし、マースリー自身気がついていないだけで、本当は疲れているのだと感じ取っていたハイマットは彼女の馬の前に出て、進路を遮った。

 マースリーはあからさまに嫌悪の表情を浮かべていた。


「どけ、ハイマット」

「なりません。気がつかれていないだけです。お休みください」


 馬を止めたマースリーはしばらくハイマットとにらめっこをしていたが、先に折れて馬から降りた。ようやく肩から力を抜く事が出来てハイマットは息をついた。


 マースリーは時として自身を削るような危なっかしいところがあり、幼い頃から彼女の側近を任されているハイマットはよく苦労したのだ。


「それでは、食料を探してきますので、火を見ていてください」

「分かった」


 日が暮れ始め、辺りがだんだんと暗くなっていく。そんな中を、ハイマットは進んでいく。マースリーの疲れをとるためには、おいしい食事も必要であると考えている。主を支えてこその側近。その仕事を全うしようとハイマットは食料を調達にいそしんだ。


「申し訳ありません、少し時間が――」

 少し遅くなってしまい、申し訳ないと思いながらマースリーの元へと戻ったのだが、彼女はすでに夢の中であった。


 やはり、疲れているではないかとマースリーを心の中で責めながらも、可愛らしい寝顔を見て許してしまうハイマットだった。本当にマースリーには甘いなと自分でも分かっている。


 持ってきた毛布を起こさぬようにそっとかけ、柔らかな髪に触れる。



「あなたも立派な女性なのですよ」



 ハイマットはお腹を空かせたマースリーが起きる時の為に必死で獲ってきた食料を調理するのだった。






―翌朝

「行くぞ、ハイマット」

「え、あの、朝食だけでも温かなう――」


 折角温かな食事を作ったのだが、それも報われる事なく冷めた頃に食すマースリーだった。


(やはり、女性ではない気がします)

 ハイマットの苦労は続く。






プロクシュテンは女の人が好きなので

男か女かを判断することが出来ます。


男には基本的に興味はありません。


次回は明日の朝7時です。


それでは、

次回もよろしくお願いします!

2014/9 秋桜(あきざくら) (くう)

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