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第3話:出来ましたよ、母さん。

 ここは魔族が住む、黒の国。空は黒で覆われ、大地にある植物もまた黒く染まっている。そんな黒く覆われた国を人々は「黒の国」と呼んだ。

 黒の国には魔王という、魔族のトップに立つ者がいる。


 現魔王、第五代目魔王スクラ・ディアボロスト。この国は代々ディアボロスト家が治めている。

 魔族の寿命は長く、まだ五代目なのである。しかし、このスクラは若くして魔王に就任した。スクラの父親である第三代目魔王は早くに亡くなってしまったからである。


 幼い頃に父親を亡くし、母親に育てられた。また、魔王の不在は国を揺るがす事態のため、初めて魔女王が誕生した。スクラの母親は彼が大きく、国を任せられるようになるまで国を治めていたのだ。

 女王とあり、始めは国が揺らいだが、スクラの母親、第四代目魔王は立派に仕事をこなし、スクラを育てた。


 愛情を一身に注がれ、母親の手腕を見て育ったスクラは、それはもう立派な――






 マザコンになってしまった。






「マ……い、いえ、母さん!! 私、人間の姫君を捕えて参りました!」

 黒の国に戻ったスクラは部屋にアンドレスタを置いた後、すぐに母親のもとへと向かったのだった。褒めてもらいたいという一心で。


「よく出来たな、我が愛しい息子よ」

「いえ、母さんの為ならば」

「結界は解くことが出来そうかい?」

「時間の問題と思われます」


 息子であるスクラの言葉を聞いて、第四代目魔王は笑った。何年にもわたり、侵略を続けていたがそれが今叶おうとしているのだ。自然と笑みがこぼれたのだろう。

 そんな嬉しそうな母親を見たスクラはそれだけでお腹いっぱいだったのだが。


 母親の嬉しそうな顔を見る事が出来てうきうきな気分で部屋を出ると呆れた表情のプロクシュテンがいた。

「相変わらずですね、スクラ様は」


 プロクシュテン。炎を司る魔族である。その力は黒の国の四天王と呼ばれるほどに強いのだ。好きなものは酒と喧嘩と女らしい。

 また、四天王は魔王の側近でもある。だから、プロクシュテンはスクラを待っていたのだった。


「ママがあんなに嬉しそうな顔をするなど、私は嬉しくて仕方がないのだ」

 顔がゆるゆるに緩みまくった魔王を見てため息を吐く。


「お願いですから、そんな顔、他の魔族に見られないで下さいよ。魔王の威厳が……」

 こんな表情は従える魔族の中でプロクシュテン以外には見せていない。


 プロクシュテンはたまたま第四代目を覗きに行き、偶然そんな顔の魔王を目撃してしまったのだ。それからというもの、スクラはプロクシュテンと第四代目魔王の前だけで気を緩ませる。


「当たり前だ。だいたい、お前がママを覗きに来なければお前にだっていつも通りに振舞ったぞ」

「それは仕方がないですよ。俺の親父が『あんなに美しく可憐な魔族は見たことがない!』って言ってたんですから。見なきゃ損ですよ。実際滅茶苦茶お綺麗ですしね」


 あの時の親父の熱弁はすごかったなと思い出しながら、それをお袋の前で言う親父のわけの分からぬ度胸にプロクシュテンは再び感動した。


「そういえば、姫君がそろそろ目を覚まされるんじゃないですか?」

「……お前、それで私を待っていたな」



 ひっそりとした部屋。狭い部屋ではあるが、家具はどれもきれいなもので立派であった。さすが、一国の城というだけはある。

 そんな部屋に目を覚ましたはいいが、これからどうしようかと悩む姫……ではなく、王子がいた。


(ああ、黒の国に来てしまったみたいだ。これからどうしたらいいものか)

 起き上がろうとするが、まだ体に力が入らなかった。

 魔族の、それも上位である魔王の力で眠らされていたため、目が覚めても力が入らないようにされていたのだった。


(このまま私は殺されてしまうのか。そんなことは嫌なのだが。脱出できないだろうか。ああ、でも、一人では無理だ……)

 そして、何とか動くようになってきた頭を動かし、部屋を見る。


 アンドレスタはベッドの上にいる。ベッドから見渡す限り、その部屋は暗かった。黒の国自体が暗いのだが、この部屋には小さな窓しかない。わずかな光しか部屋には入っていなかった。それでも、自身の格好を見るとため息が出てしまう。

(姉様たちの馬鹿……っ)


 自分の容姿が嫌いだった。可愛いいと言われることが嫌いだった。

 アンドレスタは姫君と言われて連れ去られたことがすごくショックだった。可愛いと昔から言われており、姉たちの手にかかれば本当の女の子のようになってしまう。


 そんな自分の容姿がアンドレスタにとって辛かった。

 別に、普段のように男の格好をしている時は思わないが、実際女装させられるとつくづくそう感じてしまうのだ。


(もう、やだぁ……)

 思わず、目に涙を浮かべてしまう。


「こんにちはー、姫君!」

 そんな湿っぽくなった部屋に入ってきたのはプロクシュテンだった。

 その唐突な登場に、アンドレスタの涙も引っ込んでしまう。


「こら、プロクシュテン……」

「ちょ、泣いてなかった? こんなかわいい子をここに閉じ込めておくなんて怖かったねぇ。俺が慰めてあげ――」


 プロクシュテンはずかずかとアンドレスタに近づいて行ったが、手が届くまでの距離に来ると、顔をしかめた。その表情に固まってしまうアンドレスタ。


「君さぁ、もしかして――」




「男?」




 スクラの顔が青ざめたのはその30秒後だった。







魔王さんはお母さん大好きです。


次回は明日の朝7時です。

2014/9 秋桜(あきざくら) (くう)

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