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第2話:出発ですよ、姫様。

 国王は隣国の姫君を危険な目に合わせるわけにはいかない、とマースリーの申し出を断っていいたのだが、全く折れない姫君に、国王は許可を出す他なかった。


「マースリー様、この国の兵をお連れしないとはどういうことですか!?」

(わたくし)には必要ございません」


「しかし――」

「この国の兵はこの国を守るためにお使いください。今、この国の戦力を減らしてはなりません。ただでさえ、魔王が入った後なのですから」


 さらには、護衛も彼女の側近であるハイマット・ユエベルただ1人を連れていくと言うものだから、国は困り切っていた。


 しかし、国としても王子を救い出さなくてはいけない事と魔王が侵入したという事実があるために、王女を渋々送り出すことに決めたのだった。


「姫様、さすがに私1人というのはいかがなものかと」

「私はあなたに背中を預ける事が出来る。これだけ心強い者お前の他いない」


 信用してくれているというその言葉とまっすぐハイマットを見つめるマースリーに返す言葉が無くなったため、彼は王女とともに王子を救う旅へと出る事を決意したのだった。


 とうとう、明日が王女出発の時となった。

「マースリー! ごめんなさいね、私たちがあの子にあんな事をしたばっかりに……」


 出発の準備をしていたマースリーの部屋を訪れたのは、第一王女であるジュリア・フォルテーノであった。彼女の瞳はうるんでおり、今にも泣きだしそうになってしまっている。


 確かに、魔王が連れ去ったと言っていたのは、姫君。フォルテーノ4姉妹がアンドレスタを女装させる事さえなければ、もしかしたら連れ去られる事もなかったのかもしれない。


「顔をお上げください。過ぎた事を悔やんでいても何の意味もないのです。それよりも、ジュリア義姉様も身の危険があるかもしれません。お気を付けください」

「……あの子は本当にいいお嫁さんを見つけたのね」


 マースリーの力強い言葉に安堵し、ジュリアは顔をほころばせながら言った。

 その表情を見て、マースリーも安心し、笑顔を浮かべたのだった。


「私の方こそ、アンドレスタ王子に出会えて嬉しく思います。だから、きっと連れて帰ってみせます」

「ええ、お願いしましたわ」


 ジュリアは「ありがとう」と言うと、マースリーの部屋から出ていった。その後姿を見送る彼女の手には力が入っていた。


 会える日を待ちわびていたマースリーにとって、アンドレスタに会えなくなってしまった事は非常に悲しい事だった。だから、マースリーは強く、強く決意するのだった。



「昨日はよくお休みになられましたか?」

 朝早くにハイマットがマースリーの部屋のドアを叩いた。


 しかし、部屋からは返事もなく、よく聞けば部屋に誰かいる音も気配もなかった。その事が不安になり、ハイマットはドアを押し開けた。


 そこには誰もいなかった。荷物は残っているようだが、肝心のマースリーがいない。


「姫様っ……」

「あら? ハイマット様」


 呼んでもみても返事がなく焦っていたところに、城の使いの者が通りかかりハイマットを不思議そうに見ていた。


「マースリー王女はどちらにいらっしゃるかご存じでしょうか?」

 ハイマットが慌てた様子で尋ねると、使いの者は笑顔になった。その様子を見て、何となく損をしたとハイマットは思った。


「マースリー様なら、衛兵と朝稽古に励んでおられますよ」

「そうですか、ありがとうございます」


 ハイマットは足早に稽古場へと向かった。

 マースリーは一国の姫には変わりないのに、国王陛下の教育であのように勇敢になってしまったのが少し残念に思えてしまう。ハイマットはもっと姫らしくあってほしいと願っているのだが。


「はぁっ!」

「くっ――」


 竹刀と竹刀がぶつかる音と気合の入った掛け声が稽古場に響いている。

 その中でも、少し高めの声がその場に響き渡る。その声は衛兵にも負けておらず、また、その剣も負けてはいなかった。


 衛兵も一国の姫とあり、最初のうちは手加減をしていたのだが、いつしか、その手加減すら忘れて稽古に励んでいた。


 その様子を見て、逞しい姫様が誇らしくも思えた。やはり、マースリーはマースリーなのだと思い、仕方がない、と姫らしくしてもらうのは諦めようかと思ってしまったハイマットだった。


「ハイマット、お前もどうだ」

「姫様、今日は出発の日ですよ。そんな日まで稽古とはいかがなものかと」


「身体を動かしておきたかったのだが、すまない、少々はしゃいだ」

「……それでは、汗を流して出発いたしましょう」

「分かった」


 マースリーは衛兵たちに手を振って、その場を後にした。彼女が手を振るとそこにいた全員が手を振り、彼女を見送っていたので、ハイマットは短い時間でよく仲良くなったと感嘆したのだった。


「出発しましょうか、姫様」

 今日も晴れ、雲が点々としかない。

 その中を馬にまたがり、悠然と2人が城の門から姿を見せた。



「行こう、黒の国へ」










―黒の国

(あれ、ここどこ)

 アンドレスタは目を覚まし、恐怖を感じていた。




次回は明日の朝7時です。

2014/9 秋桜(あきざくら) (くう)

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