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第15話:お怒りですよ、貴公子さん。

 薄暗い廊下を1人で彷徨っていた。



 何も知らない城の中を1人で歩き回るのは精神的に疲れるものだった。体力もそんなにない中、1人、出口を、光を求めて探した。


 そんな中、少し騒がしい声がして、その中に聞きなれた声を見つけた気がした彼は、その声に吸い込まれる様に扉に手をかけた。






 始めの一撃を、繰り出そうとした時、その場に居た全員の視線が、対峙している相手から逸れた。



 誰も開く事のないと思っていた扉が開いた。



 姿を見せたのは、可愛らしい、姫君……。




「……マースリー?」




 その姿を目の当たりにしたマースリーの表情は輝かしいものに変わった。スクラと対峙していた時の戦士の様な表情ではなく、一国の姫らしい顔だった。


「アン、ドレスタ……」


 泣きそうになるマースリー。

 しかし、アンドレスタの突然の登場により、その場の空気が一変してしまった。プロクシュテンにとってそれは面白くない事だった。


「ちょ、馬鹿なの! 空気読めよ、アンドレスタ!」

「……(わたくし)のアンドレスタに向かって馬鹿とは何だ! お前、万死に値するぞ!!」


 先ほどとは打って変わり、鬼の形相のマースリー。陽光の貴公子といえども、毅然とした態度を保っていられない事があるのだ。マースリーの場合、アンドレスタ絡みが8割5分を占める。

 一瞬にして、マースリーの怒りの矛先はプロクシュテンへと移り、マースリー対スクラではなくなってしまった。


 先ほどまで、スクラと対峙していたはずのマースリーは既にプロクシュテンに斬りかかっており、プロクシュテンもそれに応戦し始めてしまった。

 繰り出されるマースリーの攻撃を楽しそうにプロクシュテンは躱す。その様子はだんだんとヒートアップし、全くマースリーの剣が目で認識できなくなるほどになっていた。


 取り残された、スクラとハイマットは次元の違う戦いを傍観していた。


「蚊帳の外だな」

「まったくですね」


 冷めた目をした2人。


「魔王殿、私たちで戦いません?」

「そうするか……ん?」


 アンドレスタもどうしたらよいものかと、扉の前でマースリーの事を見守っていた。

 スクラはそんなアンドレスタを見て、ニヤリと笑った。今まで全く魔王らしくなかったが、その黒い笑みはまさしくそれであった。


「では、お相手ねがい――」

「やはり、断ろう」


 言うや否や、スクラはハイマットの前から姿を消し、アンドレスタの前に立ちふさがった。突然現れた黒の影に、アンドレスタは息を止める。

 笑う、スクラに見下ろされ、アンドレスタは身体を震わせた。




「丁度良い所に来たな、王子?」






「可愛い顔が台無しだよ、マースリーちゃん」

「お前の前で可愛い顔をした所で何になる?」


 マースリーの鋭い突きが、プロクシュテンの右腕を掠める。

 じんわりと広がっていく、赤い染みと、鈍い痛みがプロクシュテンを襲う。


 マースリーはそれを見て、一旦距離を置く。2人は睨みあう。


「痛いなぁ」


 プロクシュテンの目が変わった。目からは何の感情も見られなくなり、身体がゆらりと揺れる。


「っ!?」


「ねぇ、マースリーちゃん?」


 マースリーの目の前には、赤々とした熱いものが迫っていた。


 何とか躱したマースリーだが、頬に付いていた絆創膏がじりじりと黒く焦げ、それが空中舞った。


 傷口がひりひりとした。


「女の顔に傷をつけるなんて、いい趣味しているわね」


 赤い炎を纏う右手を持った四天王をマースリーは睨んだ。

 その様子を見て、プロクシュテンはクククと笑う。


「俺は女も好きだが、喧嘩がそれ以上に好きなんだよ。……その目を引き出すためなら、女の顔にだって傷をつけるかもな」


 プロクシュテンの右手を纏っていた炎は徐々に大きくなっていき、大きな炎の塊を生み出した。それをプロクシュテンは持ったままマースリーに向かってニヤリと笑う。


 そして、それをマースリーめがけて放った。


 マースリーは迫りくる高温の塊から、目を背けなかった。


 ついに、炎に飲み込まれた。


「あーあ、逃げればいいのに」


 プロクシュテンは残念そうに、いや、楽しそうに言った。






「逃げる? この私が?」






 プロクシュテンは見た。



 目の前に迫りくる、人間を。



 彼女が携える剣は、燃えていた。




「――嘘、だろ……?」




 プロクシュテンは仰向けに倒れた。

 髪の毛はチリチリになり、身に纏っている衣服は黒ずんでしまった。


「剣に俺の炎を纏わせるなんて聞いた事ないんですけど。何でそんな事出来るか、不思議だよ」


 プロクシュテンは大の字になりながらそんな事をマースリーに尋ねた。

 マースリーはその質問が不思議でならなかった。彼女をそうさせる事、それはもう決まりきっている事であり、当然の事なのだ。




「……大切なものがいるからだけれど?」




 そう言った、マースリーに向かって、プロクシュテンは降参とばかりに両腕を上にあげた。
















「さすがだな。しかし、お前は私には勝てまい?」


 スクラは挑発するようにマースリーを見た。

 魔王は、アンドレスタに剣を突きつけており、アンドレスタは身動きが取れないでいたのだ。人質に取る事で、マースリーの動きを止めてしまおうとスクラは考えたのだ。


「マ、マースリー……!」


 涙目で訴えている、アンドレスタは小刻みに震えながら、マースリーに助けを求めている。

 その様子を見て、陽光の貴公子が黙っているはずはない。






「私に、守れないものがあると、でも?」






(あれ、これ、まずい気がするぞ……)


 スクラの額には汗が浮かんできている。








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