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第14話:ここまで来ましたよ、人間さん。

「マースリーって目が悪いのかな?」

「いえ、そんな事はありません」

「じゃあ、ランヒュドールの何が良かったんだろうね」

「それは、私にも分かりかねます」


 ハイマットはランヒュドールの絶対領域を思い出してしまい、胃の中の物がこみ上げてくる様だった。何とか寸でのところで抑えたが、何とも言えぬ感情が支配していた。

 そんな事は露知らず、マースリーは先頭を歩いている。


「ハイマットの教育が成ってなかったんじゃないの?」

「……いえ、あれは陛下の教育の賜物だと思われますよ。陛下はいつもマースリー様に『人の良い所を見つけなさい。己の信念を通しなさい』と言っておられましたし」

「良い所、ねぇ……」

「先ほどの方にも何か見出していらっしゃったのだと思います」


 2人はマースリーの後ろでぼそぼそとそんな会話を繰り広げていた。

 置き去りにしてきたランヒュドールは3人の手で、廊下の隅に避けられた。足は綺麗に並べて、上から手近にあった布を掛けた。

 そうでもしなければ、被害者が増えると考えたのだ。


「……ガイアラス、ここは曲がるべきか?」

「ううん。まっすぐだよ。それで、奥に大きな扉があるでしょ、それだよ」


 ガイアラスの言う通り、まっすぐな廊下の奥には大きく、立派な扉があった。奥からはより、強い力を感じる。それは、廊下に居ながらも分かる事だった。

 マースリーは息を一つ吐いてから、その扉を目指した。


(今行く、アンドレスタ)


 彼女の目には強い光が宿っていた。






「……何か来ますよ、スクラ様」

「分かっている」


 スクラとプロクシュテンもまた、部屋の外から力を感じていた。魔族の物とは少し違う、異様な力の存在。スクラは扉をじっと見つめた。

 プロクシュテンは外から感じる力がだんだんと近づいて来るにつれて、気持ちが高まってきていた。強い者との戦い。それは彼にとって楽しい事の一つなのだ。



 重い扉が開かれる。



「初めまして、魔王殿。この時を、待ちわびていましたよ」


 王の部屋に魔族が3人、人間が2人。

 スクラは人間の異様な強さを感じ取っていた。人間と思ってなめていたが、その力に少し驚く。何が一体何がその者をそれほどまでにするのか、スクラには理解できなかった。


「よく来たな、人間。私が第五代目魔王、スクラ・ディアボロストと知っての事か?」

「勿論です。(わたくし)の婚約者、アンドレスタ・フォルテーノを返してもらいに来た。隣国の第一王女、マースリー・エルドレイアだ」

「……そうか、婚や――」



「……」



『あ、でも、男が2人いましたよ』



『そうそう、確か『ヒメ様』って呼ばれていましたよ』



 スクラはプロクシュテンの事をじとっとした目で見た。


「アレー、女性デシタネー!」

「プロクシュテン! 私に恥をかかせるつもりか!」


 何やら魔王サイドでもめており、マースリーとハイマットは置いてけぼりになる。

 ガイアラスはというと、そんな状況を眺めていて面白そうにしている。


「……まあ、いい。マースリーといったか、残念だがマ……ではなく、母さんの為にも彼の者は返すわけにはいかん」

「穏便に済ませたいのだが」


 丁寧に言うマースリーだが、スクラも退くわけにはいかないのだ。魔王として、人間の侵入を許してしまった事だけでも問題だと言うのに、あっさりと人質を返すわけにはいかない。


「スクラ様、返してあげないの?」

「母さんを無視などできない。……だいたい、ガイアラス、何故お前はこの者たちと一緒に来たのだ。裏切か?」

「それはないけど、こんな僕を認めてくれたお礼かな?」


 スクラはため息を吐いた。そして、胃がきりきりとする。


「俺も認めてもらいたいなぁ。……ね、マースリーちゃん?」


 プロクシュテンはいつの間にやら、マースリーの目の前に跪き、その手を取って軽く口づけていた。


(どいつもこいつも……)


 スクラはさらに胃がきりきりとなった。


 それを見たハイマットはその手をさっと払って、剣の柄に手をかけた。プロクシュテンとハイマットが睨みあう状態となる。


「おいおい、俺の邪魔か?」

「姫様に気安く触れないでいただきたい」


 一触即発の緊張した空気が漂っている。


「どうしても、無理だと言うのならば仕方があるまい。……ハイマット」

「承知いたしました、姫様」


 ハイマットはそのまま剣を抜いた。

 それを見たプロクシュテンは口の端を釣り上げ、その様子と空気にゾクゾクとした。この緊張した、これから戦いが始まるという感じが彼は好きなのだ。


「いいねぇ、さっきより一層良い目になっているね。……堪んないよ」


 プロクシュテンの瞳がギラリと光る。

 その様子にハイマットは気圧されそうになるが、手に力を籠め、対峙していた。マースリーに気安く触れよう者はいつもハイマットが蹴散らしてきた。大切に見守ってきた姫をそんな風にされるのは見ていたくないのだ。


「あなたの相手はこのハイマット・ユエベルがいたしましょう」

「男かよ、つまんねぇ。……でも、面白いじゃんか、俺はプロクシュテンだ、よろしくお願いするぜ」


 マースリーはハイマットの背後から姿を現し、スクラの視界を占領した。


「最後の警告です。アンドレスタを返しなさい」

「私の意志は変わらない」

「……アンドレスタを攫った罪、その身に焼き付けてあげましょう」


 剣を抜いたマースリーの瞳がスクラを捉えて離さなかった。

 スクラはそんなマースリーを面白いと思った。頭では警戒音が鳴り響いているが、こんなにも敵意むき出しの人間が面白い。魔族の血がスクラを戦いの快楽へと導いていた。






「その身で味わうがいい、私の力(ははへのあい)を……!」






(マザコンですか!!)

 ハイマットは思わず声になりそうになった叫びを押しとどめた。
















「ガイアラス、お前も参戦しろよ」

「僕はもう負けっちゃったからいいの」

「あ、そ。……んで、ランはどうした?」

「マースリーの一言でノックアウトした」

「……マジかよ」























 扉の前には、求めさまようが者行き着く。











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