第11話:強敵ですよ、ガイアラスさん。
「姫、様……もうだめです」
「諦めるな、ハイマット」
「しかし、なんであんなにネガティブなのですか!!」
ガイアラスの言葉は重く、暗く、黒の国がさらに黒くなっていくように感じるハイマットだったが、マースリーはそんな事微塵も感じてはいなかった。
ガイアラスは四天王で1、2を争うほどの実力の持ち主である。大地を司るその力と、繰り出される言葉は精神を削っていく。そんな戦い方、性格であるが故に、苦手とする魔族も多く、恐れられているのだ。
ガイアラスと戦うと著しく精神力を奪われる。それは、体力をも一緒に奪う。そんな究極の戦いを迫られるものだから、四天王でプロクシュテンと互角なのだ。
「ネガティブでごめんなさい。……もう話さない方が良いのかな」
大地はガイアラスのネガティブさに共鳴するように、震えあがり、マースリーとハイマットを襲う。足元はひび割れ、常に意識していなければいけなかった。
一度でも気を許してしまえば、大地に食われる。だが、耳からはネガティブな発言が聞こえてくるのだ。気を散らさないようにするのは一苦労だった。
2人はガイアラスに近づき、反撃を試みようとする。
「僕なんかに近づくの?」
轟音が響いたかと思うと、2人の目の前には大きな土の壁が現れ、行く手を塞いでしまう。ガイアラスの姿は壁の中に消えてしまう。
壁が現れた瞬間、2人は飛びのいて、少し距離をとった。
次の瞬間、土の壁は一気に崩れ、視界を遮る。
「……くっ」
たちこめる土煙に、目を細めるしかない。
視界はさらに悪くなる。
しかし、轟音は止まない。
「ハイマット!」
散り散りになっていたマースリーとハイマットだったが、バラバラになっていては危険と判断したマースリーがハイマットを呼びつけた。
視界が悪く、人影が薄ぼんやりと見える程度であるが、ハイマットはマースリーの側に寄ってきた。
「どうします、姫様」
「何とか、私たちの剣の届く範囲に行かなければいけない。しかし、難しい」
「大地が相手ですからね」
大地が揺れる。
轟く音。
ガイアラスはいったいどこにいるのかも分からない状態だ。2人は周囲に気を配りながら話し合っていた。
「それにしても、先ほどから轟音しか聞こえませんね」
「……」
ガイアラスは姿を見せる事がなかった。視界を奪い、攻撃には最適の状況であるが、大きな音が成るばかりで、一向に攻撃してこなかった。
マースリーは感覚を研ぎ澄ます。
「……まさか。ハイマット! ここに留まるのはきけ――」
ズゴゴゴゴゴゴ 。
今までなっていた音と比べ物にならないほど大きな音が2人を襲った。身体全体に音の振動を受ける。
しかし、その振動は音だけのものではなかった。
大地が大きく波打っている。
足元が揺らぎ、2人は地面に手をついた。
「なっ、に!?」
が、その地面はあっという間になくなってしまう。マースリーは驚き、思わず声を漏らす。
今まで足元にあったはずの大地が崩れ落ちていくのだ。木々も一緒になぎ倒され、大地に飲み込まれてゆく。
「僕には暗くてじめじめした地中がお似合いなんだよ……」
ガイアラスは自嘲の笑いをもらした。
マースリーとハイマット2人が留まり、話し合っていた地面の下では、ガイアラスが地中で動いていた。
空けられた、いくつもの空洞により、地面は崩壊することを強制させられたのだ。
地下深くから徐々に地表に近づき、マースリーの気が付いた時にはもうすでに手遅れであった。崩壊は始まってしまった。
その様子をガイアラスはただ、じっとりと見ていた。
大地が崩れる事にハイマットより早く気が付いたマースリーは止める事は無理でも、何とか回避しようとしていた。半径200mにわたって、地中深くが穴だらけなため、本来ならばかなり回避は難しい。
だが、彼女は崩壊が遅い所を見極め、そこに飛び移り、移動していた。
それを見習って、ハイマットも後に続く。
こういう時、マースリーの勘と見極めの力は頼りになるとハイマットは知っている。というより、彼女自体が頼りになるのだ。
ハイマットも、勘の良さはあるがマースリーほどではない。一歩で遅れているハイマットはマースリーの後を追うが、自分自身でも瞬時に見極め、地に足をつけていた。
彼女が通った道がその時大丈夫であっても、崩壊が続くその範囲は1秒先地面があるかどうかはっきりとはしない。
綱渡りの状態で何とか、崩壊の範囲から遠のきつつあった。
「あと少しっ」
マースリーは大きく飛び、崩壊の範囲を抜けた。
ハイマットも同じように大きな一歩を踏み出した。
……はずであった。
「え」
ハイマットの視界はがくんとずれる。
地面に足がついている感覚はほんの一瞬で変わってしまった。足が宙に浮いているような感覚。崩れた大地に飲み込まれようとしていた。
「ハイマット!!」
マースリーの声が轟音にかき消された。
「スクラ様、何か、半径200mくらいが崩壊しているんですけど」
「何だと!?」
慌てて窓によって外を見ると、ある一角から土煙がもくもくとでており、木々がなぎ倒され、ぽっかりと穴があいたようになっていた。
「プロクシュテン、胃薬をくれないか……?」
「あれ? 食べ過ぎですか?」
「ストレスだ」
ぽっかりと穴があいたようなのは大地だけではないらしい。
流石、1、2を争うだけはあります。
ガイアラスさん、四天王は伊達じゃないですね。
ハイマットさん、頑張れ。
では、次回もお会いしましょう!
2014/11 秋桜空