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第10話:出会いましたよ、四天王さん。

(でも、やっぱり、この扉、硬い!)

 アンドレスタは扉の前で四苦八苦していた。




 黒の国の城近くまで来ていたマースリーとハイマットであるが、その行く手を塞ぐものがいた。


「そこをどいていただけない?」

『そうか、どうせ、僕は、邪魔でしかない存在なのか。それでも、ここに居ないと僕は僕の存在意義が分からない。スクラ様の役に立たないといけない。……あれ、でも、本当に役に立てているのかな?』


 真っ黒い毛に覆われた狼がおずおずと話している。

 自信がなさそうに話すその姿に、聞いているこちらまで気分が暗くなってくる。狼の姿の魔族であることは確かで、感じられる雰囲気は四天王のそれと同じだ。


「弱気になるくらいなら、そこをどいてください。姫様は急いでおられるのです」

『弱気になったからといってここをどく理由にはならないと思うんだ。僕はそれぐらいしか能がないしね。君は弱気にならないのかい? 自分がひどく惨めで、消えてしまいたいと思わないのかい? 僕はいつも考えているよ、僕という存在をね。……でも、考えるほど、僕という存在は決して確かなものじゃないんだよ。まあ、僕だから仕方がないね……』


 自分が姫様の役に立っているのかというと、そうでもないかもしれないと考える事はハイマットにもよくある事だ。マースリーは自分よりも何倍も強くて、人から慕われる力を持っている。そういう女性(ひと)なのだ。

 ハイマットはそんな心の声に耳を傾けていると、自分にだんだんと自信が無くなっていくような気がした。別に、いなくても、マースリーが困る事は無いだろうと。


「ハイマット、惑わされるな。お前はそんな言葉程度で揺らぐのか? (わたくし)は何故お前1人を連れて来たと思っている?」

「それは……申し訳ありません。もう、迷いません」

「それでこそ、だよ」


 マースリーは全く揺らぐ事なかった。その芯の通った声にハイマットも気持ちを取り戻していた。


「誰かの役に立たなければ、存在意義が無いと? 笑わせるなよ、魔族」


 魔族に向き直りはっきりと言うマースリーに、魔族は少々気圧される。


『……だってそうだよ、誰かに認められたいと誰もが思っている。君は誰にも認められなくても生きていけるの?』


 マースリーは静かに笑った。

 黒に染まる、この国で、陽光の光が射しているようだった。しかし、その光は同時に冷たさを持っている。温かではあるが、冷たく肌を刺すような光。


「自分の役に立てばいい。……確かに、認められたい気持ちはあるが、それが叶わなければ死ぬまで私は諦めないぞ。まあ、認められなければそれはそれで仕方のない事。だが、精一杯生きようとした自分は褒めるに値する」

『……君は強いね。でも、僕はどうせダメなんだ』


 一層狼の辺りが黒く、濃く、影を落としていく。


 黒々とした木々がざわざわと騒ぎ始めている。


 木々を揺らす風は冷たく、体温を次第に削っていく。


 大地も悲鳴をあげ、明らかに様子がおかしくなっていく。


『どうせ、僕はどうしようも出来ないけど、四天王の1人として、少しは動かなくちゃ、ね』



 次に姿を現したのは黒髪で、こげ茶の瞳を持った男のヒトの姿だった。



 黒の霧を身に纏い、大地を揺さぶるほどの力に驚きを隠せないハイマット。その四天王の様子をまじまじと見ているマースリー。


「僕の名前はガイアラス。よろしくね。……でも、どうせ僕は覚えてもらえないんだろうね」

(うっ……すごくネガティブで、やはり精神的にきついですね! この魔族!!)


「物覚えはいい方だけれど」


 ネガティブな発言にも負けずにさらりとそう言ってしまうマースリーの姿を見て、ハイマットは一生ついて行こうと固く決意した。

 ネガティブと揺るがぬ貴公子。しかし、その2人が対峙するのは本来であれば先の事であった。



 黒の国、城のとある部屋。

 広めの部屋は、ピンクや赤そして、フリル、レースできれいに飾られている。可愛い女の子の様な部屋の中には今にもはちきれそうなワンピースを着た、体格の良い男がいた。


 真っ白なタンスをいっぱいに開けて、色とりどりの可愛らしい服をあれでもない、これでもない、と投げている。

 きっと、初めて見た者はその様子を見て、泥棒だと思うだろう。

 しかし、それは間違いである。




 ここは正真正銘、彼の部屋なのだから……。




「やっぱり、戦闘にはこの服装がいいかもしれねぇな。……いや、こっちの方が可愛いなぁ」


 鏡の前で服をあてがって選ぶ様子は、デート当日の女性の様だ。

 実際、鏡に映るのは筋肉質の男であるが。


「何でも似合うなんて、俺はなんて、罪なんだー!!」


 彼は罪であることに間違いないだろう。それはきっと彼の思う罪とは違うものだろう。いや、違うものだ。同じなど、ありえない。




「うおぉぉぉっ! 決まらねぇ!」




 地鳴りのようなその声は、しばらく、その部屋から聞こえていた。






 黒の国、城の魔王の部屋。

 プロクシュテンは何気なく窓の外を見た。目にしたのは力が集まっている様子。


「あれ? スクラ様、外でガイアラスが暴れてるみたいですよ」

「は……? お前と1、2を争うガイアラスが早々に出てどうするんだ! 私の計画が……」





スクラは頭を抱えた。





さてさて、出揃いましたね、四天王さん。


そして、10話です。

2桁ですね。これからも頑張ります。


それでは

次回お会いしましょう!

2014/10 秋桜(あきざくら) (くう)

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