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魔王様のゲーム  作者: タカテン
最終章 ラスボスの魔王様が○○すぎる!
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第五十一話 雷嵐暴走

 士気高まる勇者様たちの猛攻を前に、防戦一方となってしまった魔王様。

 このままでは危ない。一刻も早く助けに行かなければっ!

 なのに!

 だというのに!

 私ときたらまんまと敵の汚い罠に陥り、がんじがらめに捕まってしまった!

 ああ、なんてことだ。今すぐにでも魔王様の元に駆けつけたいのに。ああ、魔王様、貴方様のピンチに何も出来ない私をどうかお許しください……。


「と、魔王をピンチに追い込んだ張本人が、わざとらしいことを言ってやがるのだが……」

「ちょ、ちょっと、ニトロさん! 他人の心を勝手に読まないで! それにわざとらしいとは何ですか、わざとらしいとは!?」

 私は本気だぞ。本気で魔王様を助けたいと思ってるし、魔法束縛糸マジックバインドで拘束されている我が身を嘆いているぞ。

 くそー、なんとか脱出できないかなぁ、これ。

 魔法束縛糸から逃れようと引き続き四苦八苦する私。

「ん、魔王の呟きが変わった?」

 しかし、魔王様側にはなにか変化があったようだ。

 千里眼オペレータービジョンに映し出される魔王様の口元、おお、コウエさんの言うように、さっきとは違う口の動きをしている。

 あれ、これってもしかして?

 キィよ助けてくれ、とか。

 こんな時にキィさえいてくれれば、とか。

 そんな類のものだったりするのかな?

 うん、さっきまでは私の失敗に怒り心頭だったけれど、状況が状況だけに私に助けを求めてもおかしくないもんね。

 よーし、待っていてください、魔王様。なんとかこの罠から脱してみせます!


「なになに、『お調子者め、ぶち殺す』、か……」


 うわぁぁぁぁぁん、魔王様、まだ怒ってらっしゃるぅぅ。

 それになんで遠く離れた魔王様まで、私の心をリアルタイムに読むのぉぉぉぉ!?

「案外、捕虜として扱うよりも、このまま魔王に差し出してやった方が面白いかもしれないな?」

「何が面白いんですかっ! いいですか、仮に釈放されても、私はてこでもここから動きませんからねっ!?」

 前言撤回。魔王様は私の助けなんてなくて大丈夫だ。

 だってみんなから集中攻撃を受けてる最中でも、私への怒りを忘れないんだもん。きっと魔王様はなんだかんだでまだ余裕なんだろう。

 となると私が駆けつける必要なんてないよね。うん、今はここに居座るのがベストチョイス。血の惨劇を避けるべし。

 かくして私は足掻くのをやめて、ちょこんとその場に正座する。

「なんとも、たくましい嬢ちゃんだな」

 ニトロさんに呆れられた。

 いいもん、いいもん、呆れられるぐらい。

 痛い目に遭うよりずっといい!

「……でも、ちょっとおかしいの」

 うわっ、ショック! ユズちゃんに頭がおかしいって言われた!?

 いやいやいや、全然おかしくないよ、ユズちゃん!? 誰だって痛いのはイヤでしょ、絶対。

「魔王はピンチな時ほどよく笑うって聞いたの。それにこんな他人の失敗をぐちぐち責めるような人にも思えないの」

 あ、おかしいってそっちか。

 言われてみればたしかにだけど、でも、後半はちょっと違うよ? しつこく根にもつってことはないけど、やられたら確実にやりかえす人だよ、魔王様はっ!

「そう言われれば……」

 が、そんな私のツッコミは無視して、コウエさんは熟考モードに入ろうとする。

 その時だった。

 あたりが俄かに暗くなったかと思うと、上空に戦場全体を覆うほどに巨大な魔方陣が現れた。

 あまりの大きさに一瞬誰もが戦闘を忘れて、空を見上げる。

「なに! 雷嵐暴走テンペストだと!?」

「雷嵐暴走って、そんなムチャクチャな! 詠唱もなく禁呪を、しかもこんな巨大魔方陣で展開するなんてありえねー」

 思わぬ緊急事態に愚痴をこぼすニトロさんの言葉に、コウエさんはハッとした表情を浮かべる。

「そうか、そうだったのか。ニトロ、ヤツは……魔王は詠唱をしてやがったんだ! 俺たちが見ていることを察して、詠唱に気付かれないよう口の動きでフェイクをかまして、な。くそっ、なんてことを考えやがる! ユズ、後方の魔法支援部隊に至急連絡! 魔法障壁を全軍にかけさせろ、急げ!」

 コウエさんの命令に頷いたユズちゃんの、慌てた声が戦場を奔った。


 なんというか、さすがは魔王様。あっという間に戦況が大逆転だった。

 おまけにコウエさんによると、私への呪詛の言葉も口の動きから魔法の詠唱がバレないよう仕向けた魔王様のトリックだったらしい。

 ってことはつまり、私の失敗にそれほど本気で怒っているわけじゃないってことで。

 こちらもまさかの大逆転だった。

 よし、だったらこの勢いで私の失態も逆転させてやるぞ。

「あっはっは、私と魔王様の演技にすっかり騙されちゃったみたいですね?」

 正座の姿勢から、ぴょんと勢いよく立ち上がって言ってやった。

 ホントは右手で指差し、左手は口元に当てて「あー、おかしい」ってやりたかった。くそー、忌々しい魔法束縛糸マジックバインドめ。


「……」

「……」

「……」

「……」


 みんなが黙って私を見つめる。

 ふふん、これが世に聞く「ぐうの音も出ない」って奴かっ!?

「さぁ、私の拘束を解くのです。今ならまだ貴方たちの命は助けてあげてもいいのですよ?」

 さらにたたみかけてみる。 


「ここまで調子に乗る奴も珍しい。清清しいまでのクズっぷりだ」

「お兄ちゃん、すごいお調子者がいるの! 人間のクズなの!」

「ユズはあんなダメ人間になっちゃダメだぞ。どんなに貧しくても心が貧しくなっちゃダメだ!」

「ダメ人間っつーか、ダメ魔族だけどな! ホント、色々とダメダメだけどな!」

「ヒドイ! 確かに調子こきましたけど、そこまで言うなんて、あんたら鬼かっ!?」


 思わぬ反論につい涙目になりそうになった。

 く、くそっ、負けてたまるかっ!

「と、とにかく今すぐ解除ディスペルを……って、え?」

 ぶおんって音がしたかと思うと、私の前に透明な壁が現れた。

 あ、違う。正確には私の前に現れたんじゃない。

 コウエさんたちが魔法障壁に包まれたんだ。どうやら対雷嵐暴走の障壁詠唱が間に合ったみたい。

「これで凌げるかは分からん! 各自、衝撃に備えろ!」

 それでもまだ心配らしく、コウエさんの指示にされるまでもなく、みんなは険しい顔付きを崩さない。

「いやぁ、大変ですねぇ。無事にやりすごせるといいですねぇ」

 そんな緊張感を逆手に取って、ちょっと煽ってみた。

 うん、我ながら嫌な奴だ。

「余裕だな、嬢ちゃん?」

「ええ、余裕です。だって私、魔族だもん。人間の放った魔法は人間に当たらないように、魔王様の魔法は私には通用しませんからねー」

 出かける前に魔王様から言われた「魔族になったんだから、人間の攻撃が当たるぞ気をつけろ」って話が、ここにきて役立った。魔王様、ありがとう! おかげで今、私最高のドヤ顔してるよっ!

「雷嵐暴走の対象は無差別だが?」

「……へ?」

「お前の言うように、基本的に同族間での攻撃や魔法は無効だ。が、あくまでそれは基本的な話。雷嵐暴走みたいな禁呪に、そのような法則は通用しない」

「なんですとー!?」

「くっくっく。お前は魔王がそれほど怒ってないと踏んだようだが、どうやら早合点だったようだな?」

「ふふふ、魔王様、檄おこなの」

 あわわわわわ、そうだった、魔王様はなんだかんだでやられたらやり返す人だった。優しい人だけど、失敗にはそれなりの報いを与えるタイプっていうか、なんていうか、と、とにかく!

「入れて! 今すぐ私も障壁の中に入れてくださいー!」

 お願いします! じゃないと、ホントに死んじゃう!

「いやぁ、入れてやりたいのはやまやまだけどな。この手の障壁は一度展開すると破られるか解除されるまで中には誰も通せないんだわ、嬢ちゃん」

「そ、そこをなんとか!」

「なんとかと言われてもなぁ……あ?」

 あ? なに、なんかいい方法でも思いついた、ニトロさん?

「魔方陣完成。雷嵐暴走、来るぞ!」

 ぎゃー。そっちかーっ!?

 コウエさんの言葉に、みんなが障壁の中でしゃがみ込む。

 そ、そうか、雷って高いところに落ちるっていうもんね、私もしゃがまないと。

 いや、しゃがむだけじゃ障壁のない私には分が悪すぎる。もっと低くならないと。

 そんなわけで私は地面にうつ伏せに寝転がった。

 上空からゴロゴロと轟く雷鳴だけが聞こえてくる……。

 うう、怖い。怖いよう。

 迫り来る危機への不安に押し潰されてしまいそうになる。

 あうあうあー、やっぱり、うつ伏せはダメだ。何も見えず、その時をただ待つのは怖すぎるヨ。

 仕方なく私は地面でもぞもぞと体をよじる。見たくはないけれど、見るしかない上空の様子が瞳に飛び込んでくる。妖しく光り輝く魔方陣。空一面を覆いつくす黒い雲は、今すぐにでも地上へと駆け下りようと意気込む幾筋ものの稲妻を携えている。

 空の向こうには天国があると聞くけれど、今見えているのは間違いなく地獄の入り口だった。

「あ!」

 そしてついに地獄から。

 無数の光の竜が飛び出してきた!

 

 それは一瞬で世界を焦げた臭いで充満させた。

 ホント、雷嵐暴走とはよく言ったものだ。数え切れないほどの雷が、まるで嵐のようにありとあらゆるものに襲いかかる。地面は黒く焼かれ、大木は炎に包まれ……そしてもちろん、冒険者たちの魔法障壁だって例外じゃなかった。

 魔法障壁が破られ、あちらこちらで悲鳴が上がった、と思う。

 状況を目の前にしながら「思う」なんて言うのも変な話だけど、それも仕方がない。

 雷の爆音がすべての音を掻き消していたし、それになにより

「うぉ! うはっ! おおっと!」

 私も生き延びようと必死だったからだ。

 ホントぎりぎりの攻防が続いていた。

 まず第一弾、ピカっと光って思わず縮こまった両足の先に、雷が落っこちた。

 うおおおお、あぶなーいと叫ぶヒマもなく襲い掛かった雷第二弾は、私の横腹を掠めるように落ちた。

 第三弾に至ってはスカートが燃えた。慌てて鎮火すべく体をごろごろさせて転げる私を、追いかけるように第四弾、五弾、六弾が次々と飛来する!

 なんだこれ?

 なんか私を狙ってないか!?

 天から疾走する雷に意志なんてないはずなのに、どうにも私にお仕置きを喰らわせようとするどこかの魔王様の魂が乗り移っているように感じられてしょうがないのだった。


読んでくれてありがとうございます。

さすがに最近は仕事が忙しくて、一回の更新による文字数が少なくなっております。申し訳ありません。本当はもうちょっと書き込みたいのですが……えっ、これぐらいでいい? 欝描写はやめろ?

ええ、二章のドラコブレスは反省してます、はい。


それでは次の更新は12月25日水曜日、12:00を予定しております。

次回もよろしくお願いいたします。

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