表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王様のゲーム  作者: タカテン
第一章 勇者様に育てられた私がダメすぎる
5/59

第四話 死、別れ、そして新たなる旅立ち……の失敗

 ボスの攻撃を喰らい、頭を吹き飛ばされた勇者様の亡骸が力なく倒れるのを私は呆然と見つめた。

「勇者様、ここに眠る。辞世の句『ちょ、おま……』は、さすがに情けないから『我が命尽きるとも、この世に光尽きる事なし!』とか適当に伯爵様にはお伝えしておきますね」

 なんとなくつぶやいてみる。

 当然返事は無かった。

 いつもだったら「そんなセンスのない辞世の句なぞ、俺は認めんぞー」って怒るのに。

 いや、もしかしたら「俺と一緒に冒険したおかげでセンスが上がったな」と褒めてくれるかもしれない。

 ……まぁ、褒められても嬉しくないんだけどね。

 私は勇者様だった体を揺さぶってみる。

 頭を吹き飛ばされても勇者様ならもしかして、と思ったのかもしれない。

 でも死体が再び動き出す事なんてなく、代わりに重厚なプレートアーマーの隙間から黒光りするカードが二つ転げ落ちた。

 私と、そして勇者様のステイタスカード。

 拾い上げると、勇者様のカードの表面に私の手が触れ、見慣れた顔が映し出される。二枚目を気取った三枚目の、精一杯かっこつけた表情。その下に見慣れない「DEAD」の文字が浮かび上がっている。

 明らかな死体を見ているのに、私はようやく勇者様がお亡くなりになった事を実感した。

 正直、スケベで、わがままで、私に対して好き勝手放題な人だったし、何一つとして良い想い出なんて無いのだけれど、何故か涙が出そうになって慌てて上を向いた。

 とにかく勇者様の冒険がここで終わったという事は、私の冒険も終わったという事だ。伯爵様にこの結末をお伝えするのは気が重いけど、それは私に課せられた最後の義務というもの。しっかり役目を果たした後、私は、私の人生を生きていこう。

 私は顔を上に向けたまま、うーんと背伸びをした。悲しかったけど、同時に軽やかでもあった。長年縛り付けられていた鎖が解き放たれた感じだ。

 よし、行こう!

 私は、新たなる人生の一歩を踏み出した。



「いや、ちょっと待て!」

 そんな私を引き止める声が……

「あ、やっぱりダメ?」

 回想シーンの流れから上手くこの場を立ち去ろうとした私を、当然だけれどダンジョンのボスは逃してはくれなかった。

 うわん、巧妙に「逃げる」戦術を取ったつもりだったのに。

 やっぱりボス戦に「逃げる」は無効なのだった。



「その場の雰囲気で逃げようとは。先ほどの行動といい、なかなか面白い娘だ」

 ボスがくっくっくと嗤った。実に様になっていた。

「だが、余には効かぬ。残念だったな、娘よ」

 おおう、自称が「余」ときたよ。ますますもってそれっぽいなぁ。

「ふふ、このような状況においても動じぬ、か。ますますもって気に入った。次はどのような奇抜な行動で余を楽しませてくれるのだ?」

 いや、楽しませているつもりは全く無いんですけど。こっちはもう本気でいっぱいいっぱいなんですけどっ。

 私は改めて先ほどのボスの戦いを振り返る。

 激しい炎弾の連射をも可能にしてしまう、底見えぬ魔力。

 そして一撃で勇者様を屠り去った、強力な魔法。

 こんな相手に対して、いまだに武器が『はたき』の私に何が出来るって言うの?

 うん、どう考えても、私に勝ち目なんてこれっぽっちもない。

 だから衝撃的な死・別れ・旅立ちという一連の流れから、なんとか逃亡しようとしたのだけれど、失敗に終わった今はもうお手上げだ。

 と言うことで、私は本当に両手を上げた。降参デス。

 ところがボスは眉を顰めて、不思議そうな面持ちで両手を上げる私を眺めた。

「なんの真似だ?」

 あれ? 意味が通じない? ああ、そうか、この格好って「両手に何も持ってませんよ降参ですよ」というジェスチャー以外にも、世界中から元気を集めていたり、ハラキリアタックを敢行する前動作にも見えるのかもしれない。

 と、すると、アレだ。白旗だ、白旗。どっかに白い布はなかったかな?

 咄嗟に一つ思いつくものがあったけれど、あいにくと私はそれを身に付けていない。

 仕方がないので私は体中をまさぐって、白旗になるような物を探した。

 そうだ、エプロンを外して振ってみようか?

 でも、それって降参に見えるかな、どうかな、なんか逆に相手を煽るみたいな映像が頭に浮かぶんですけど……。

「娘よ、降参という意味は余にも分かる。が、ボス戦で『逃げられない』ように、『降参』なんて選択肢も普通ないであろう?」

「ああ、そうか、しまったっ!」

 言われてみればそうだ。うぐぅ、どうしよう? 

「どうやら分かったようだな」

 私の姿を見て、深く頷くボス。そして

「では、そろそろ死ぬがよい」

 何考えてんだか、いきなり火の玉を飛ばしてきた。

「うわー、あぶなっ!」

 間一髪、体を捻って避ける私。危なかった、ホントに今のはギリギリだった。その証拠に冒険者メイド専用エプロンを縁取るレースにちりちりと炎が燃え移っている。慌てて私はぱんぱんとこれまた冒険者メイド専用グローブ、通称『なべつかみ』を使って鎮火にあたる。

「ほぉ、あれを避けるとは、なかなかの反応だ」

 ぱんぱんとエプロンを叩いている私を見て、ボスはさも楽しそうにニヤリと口角を上げる。

「ならばこれはどうだ!」

 軽く振られるボスの右手。身構える私。でも、何も起こらず、不発かなと思っていると……

「うひゃぁ!」

 ポツリと天井から何かが落ちてきて、私のなべつかみの上でジュッと音を立てて消えた。驚いて上を見てみると、暗闇にいくつもの赤い粒が落ちてくるのが見えた。

 雨。でも、水ではない。

「炎の雨なんて無茶苦茶だぁ!!」

 私は悲鳴を上げながら、なべつかみを頭にかざして逃げ回る。と言って、いつまでも避けられるものでもない。ずぶ濡れ、もとい火だるまにならないよう、凌げそうな場所を探さなければ。

 そうだ! 戦闘開始直後に隠れていた岩陰は……って、うそん、さっきかわした火の玉の直撃を受けて吹き飛んでるしっ!?

 そうこうしているうちに、雨足が少しずつ強まってきた。

 ああ、もうこうなったら仕方ない、これも命ある者が生き残る為だ。

 私は意を決して、床に転がっていたアーマープレートを足を支点に斜めに持ち上げる。

 くそ重っ。

 もう、時間があったら中身を引きずり出して、どっかに放り捨ててやるのになぁ。

「うわっあちちちちっ! 熱いってもー!!」

 でも、火の雨が一粒二粒と私の頭に落ちてくる今、そんな悠長な事はやってらんない。チリチリ頭になる前になんとかしないとっ。

 ふんぬー!

 私は力を振り絞ってなんとか地面と鎧の間に十分な空間が生まれるぐらいに持ち上げる。その空間に体を滑り込ませるのとほぼ同時だった。

 まさに炎のスコール。それまでのポツリポツリが途端にドザザザザザッとばかりに天井から降り注いだ。すぐに止み終わったものの、あんなのを直撃食らったらチリチリ頭どころじゃない。

「あ、危なかったー」

 ピンチを脱してホッと一息。

 が、安心するのも束の間、今度は急速に足元が熱くなって来た。うわん、嫌な予感。すかさずプレートアーマーから飛び出して横っ飛び。案の定、私が居た場所から炎の柱が噴出してきた。

 嗚呼、高々と宙を舞うプレートアーマー……(言うまでもなく中に故勇者様の体が入ってます)。

「なかなかやるっ!」

 けど、情緒なんかお構いなしにボスの攻撃はとまらない。

 ボスが地面をつま先でタッピングする度に、地面から火柱が吹き荒れる。私はもう奇跡的としか言いようのない動きで避け続けた。

「楽しい、楽しいぞ、小娘! お前の悪運が尽きるのが先か、余の魔力が枯れるのが先か、面白い勝負になりそうだ!」

「面白くない! ちっとも面白くないよぉ~」

 泣きそうになりながら、それでも私はよけまくる。

 かくして炎輪、炎弾、炎波、炎柱、ありとあらゆる攻撃が繰り広げられるボスの発狂モードが、延々三十分近く続いたのだった。


 人間というのは自分の事を全て理解しているつもりで、実は全然知らないものらしい。

 私はボスの怒涛の攻撃を、見事に避け続けていた。

 正直、冒険に出るまでの私はこんな俊敏ではなかったから、これはやっぱり遊び半分でご主人様が成長させたLUKとAGIの賜物と考えるべきなのだろう。何の役にも立たないと思っていたら、対弾幕用能力者並みの当たり判定になっていたとはっ。人生、どこでどう転ぶか分からないものだ。

 でも、避け続けているだけでは勝機はないんだよう、困った事に。

 だから、私は

「そんな攻撃なんか効かないわ! 私を倒したいのなら、貴方の究極魔法を放ちなさい!」

 何十発目かの炎弾をかわした後に、ボスを指差して大見得を切った。

 驚きで切れ長の眼を見開くボスに、私は一気に畳み掛ける。

「貴方の究極魔法で私を倒せば貴方の勝ち。倒せなかったら私の勝ちで、私を見逃してやりなさい!」

 そして格好良く上から目線で、情けない事を言ってやった。

 だってしょうがないんだもん。攻撃を避ける事は出来ても、こちとらSTR(腕力)3だぞ。そんな非力でボスを倒せるかっ。

 生き延びるにはボスが「こいつは倒せん」と認め、見逃してくれる以外に考えられなかった。

「余に究極魔法を唱えろ、だと?」

 ボスが呟く。最初は押し殺したような声量だったのが、やがて「くっくっく」と私にもはっきりと聞こえるほどに笑い始めた。

「魔王である余に、このような愚かな提案をする者がいるとは思いもよらなんだわ」

 笑い声は「くっくっく」から「はっはっは」に変わっていた。

 というか、この人、今さりげなくとんでもない自分の正体をカミングアウトしなかったか?

「面白い。面白いぞ、人間よ! その願い、叶えてやろう。この魔王が誇る最強の魔法を、見事避けてみせるがよい! あーはっはっは!!」

 ボス、いや、魔王の笑い声が洞窟に響き渡る。見事な悪人笑い三段活用だったなと感心すると同時に、私のさきほどまでの勢いはどこへやら、額に冷や汗が流れ落ちた。

 魔王? ウソでしょ?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ